こんにちは、株式会社バーグハンバーグバーグでデザインのアルバイトをしている、お高菜と申します。普段は美術系の大学でデザインを学んでいます。
来年には大学を卒業するので、そろそろ就活の準備をしようかなと思っているのですが……皆さん、こういったものをご存知でしょうか?
こちらは「ポートフォリオ」と呼ばれる作品集。
デザイナーが自分の作品をファイルし、就職先に「私はこういう作品を作っていました」「こんなこともできます」とアピールするための作品集です。
デザイン系の職種の場合、企業はこのポートフォリオを見て学生の力量を判断します。つまり、ポートフォリオの出来が一生を左右すると言っても過言ではありません。
でも……
・ページ数は多い方がいいの?
・作品はどのくらい説明すればいいの?
・そもそも企業は何を知りたくてポートフォリオを見ているの?
など、あまりにも疑問点が多すぎて困っています。
というわけで今回は、就職活動が有利になる「ポートフォリオの作り方」について教えてもらうため、この人に話を聞きに行ってきました。
博報堂アイ・スタジオのクリエイティブディレクター。実際に書類審査や面接で、数多くのポートフォリオを見てきたという。武蔵野美術大学で非常勤講師としても活動中。
博報堂DYグループで、デジタル領域を担うクリエイティブカンパニー。データを起点としたオウンドメディアの企画から制作・運用まで、顧客接点でコミュニケーションを構築するソリューションを提供。クライアント企業のブランド創造と顧客創造の支援をしている。
※今回のポートフォリオの作り方は、あくまで「一般的なアドバイス」であり、博報堂アイ・スタジオの選考基準ではありません
模擬面接してもらおう
「よろしくお願いします。今日はポートフォリオについて教えてもらいに来ました!」
「はい、よろしくお願いします! ではさっそく面接していきましょうか」
「へ? 面接っ……?」
「ポートフォリオの作り方を知りたいというのは、就職のためにってことですよね? なら、弊社にご応募してくれたという体(てい)で、面接形式でお話ししたほうが良いと思います」
「それはそうですけど。じゃあ……お願いします!」
「それではまず、自己紹介と、志望動機を聞かせてもらっていいでしょうか」
「は、はい。私は武蔵野美術大学のデザイン情報科に通うお高菜という者です。おんっ、御社を志望したのは……えーっと、あのその~」
「落ち着いて! 大丈夫です、あくまで模擬面接なんで!」
「はい! 学校ではデザイン、プログラミング、イラストと多岐にわたって勉強をしているので、幅広く~、え~、色々なことがやらせてもらえそうな御社を志望しました」
「なるほど。デザインだけではなく、プログラムやイラストもできると。素晴らしいですね! ではさっそく、ポートフォリオで見せてもらっても良いでしょうか」
「はっ、こちらです」
最初のプロフィールページには、掴みで目立つために自分の顔を大きく入れてみました
「(巨大顔面、メチャメチャにスベってるな……)」
「はい、ざっと目を通しました。では質問ですが、お高菜さんが弊社で働くとした場合、どのように力を発揮して頂けるんでしょうか。作品の中から2個くらい選んで説明してください」
「はい。一つ目はこれです。私がアルバイトをしている会社が運営するWEBメディアの記事で、デザインとイラストを担当しました」
WEBメディア『オモコロ』の記事で使用したイラスト
「当初はイラストを使う予定はなかったのですが、私から是非描かせてほしいと提案しました。結果的にこの記事はSNS上で大きな反響があり、イラストも一役買ったと思っています」
「うんうん、良いですね。イラストもうまい! じゃ次は、他の作品も解説してください」
「こちらの2DCGですが、全てprocessingというプログラミング言語を使い、手続き的に描画しています。私はデザイン、プログラミングの双方に理解がありますので、デザイナーとエンジニア間の橋渡しができる人材として、お役に立てるのではないかと思います」
「なるほど、ありがとうございます。大体わかりました!」
「あの、私のポートフォリオ、どうだったでしょう……?」
「色々お話を聞かせてもらって、思ったのは―」
「むちゃくちゃ勿体無い!ということです! 良い部分がいっぱいあるのに、それを殺してる」
「えっ、じゃあさっきの僕は死んでたんですか」
「はい。完全に死体でした。もったいないなぁ、と思いながら話を聞いていました」
「一体どこが...」
「僕は、良いポートフォリオというのは“たちつてと”……『た行』で説明できると考えています」
「『た行』? 料理の“さしすせそ”みたいな?」
「その通り! 具体的にはこんな感じですね」
「短時間で読めて、他人との違いが明確に伝わり、将来像が見え、手に取りやすく、整っていること。この5つのポイントを抑えれば、必ず良いポートフォリオを作ることができるんです」
「おぉ! 全デザイナー志望の学生のために、詳しく教えてください!」
ダメ出しをしてもらおう
「望月さんのおっしゃる『た行のポートフォリオ』、それと照らし合わせて、私のは何がいけなかったんでしょうか」
「全部がダメというわけではないんです。まず『た行の“た”=短時間で読めるか?』で言うと、分量は丁度よかったですね」
「ありがとうございます! このポートフォリオは10作品・22ページにしたんですが……ページが少ないと見劣りしてしまうんじゃないかと心配してました。100ページくらいあった方がいいのかなと」
「いやいや、100ページも見てくれる採用担当者はいないと思いますよ! 分量を見せたいなら別途冊子にするとか、webページを作ってリンクを貼るとかすればいいですね」
「ではポートフォリオ自体の分量は、どれくらいがベストなんでしょう?」
「そうですね……デザインの採用担当者って基本的に忙しいから、おそらく一人あたりにかける時間は5分くらいじゃないかな? とすると、15ページ前後でも良いくらいです」
約15ページといっても、どの要素にどれくらいのボリュームを割くかは熟考しよう!
こういうバランスとか……
こういうバランスもありです
「15ページ……そんなに少なくていいんですか!? ていうか、ポートフォリオが見られる時間って、たった5分なんですね」
「それくらいが一般的じゃないかなぁ。本当はもっと時間をかけたいんですけどね。でも、デザインって『短時間でズバッと伝える』能力が必要な仕事でもありますから」
「『た行』で言うと他の……“ちつてと”はどうだったでしょうか」
「『て=手に取りやすい』と、『と=整っている』に関しては、うまく作られていると思いますね。シンプルに必要なものを並べてあるし、見やすく配置されてもいる」
「ありがとうございます!」
「ただし! 『ち=違いがわかる』と『つ=作りたい未来が見える(将来像)』に関しては、あまりよろしくないかもしれません。そこがさっき言った『もったいない』部分です」
「うっ! 一体どこが?」
「このポートフォリオからは、あなたという人間が見えてきません。作品がたくさん載ってはいますが、やってきたことの単純な要約でしかない」
「それではダメなんですか?」
「例えば、魔法少女の企画の時に、自分からイラストの提案をしたって言ってましたよね? つまり、企画力があり、さらにイラストが描ける人ってこと……それってすごいアピールポイントじゃないですか。でもポートフォリオだけをパッと見ると、ただイラストを描ける人でしかない」
概要はあるが、どのように作られたかの説明が不十分
「確かに。大まかな概要以外は、ほとんど何も説明していません」
「その作品はどのようにして生まれたか? あなたはどう考え、どう関わったのか? というプロセスがあるだけで、デザイナーとしての人物像がとても想像しやすくなります。失敗談でもいいんです。試行錯誤の過程を見せてください」
「詳しいことは聞かれた時に話せばいいや、という生半可な気持ちでいました」
「この2DCGも、全部プログラム的に……演算で描いてるんですよね? でもそこがうまく売り込まれていない。ちゃんと説明しないと、ただの松のイラストですよ」
演算により描画した2DCGの紹介ページ。一体どういう仕組みの作品なのか全く分からないような構成となっています。
「面接ってだいたい30分くらいなんですけど、こちらとしては、短い時間でなるべくあなたの情報を知りたいんです。入社してから何がしたいかとか。ポートフォリオに書けることはそこで説明しておけば、時間の有効活用にもなります」
「100%完全におっしゃる通りです」
「ちなみにお高菜さんは、人前で喋ることが得意な方ですか?」
「この世で一番苦手です」
「クリエイター志望の学生さんは、喋るのが苦手という人も多いんです。そういう人こそ、ポートフォリオ内でしっかり説明することを徹底した方がいいですね。ポートフォリオが台本代わりになりますから。ただし、要点を絞って簡潔にね」
「なるほど……! 僕は喋っている最中に頭が真っ白になるタイプなので、しっかり書こうと思います」
「あと、面接時には必ず将来のことについて聞かれます。『た行』の『つ=作りたい未来』ですね。学生さんの“やりたいこと”が見えれば、こちらとしてもどこで活かすか考えられるわけです」
「うっ……確かに私のポートフォリオは、イラストレーターになりたいのか、プログラマーになりたいのかが見えてこないですね……」
「将来こういうことがやりたい!というビジョンを持ってる人のほうが、働く人間としては断然強いんです。他の人からするとバカげてると思われるようなビジョンでもいい。『これをやりたいんだ!』というのを見せてほしいですね」
ポートフォリオは企業ごとに作り分ける?
「もう一つ気になったのは……お高菜さん、実はうちの会社のこと、よく知らないでしょってこと」
「……! 確かに勉強不足だったかもしれません、すみません。どこからバレたんですか?」
面接時に知っておくべきこと
「いや、面接官も何十人・何百人と面接してきたわけですから、表情や喋り方で大体わかりますよ。今回の場合、ポートフォリオからもそれが伝わってきます」
「ポートフォリオから? どういうことですか!?」
「例えば、博報堂アイ・スタジオが、『広告も手がけるデジタルプロダクション』ということは、ご存知だと思いますが……」
「も、も、も、もちろんです」
「そういった会社にポートフォリオを見せるなら、企画とデザインが噛み合ったものを冒頭に持ってきて、次にそれを支える技術力をプログラミング課題で示し、最後に自分の好きなイラストの仕事を見せる、といった構成が良いはずです」
「!」
「なのに、お高菜さんのポートフォリオは、1ページ目にプログラミング、次にイラスト、という構成になってる。エントリーした会社のことをよく知っていたら、売りをアピールできる順番に入れ替えたほうがいいですね」
「というか、ポートフォリオって会社ごとにカスタマイズするものなんですか? 実は、どの会社にも同じポートフォリオを出そうと思っていました...」
私のポートフォリオの構成です。あまり深く考えず、プログラミング、web、グラフィックデザイン、イラストと順番に並べてしまっています。
「作り分けは大変だから気持ちはわかるんですけどね。面接する会社としては1 to 1で来てるっていう姿勢を見せて欲しいじゃないですか。作品の順番を入れ替えるとかは比較的簡単にできるわけだし」
「web制作会社だったらweb系の作品を最初に持ってくるとか、そういうことでしょうか」
「そうそう。女の子を口説く時も、まず相手の好きなものの話から入っていくべきじゃないですか。自分の個性を出していくのはその後」
「なぜ急に女の子を口説く話になったの……」
企業によって優先して表現すべき能力は違ってくる
「相手の企業にぴったりな、推しの作品を最初に持ってきたら、面接官にモテる、ということですね」
「そういうこと。面接の最初に『2~3作品くらい説明して』って言いましたよね? その時に、企業側が求めている方向性の作品を挙げると良いですね」
また致命的なミスが...
「あの~、横から突然すいません。カメラで撮っててすごく気になってたことがあるんですが」
「はい。何でしょう」
「最後のページにあった、これはセーフなんですか?」
ここに……
世界堂(文房具店)1200円の値札
「うわっ! 完全に見逃してた!」
「これはない(笑)! 本番でやったらあまり良い印象は持たれないでしょうね。詰めが甘いとか、ズボラと思われるかも」
「値段までバレてしまった。ちなみに、1200円って、どうなんでしょう? ちょっと安いのかな……」
「値段はこれくらいでいいと思いますよ。あまり高くてもね……何冊も作るんだから大変でしょう?」
「例えばですけど、ポートフォリオの表紙が革張りだったり、金箔が施されてたりしたら、評価は上がりますか? 高級和紙にプリントされてるとか」
「エディトリアル系の会社なら上がるかもしれないですけど……一般的なデザイン部署では上がらないでしょうね。やっぱり中身が大事です」
「じゃこの値札が10万円だったとしても、『おっ!』とはならないってことですか」
「10万円のファイル持ってこられたら、ちょっと怖いです」
「カネで何とかするのは難しいんですね……」
「装丁については、そこでポイントを稼ごうとするより、見る人を不快にさせない、という視点が大事だと思います。手に取りやすく、見やすいものを作るよう心がけましょう」
「多くの人の手に渡るだろうから指紋がつきやすい……だったら指紋の目立たない白い装丁にしようとか。女性にプレゼントを贈るときのように、相手のことを想像する力が大切です」
「なんで全部のアドバイスが、女性を口説くことに紐付いてるんですか」
ポートフォリオ作りで一番大切なこととは?
「僕のポートフォリオがいかに駄目だったか、よくわかりました。ポートフォリオを良いものにするためには、こうして人に見てもらうことが一番の近道ですね」
「ポートフォリオは『自分の良さと強みを、あなたのことを知らない複数の人に伝える』ためにあります。最適な形になっているかを確認するには、やはり他人に見てもらうことが近道になるでしょう」
「はい。できるだけ自分のことを伝えられるように頑張ります」
「僕たちも、できるだけ学生さんのことを知りたいんです。採用っていうのは人生に少なからず影響を及ぼすものであって、生半可な判断はできませんから。お互い本気でやりましょう!」
ちなみに、巨大顔面については「目立つのは悪いことではないけど、最初に目立つものを持ってくるなら、次ページからも同じ温度感のデザインで作るべき」とのこと。その通り過ぎてお恥ずかしい……
「それと、これも大事なことなんですが、学生さんにも企業を値踏みしてほしいです。大事にしてくれそうにないとか、相性が悪いとか、そう感じたらすぐに引いた方がいいです」
「企業側からそんな言葉が出てくるなんて、親切すぎますね...! 自分の人生を大きく決める選択ですし、そういう気持ちで臨んでみようと思います」
「結局一番大切なことは自分が将来何がやりたいのか?です。例え面接に落ちてしまったとしても、ポートフォリオを作ることは、将来を見つめ直すいいキッカケになると思います」
「ありがとうございます。一流企業のデザイナーになって、ガバガバ稼げるようになるために、がんばります!」
「正直すぎるのはダメです」
「今回は簡単な面接と、ポートフォリオを見てもらったわけですが……最後にこれだけお聞きしていいでしょうか。多くの採用に関わってきた望月さんから見て、私の総合評価は……いかがでしたか!?」
「う~ん。ポテンシャルは感じるし、悪くはないんですけど。そうですね、えーっと……どう言えばいいかな……」
「………」
「…………」
「今日は取材させて頂いてありがとうございました」
「あ、はい。悪くはなかったです。これはマジで」
まとめ
というわけで今回は、就職活動のためにポートフォリオの作り方を教えてもらいました。
良いポートフォリオは、ただ作品を並べただけではなく、相手の視点に立って、何を求めているのか判断する必要があるんですね。というか、それこそ「デザイナーがもっとも重視すべき能力」。
今回教えてもらった『ポートフォリオ作りのための“たちつてと”』を参考にして、最高のポートフォリオを作ってみたいと思います。
では今回のまとめをどうぞ!
▼ページ数は15P前後でOK
└ただしどのようなバランスで要素を振り分けるかは吟味する
▼企業によって作品を入れ替える
└推し作品とそうでないものは明確に分ける
▼時間短縮のため、ポートフォリオ内で説明をちゃんとしよう
└喋るのが苦手な人は、台本代わりにもなる
▼面接を受ける企業のことはよく調べて、何を求めているか考えよう
└知ってるフリしても大体バレてる!!!
▼高価な装丁にする必要はない
└1200円とかで十分。装丁はあまりポイントにならない
▼将来何をしたいのか語れるようになろう!
└でないと、企業側も使い道がわからない
なお、今回 話に出た「『た行』で作る良いポートフォリオ」は、望月さんが詳細を自身のnoteにまとめてくれています。
メチャメチャわかりやすくて勉強になるので、参考にして、みなさんも就職活動がんばってくださいね!
(おわり)
書いた人:お高菜
株式会社バーグハンバーグバーグ所属のアルバイト。1つのことに集中力が30分と続かないため、デザイン、イラスト、プログラミング、記事書きと様々な分野に手を出している。
Twitter:ohtakana