こんにちは。ライターの菊地です。
先日、ふと立ち寄った雑貨屋さんで見かけたんですが、みなさんこういったものをご存知でしょうか。
これです。「苔(こけ)テラリウム」と言うんだそう。
苔と石と砂を使って、ガラス容器の中に風景を閉じ込める、アートな園芸スタイルとのことなんですが……え? これ苔なの!? 本当に? 道路の端っことか、歩道橋の階段の裏に生えてる、アレ?
そう言われてじっくり見てみれば、確かにそこら中に生えてる『苔』。一体どういう植物なの? いや、そもそもあれは植物なのか?
テラリウムには、いろんな種類の苔が使われてるけど、他にはどんな種類があるの?
気になったので茨城県にあるミュージアムパーク 茨城県自然博物館にやってきました。
なんでもここに、めちゃくちゃ苔に詳しい学芸員がいるらしいんです。
さあ、さっそく奥深い苔の世界をのぞいてみましょう!
ミュージアムパーク 茨城県自然博物館
住所|茨城県坂東市大崎700
入館料|大人 430円〜、高校・大学生 210円〜、子ども 50円〜
営業時間|9:30~17:00(入館は16:30まで)
休館日|要確認
※ちなみのこの博物館、恐竜のロボットや動物の剥製など色んなものが展示されていて超クオリティ高かったです。
世界最強の植物「苔」って一体ナニモノ?
右にいるのが、めちゃくちゃ苔に詳しい学芸員、鵜沢 美穂子(うざわ・みほこ)さん。
苔の本に寄稿したり、苔の企画展を行ったりと多岐にわたり活動する、苔のスペシャリストです。
「今日はよろしくお願いします。『苔テラリウム』を見て以来、歩いてる時でもつい苔を探してしまいます。苔ってそこら中に生えてません?」
「苔は、海と砂漠以外なら、どんな環境にも存在すると言われてますね。もちろん、たくさんの種類がありますから限られた場所でしか生きていけない苔もいますけど」
「海と砂漠以外どこでも……じゃあ南極でも?なんつって」
「南極に生息してる種類もいますね」
「いるんかい!冗談で言ったのに。えーっと、じゃあ火星には?」
「漫画『テラフォーマーズ』でそんな話がありましたね。作品内では火星をテラフォーミングするときに苔(とゴキブリ)が使われていました」
「テラフォーマーズ好きなんですか?」
「苔が出てくる漫画はチェックしてます」
「(どんな理由だよ)でもテラフォーマーズは、あくまで漫画の話では?」
「いえ、様々な条件をクリアすることが前提ですが、火星でも繁殖できる可能性はあります」
「どんだけ強い生き物なんだ……。繁殖って、苔は花が咲いたり種を残したりするんですか?」
「苔は胞子で増えるので、花を咲かせることはありませんね。ちなみにオスとメスで増える有性生殖と、自分のクローンを作って増える無性生殖、どちらでも繁殖できる種類がいます」
「……はい?」
「つまりオスとメスが出会わなくても、子孫を残すことが可能なんです」
「え、なぜ……?」
「理由を聞かれると難しいのですが、動物のように自由に移動できない上に、とても小さな苔が、過酷な環境下で異性と出会うのは至難の技ですよね?」
「まあ、たしかに」
「そのため、運良くメスに巡り合ったら有性生殖を、出会えなければ無性生殖でクローンを増やしていく、という選択にたどり着いたんでしょうね」
「性別の壁って、そんな簡単に乗り越えていいの?」
「他に苔の特徴ってあります?」
「そうですね、乾燥した場合は休眠して耐えられることとか、傷ついても再生するとか、土が要らない種類が多いとか……」
「ちょ、ちょっと待ってください。驚きの生態をサラッと流さないで……! まず、傷ついても再生するというのは?」
「驚異的な再生力をもっているので、傷ついても自力で再生して復活するんです」
「体を再生できるなんて、ドラゴンボールのセルじゃん。いやむしろ、セルは核が傷ついたら再生できないから、苔の方が強い」
「あと、土を必要としない種類が多いって言ってましたよね? そういえば、天空の城ラピュタに登場するロボット兵にも、苔が生えてました。金属の上でも生きられるんですか?」
「ラピュタのロボットにどんな金属が使われているのかはわかりませんが、条件さえ整えば繁殖は可能です」
「いつか人類が滅んだら、地上は苔だらけになっちゃうかも……」
美しいものから変わり種まで!苔の種類
博物館の敷地内に苔庭(苔を育てている場所)があるそうなので、ここからは歩きながら話を聞いていきます。
「ここに生えているのは、ヒナノハイゴケです。鮮やかなオレンジ色を纏うことから、別名クチベニゴケとも呼ばれています。ちょっとルーペで拡大してみましょう」
「本当だ! 先の方のオレンジ色が、口紅を塗っているみたいですね。こうして見ると苔って可愛いかも」
「そうでしょう? しかもこの苔……」
「何かすごい能力が?」
「私の“推し苔”なんです!」
「知らんがな」
「自然博物館の敷地内だけでも、100種類を超える苔が確認されています」
「そんなに!? パッと見だと違いが全然わからない。じゃあ通勤中だけでも、何百種類の苔とすれ違っている可能性があるのか……」
「そうなんですよ。街中ですれ違った苔が記録されるアプリがあったら最高なんですけどね」
「鵜沢さんが出会いたい苔ってあるんですか?」
「ここには生えてませんが、ヒカリゴケなんかは美しくて好きですね」
提供してもらった黄色く光るヒカリゴケの写真。近年は環境の変化により、準絶滅危惧種に指定されている。
「ヒカリゴケ? え、光るの!? 苔が???」
「光るといっても、自ら発光している訳ではないんです。夜にヘッドライトを当てると光ってるように見える道路標識みたいな感じ。反射してるんです」
「色んな種類がいるんだなー。苔の世界、奥が深い!」
「興味を持ってくれたようで嬉しいです。ではここでちょっとしたクイズをお出ししましょう。苔ってどうして小さいんだと思います?」
「いきなりクイズ出してきた。うーん……可愛いから?」
「残念! 答えは『湿度の高い場所が好きだから』でした。地面からは、土に含まれた水分が少しずつ蒸発しています。つまり低い場所のほうがが湿度が高いわけです」
「なるほど。体が小さい方が地面に近くなるから、効率よく湿度を確保できると」
「その通りです。ではさらにもう一問。地面から離れても湿度が高いような場所では、苔はどうなるでしょう?」
「え、さっきの理屈でいうと……大きくなる?」
「正解です! 」
「まじか!」
鵜沢さんが実際にマレーシアで撮影したドウソニア
「これは、湿度の高い地域にのみ生息しているドウソニアという苔です。世界で最も背が高い苔で、60cmを超えることもあります」
「でかっ! それもう木じゃん! そんなにでかい苔がいるんだ」
「面白い苔はまだまだありますよ。例えば、動物の糞や死骸の上にのみ生育するマルダイゴケという苔もいます」
どことなく、禍々しさを感じるマルダイゴケ。海外の寒い地域や高山にしか生息していないため、苔研究家でもあまり見ることができない。
「胞子が成熟すると糞(ふん)のような匂いを出して、ハエをおびき寄せるんですよ。寄ってきたハエに胞子を付着させて、糞や死骸の間を運ばせます。その性質から、『糞ゴケ』と呼ばれることもあります」
「すごい不名誉なアダ名だなぁ……」
「みんな一生懸命、生き方を工夫して生存競争を生き延びようとしてるんですよね。どうですか? 苔、めちゃめちゃおもしろくないですか?」
「めっちゃめちゃ興味深いです。僕はテラリウムで苔に興味を持ったんですが、今日一日ですごく好きになってしまいました。自分でもテラリウムを作ってみようかなぁ」
「良いですね。じゃあ、せっかくなので、この苔庭でテラリウムに適した苔を採集してみましょう!」
※博物館内では普段、動植物の採集は禁止されています。この日は特別に許可をもらって採集しました
これはヒメタチゴケという種類の苔。細長く伸びている先っちょに、胞子の入った袋がついています。
同じように見えますが、こちらはコツボゴケという種類。
「こういった種類の苔をテラリウムに入れると、立体感が出るので、良いアクセントになると思いますよ! さあ、この道具で採ってください」
「これは、もんじゃ焼きのヘラ……?」
「もんじゃのヘラ、すごく使いやすいんですよ!」
というわけで、僕も採集にチャレンジ。苔テラリウムでも人気だというハイゴケの採集に成功!
続いて、葉が毛のようにフサフサしているナガヒツジゴケもGET!! 自分で採ると、愛おしく思えてくるから不思議。
ちなみに、苔の上を踏んで歩いていいのか聞いてみたところ、『同じところばかり踏まなければ大丈夫』とのこと。
それよりも、こんな感じで土から剥がれて裏返ってしまうと、光合成ができないし乾燥して枯れてしまうのでよくないんだそう。
見つけたら、元通りにひっくり返して軽く踏みつけると、地面にそのまま定着しやすいらしいです。
「よーし、これでテラリウムが作れるぞー! 作り方は知らないけど!」
「それでしたら、鎌倉に苔テラリウムを作っている苔専門店があるので、ご紹介しますよ」
※苔を採集する時は、そこが採集可能な場所かどうかを確認しましょう。特に自然度の高い山などでは避けたほうがいいです。採りすぎてしまうと生態系に影響が出るからです
苔の専門店「苔むすび」でテラリウムを教わってみた
こちらが、鵜沢さんにご紹介いただいた苔専門店、その名も『苔むすび』。
オーナーの園田純寛(そのだ・すみひろ)さんに、苔テラリウムの作り方を教えてもらいましょう。
苔むすび
生きた苔を使ったインテリアや苔テラリウムの製作や販売、ワークショップなどを行う苔の専門店。
住所|神奈川県鎌倉市由比ヶ浜2丁目4番地22
営業時間|11:00 - 16:30
定休日|要確認
園田さんの作った苔テラリウム。
こういう作品もあります。すごい!
苔テラリウムに必要な材料一覧
用意するものはこんな感じ。
・苔
・土(園芸用の土でも可)
・お好みで石
・ハサミ
・ピンセット
・霧吹き
※瓶やピンセット、ハサミ、霧吹きは100円ショップのものでもOK(ピンセットは先が曲がってるタイプのものが使いやすいです)
苔テラリウムに適している品種ということで、園田さんが選んでくれたのがこの3種類。左からタマゴケ、ヒノキゴケ、ホソバオキナゴケ。
湿度の高い場所を好む苔の方が、瓶のような密封された環境には向いているそう。
「では僕が実際にお手本を作りながら教えていきますね。まずは瓶の3分の1くらいまで土を入れます。土の表面は平らにするんじゃなくて、勾配をつけてあげると立体感が生まれてオシャレに見えます」
「わ、本当だ! 勾配をつけた途端、断然それっぽくなった!」
「次に、石を配置していきます。大きいものから順に位置を決めると収まりが良くなりますよ」
「どんな石でも良いんですか?」
「基本的にはお好みで大丈夫ですが、海が近い場所で採ってきた素材は、アルカリ性に寄っていることが多いので避けた方がいいかもしれません。あと、人の敷地からは採集しないでくださいね」
「材料に関しては、専門店で買っちゃうのが早いかもしれませんね」
「続いてピンセットで苔を植えていくわけですが……この時、ピンセットの先端が苔より前に出ているようにしてください。苔のほうが先に出ていると、土に負けて曲がってしまい上手く刺さりません」
「それさえわかれば、あとは自分の好きな場所に苔を配置して大丈夫です」
「何を意識して配置すればオシャレに見えますか?」
「うーん。人それぞれのセンスとしか言いようがないんですけど……強いて言うなら、背の高い苔は後ろの方に配置した方が収まりが良いかな」
「皆さんこんな感じで、好きな動物のフィギュアを入れたりもしますね。苔テラリウムには正解があるわけじゃないんで、楽しんでやることが一番です」
「できました」
「早っ! 20分もかかってないですね」
「僕は慣れているので、このくらいの時間で作れますが、初心者の方は1時間くらいかかるかもしれません」
「完成した苔テラリウムは、どういうところに置いたらいいんですか?」
「直射日光には当てないほうがいいですね。かといって暗い場所もよくないので、“なるべく明るい室内”に置いてください。置き場所と管理がよければ2年程度はキレイな状態を保つことができます」
※この時作って頂いた作品は、後日 苔むすびさんにて『ジモコロ』という名前で販売されました。
「よ~し! 苔テラリウムの作り方、大体コツが掴めました! 僕もオフィスに帰ったら、早速作ってみようと思います!」
「はい、頑張ってくださいね!」
~その日の夕方、オフィスにて~
というわけで、博物館の苔庭で採取した苔を使って、園田さんに教わったとおりに土の
勾配や配置を工夫して、自分でも苔テラリウムを作ってみました。
所要時間は1時間くらい。やってみるとわかりますけど、ほんのちょっとしたバランスにもこだわってしまうので、まったく退屈しません。
めちゃくちゃ楽しい。
そして完成したのがこちら!
バァーーン!
動物のフィギュアを入れようかなとも思ったんですが、せっかくだから自分が好きなアニメのフィギュアを封入してみました。
僕の好きなレイジュたんが、森の中で天使のように遊んでいるみたい!素敵!
……と自分では思ってたのに、会社の同僚にはすこぶる評判が悪かったです。
園田さんに「苔テラリウムに正解はない」って言われたハズなんですけど、これ……ありですよね?
自分では超気に入ってるんで、大事にしたいと思います!
まとめ
いかがでしたか?普段は何気なく道端で見かける程度の苔。しかし調べてみると、そこにはめちゃくちゃ奥深い世界が広がっていました。
さらに苔テラリウムは、作っていて楽しいし眺めていれば癒される、ストレス社会に生きる僕たちにピッタリの趣味! みなさんもこれを機に、苔の世界に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか。
それでは今日はこの辺で! 失礼いたしますー!
(おわり)
書いた人:菊地誠
自社メディア事業を手がける西新宿のデジタルマーケティング企業、株式会社キュービックのPR担当。Webディレクター兼ライター。タイ人と2人で暮らしています。動物とぬか漬けが好き。Facebook:菊地 誠 / Twitter:@yutorizuke / 所属:株式会社キュービック