ドロロロ……ジュオォーー!
ゴウンゴウンゴウン……
ドォ~~~ン!
お、重い……! こんにちは、ライターのみらいです。突然ですが、栃木のマンホール工場に来ています。
※ちなみにマンホールは40kgほども重量があるので、どう頑張っても持ち上がりませんでした
私は幼い頃から「上を向いて歩きなさい」と言われて育ったので、地面に注目することはなかったんですが……先日ふと見てみると、マンホールって、こんなに色々なデザインがあったんだっけ?とすごく気になったのです。
例えばこれは、多摩動物公園で見つけたマンホール。
動物が描かれていてかわいい~! 外国人観光客のかたも写真を撮っていました。
足立区で見つけたマンホール。
足立区はオーストラリアのベルモントという町と姉妹都市だそう。オーストラリアの代表的な鳥のひとつ、カワセミがデザインされています。
東京ではこのデザインのものをよく見かけますよね。東京都の花が桜なのです。
お花見の時も、桜だけじゃなくてマンホールにも注目したくなりますね!
かっこいい……!
マンホールって1つ1つデザインが凝っていて紋章みたい!
でも、なんでデザインが違うの? 他にも、ご当地柄のマンホールがたくさんあるのかな?
色々気になってきてしまった……!
マンホール工場へ行ってみた!
ということで、マンホール工場に見学にきたわけです。
工場の案内をしてくれるのは、日之出水道機器株式会社の白井さん。
それではマンホールができるまでの、遙かなる道のりを見ていきましょう。
母型準備
まずは、作成するマンホールの母型(おもがた=もとになる型)を選びます。
この倉庫には天井近くまで山のように母型が格納されていて、コンピューターで操作すると自動販売機のようにウイ~ンと動いて、いつでも取り出せるのです。近未来すぎ。
材料準備
マンホールに適した鉄をつくります。スクラップが主材料となり、それを電気炉で溶かして材料にするそう。
画面手前の操作パネルで、巨大なUFOキャッチャーみたいにスクラップをキャッチします。
スクラップを溶かしたものがこちら。
1500度もあるので、間違えて中に入ると人体消滅するそうです。こわっ! ひょっとして……これを使えば完全犯罪が……でき……
材料を型に入れる
特殊な砂で母型の型を取り、そこに先ほど溶かした鉄を流し込みます。この方法を「鋳造」と言います。
冷却後、砂型を壊せば、中からマンホールが出てくるというわけですね。かなり完成に近づいてきました!
仕上げ
この時点では、まだ端はザラザラ・チクチクしています。「バリ」という不要な突起がついているからだそう。
これを丁寧にけずっていきます。ひ、火花が散ってる~~~!
完成品チェック
最後は人間の目で、不具合がないか入念にチェックをします。
ちなみに「マンホールといえば黒い色」というイメージだと思いますが、できたばかりのマンホールは銀色というか、鉄の色をしています。
実は錆(サビ)を防ぐために、黒い塗装をしていたんですね!
カラー塗装
絵が入ったものなど、黒以外のカラーが必要な場合は、職人が手作業で塗装します。
めちゃめちゃ細かい作業なうえ、塗装に使うのは樹脂なので、固まるまでの間に仕上げる必要があります。1時間ほどで全てを完成させなくてはならないそう。
「マンホールのデザインは誰がやっているんですか? 各都市、各自治体の職員?」
「マンホールは、車や人が滑ったり引っかかったりしないよう、均等な滑り抵抗値じゃないといけないんです。一般的なデザイナーでは無理なので、最終的には我々のような専門業者がデザインしますね」
「確かに無地の鉄だったらツルツル滑りそうですね」
完成品がこちら。
キャラクターやロゴ以外の余白部分に、水玉のように小さな丸い凸部分がありますよね? これがなければ「樹脂のみの部分」が多くなって滑りやすくなるというわけです。
樹脂の部分は赤子の肌よりすっべすべ!
浮上試験
「では最後に、『浮上試験』というものを見て頂きましょう。中央のマンホールにご注目ください。マンホールは、ゲリラ豪雨などで浸水しても、マンホールが地面から外れないようになっているんです」
「ハリウッド映画では、よくマンホールがバカーン!とふっとんだりしますが、そうならないための工夫があるんですね? で、いつ始まるんですか?」
「あ、たぶんもうちょっと離れたほうがいいですよ」
「???」
カタッ、カタッ、カタタタタ…………ドシャァァァー!!!
「うわあああぁぁ!! 想定してた以上の噴射だった!」
「どうですかー!? 外れてないでしょう!? 急激に雨が降った場合でも、マンホールが外れずに、空気と水を逃がす機能がついてるんです」
「外れてない。外れてないし、虹が出てる!!」
「工場員から……あなたへのサプライズです(キラッ☆)」
「は?」
というわけで、マンホールの製造工程を見て頂きましたが……工場を見学したらますますマンホールに興味がわいてきてしまった!
今度はさらに深い話を、マンホールの専門家に聞いてみます。
マンホール専門家の門戸を叩こう
この方はマンホールのスペシャリスト、日本グラウンドマンホール工業会の山田秀人さんです。
日本グラウンドマンホール工業会(JGMA)
国内の下水道用マンホール蓋製造メーカー21社で構成する団体。
マンホール蓋の設計基準の全国統一や、安全で安心なマンホール蓋の普及を目的に活動している。
「さきほどマンホール工場を見学してきたんですが、ますますマンホールに興味がわいてしまいました」
「それは良かった。マンホールのことなら何でも聞いてください」
「ではまずデザインについて教えてください。都内や観光地だけでもたくさんの種類がありましたけど、もしかして全国にはもっとデザインがあるんですか?」
「その通りです!マンホールは都市別に必ずデザインが違います。日本にはおよそ1700の都市があるから……」
「1700種類ってことですか!?」
「と、言いたいところなんですが、過去のものも含めてマンホールのデザインは1万種類はあると言われているんですよ」
「予想以上に多かった! 私が見た中では、東京23区には桜、多摩動物公園には動物……という風にその土地にゆかりのあるデザインがされるんですね」
「都市ごとに、その土地の特徴や風土、景観などを意識しながら、考えて作られているんですよ」
「工場でもいくつかマンホールのデザインを見ましたが、もっと色んな場所のマンホールの柄が見たいなあ」
「それでしたら、『マンホールカード』というものがありますよ! こちらをご覧ください」
じゃん!
マンホールカード
下水道広報プラットホーム(GKP)が、全国の自治体と共同発行しているコレクションカード
「各都市のデザインは、これを見ればわかりやすいです」
「わっ、ほんとだ。全国各地のマンホールがカードになってるんだ! 色鮮やかなものが多いですねー!」
「現在マンホールカードの種類は342種類。301都市が参加していて、合計発行枚数は180万枚にのぼります」
これは静岡県・富士市のデザイン。
富士山といえば日本の象徴ということで、すごく人気があるんだそう
これは大阪市のマンホールカード。言わずと知れた大阪城がデザインされてます。
工場で教えてもらった通り、この波しぶきも、滑らないように計算されてデザインされているんですよ!
札幌市は時計台のデザイン。
鮭が遡上してきているのも北海道っぽさがでますね。
岡山といえば日本が誇る昔話、桃太郎。
目のところにこだわりを感じてしまいますね。
多摩市にはキティちゃんのマンホールがあります。『サンリオピューロランド』があるからだそう。
それぞれのカードの裏面には、特徴やデザインの由来などの解説が書かれています。
詳しくは→こちら
「私もマンホールカード欲しくなっちゃいました! どこで買えるんですか?」
「いえ、マンホールカードは無料です。ただし、その土地の役所に行かないと手に入らないんです」
「えぇっ! じゃあ時計台のカードが欲しいなら札幌までいかないといけないの……?」
「そういうことになりますね。現地に行かないとカードが手に入らないというシステムは、地方の観光業を盛り上げることに一役買っているんです。カードを求めて都市を奔走する『マンホーラー』が数多く存在していますから」
「マンホーラー?」
「マンホーラーとは、マンホールを愛する人びとの名称です」
「いや、そうだろうとは思いましたけど、そんな人がいるんですね」
「熱狂的にマンホールを愛する人は、実は結構多いんです。イベントなども開催されてますよ!」
グッズも人気なんだとか。コースターかわいいですね
もっと!マンホールのあれこれ
「ここでちょっと、意外に知られていない事実をお話ししましょうか」
「ゴクリ……」
「今までずっと、『マンホール』『マンホール』と連呼してきましたが、実はあれはマンホールではないんです」
「え!!マンホールじゃないんですか?!」
「マンホールとは、その名の通り下水道を管理する人(マン)が通るための穴(ホール)という意味です。なので『マンホール』というのは、穴のことを指します」
「では、今まで私が『マンホール』と呼んでいた、円くて黒いアレのことは、なんと呼べばいいんですか?」
「あれは、人がマンホールに落ちたりしないように、穴を塞ぐ蓋なんです。だから、厳密には『マンホールの蓋』ですね」
「よくよく考えたらその通りですね。なんで今までそんなことも気が付かずに生活していたのだろう……あれ、どう見ても蓋じゃん!」
「この業界ではグラウンドマンホールとか、人孔蓋とか呼ばれますが……まあ『このグラウンドマンホールが~』と書いてもややこしいと思うので、記事上ではこれからも『マンホール』と呼びましょう」
「そんなことまで考えてくれてありがとうございます。では改めて。業界的には、マンホールの数をバンバン増やせば儲かるんですよね?」
「いえ、現在マンホールの数は1500万個くらいあるんですが、実はこれ以上、もうあまり増えないんです。全国の隅々まで行き渡ってきたので」
「へー!そうなんですね。でも寿命というか、取り換えたりはするんですよね?」
「はい。30年~40年に一度、取り換え作業をします。古いものはコンクリート製のものが多くて、安全性能が今より低いんです」
「工場で見てきましたが、現代のマンホールは鉄でできているんですよね?」
「正確に言うと、ダクタイル鋳鉄という、比較的柔らかい鉄なんです。車道のマンホールは車にバンバン踏まれるので、固すぎると割れてしまうんですね。強い風が吹くと、硬い木は折れてしまうけど、柳は折れないでしょ」
「なるほど。素材は進化を続けてるんですね」
「そうですね。パッと見た感じではわかりにくいですが、デザイン的にも進化を遂げています。カーブのところにあるマンホールは滑りやすいから、デザインをこうして滑りにくくしよう、とかね」
「あの~、思ったんですがそもそもなぜ円盤型なんでしょうか?」
「円形なのは、最も下に落ちにくい形状だからですね。四角だと、斜めにすると落ちちゃうので」
「ハート型とか星型のマンホールがあれば可愛いと思ったんですが、無理ですか?」
「マンホールには基準というのがあるんです。日本下水道協会が寸法や規格、材質などの基準を決めてます。星型とかは無理じゃないかなぁ」
「絶対かわいいのに……。でも今日はマンホールについて色々勉強できたので楽しかったです。最後にひとつお聞きしたいことがあるんですが」
「なんでも聞いてください。マンホールのことをみんなに知ってもらうのが、私の仕事ですから」
「ルパン一味や怪盗キッドなんかが、よくマンホールを開けて下水道から逃げたりしますよね。それって可能なんですか?」
「マンホールには鍵がついているので、一般の人は開けることができません。逃走ルートに下水道を組み込むのはやめたほうがいいですね」
「そう……ですか……では計画を練り直します。今日はありがとうございました……」
「銀行でも襲う気だったんですか?」
まとめ
国民にとって重要な役割を担っている、マンホール。
それは日本が世界に誇る文化物でもあります。実際、外国人観光客がマンホールを撮影してる姿、よく見ますよね。
デザインから製作過程まで全てが奥深かった~!
マンホーラーがカードをもらうために土地を訪れることで、地方創生にも繋がるという、新しい発想も興味深かったですね。私もこれからはマンホーラー目指して、今まで以上にマンホールに注目してみます!
みなさんも、良かったら自分の町のマンホール(のデザイン)を、ハッシュタグ「#マンホールのデザイン」で教えてくださいね!
(おわり)