学生時代、クラスにひとりは「人気者」っていませんでしたか?
別に“完璧な人間”ってわけではなくて、もちろん不器用な面があったり、連絡無精だったり、どこか欠落している部分もある。それなのに、なぜか誰からも好かれている……そんな人物です。
不思議なカリスマ性を持った人間は、僕も30年近く生きてきた中で何度も目にしてきましたが、先日久しぶりに「この人はすっごいな!!!?」と思う人にお会いする機会がありました。
それが……
3万人の動員を誇る人気フェス「森、道、市場」の主催者・岩瀬貴己さんです!
岩瀬貴己さん
愛知県岡崎市在住。イベント「森、道、市場」の主催者。本業は建築関係。
イベントを毎年続けるだけで死ぬほど大変なのに、規模を毎回拡大しながらもほぼワンマンに近い体制で運営の中心にいる岩瀬さん。
・出店する300店舗と直接、一人で連絡をとっている
・運営側が利益をとらず、チケットは破格の値段
・駐車場確保のため、遊園地を大人借り
など、「森、道、市場」の運営において常人離れしたエピソードには事欠きません。
ジモコロでも過去にその多忙っぷりを取材しましたが、きっとそのエネルギーや求心力には、何か裏側があるはず。
そこで今回は「岩瀬貴己」というカリスマについて、岩瀬さんの周りの人たちの協力を仰ぎながら徹底解剖してみました!
大型フェスのイベント運営者や“なんとなく人気な人”の特徴に興味がある方は、是非ご一読ください!
降り立ったのは、愛知県岡崎市
岩瀬さんが何故多くの人を巻き込むことに成功しているのか? その理由を探るため、僕は岩瀬さんの地元でもある愛知県岡崎市に向かっていました。
なんでもこの岡崎市で、岩瀬さんも企画に携わっている「食」と「音楽」のエンタテインメント・イベント「EATBEAT!」が開かれるらしいのです。
2017年の森、道、市場内コンテンツとしても開催され、大盛り上がりだった「EATBEAT!」。今回は森、道、市場ゆかりの方たちを中心に完全招待制での開催です。
穏やかな気候の中、岡崎城やゆるキャラ・おかざえもんで有名な岡崎市東岡崎駅に降り立ちました。
岩瀬さんたちとの待ち合わせ場所は、岡崎城も目の前の乙川(おとがわ)河川敷。
着いたらおっしゃれな人たちがテントを囲んでいて、ここから始まる「EATBEAT!」および前夜祭のための食材の仕込みや設営準備が行われていました。
完全招待制だけあって、主催者と参加者の距離がとにかく近い。みんなで作るイベントといった空気がやわらかく広がっていて、大人の文化祭感がありました。
手が空いた人は自家製のジュース(写真左上。レモンとジンジャーがトロトロなのにスッキリしてて最高に美味)を飲みつつ、乙川クルーズを楽しむ。ゆっくりと自己紹介するような間もなくコンテンツが押し寄せます。
夜は会場を移して、「EATBEAT!」前夜祭。
全員、「食」へのこだわりが強い料理人ばかりなので、「食べる側」と「作る側」が瞬く間に入れ替わって、とても賑やか。
盛り付けもオシャレながら、食材も岡崎市で採れたもので作られた前菜や、生地をこねるところから見せたり、体験させたりしながら作るピザや蕎麦。「食」ってこんなにエンタメ性があるものかと、ビビりました。
そしてこちらのお二方が、「EATBEAT!」主催のヘンリーワークさん(左・音楽担当)と堀田裕介さん(右・食担当)。
「今日はあくまでも前夜祭ですよ」と改めてアナウンスされるほどの盛り上がり。一体なんなんだ、「EATBEAT!」!
ちょうどいい加減にお酒も入ったところで、数名の方に「皆さんから見た岩瀬さんって、どんな人?」という質問を投げかけてみました。
森道1年目から出店している長尾さんから見た「岩瀬さん」
まずお話を伺うのは、石窯を積んだ車で移動販売を行う「石窯 in car pachipachi」の長尾晃久さん。長尾さんが石窯で焼いたピザは絶品です。
「長尾さんは『森、道、市場』(以下、『森道』)の第1回から出店されているんですよね?」
「そうですね。しかも、僕が個人でお店を出したのも、森道が初めてだったんですよ」
「じゃあ、お互いに実績がないところからだったんですね。声をかけたのはどちらから?」
「一応むこうから誘ってくれたのかな。でも、間に合うか最後まで怪しかったのを覚えています。保健所から営業許可が下りたのも、森道本番の二日前。寝ずに本番を迎えました(笑)」
「すごいスピード感!」
「初回からずっと出ているとなると、変化していった森道についての思いなどもありますか? 」
「いや、それはないかも(笑)」
「ないんですか(笑)⁈」
「僕みたくワンオペ気味の店はとくにそうだと思うんですけど、出店者ってほかのお店やステージを見る余裕がほとんどないんですよ。第1回から全部出ていますけど、会場を回れたのは第2回だけだった気がするなぁ」
「厳しい!」
「あとはずーーーーっと店のブースにいて、抜けるときはトイレに行くときくらいですもん。他の時間は仕込みとかがあるから」
「想像以上にシビアな世界であることがわかりました」
「長尾さんから見て、岩瀬さんってどんな印象がありますか?」
「第1回から感じているのは、“やさしい”。それは話している雰囲気もそうだし、出店者への気遣いとかでたびたび感じます。出店料とかも、この規模のフェスにしたらめちゃくちゃ安いんですよ。そういう利他的な配慮を利かせられるところかなあ。まあ、話は通じないんですけど」
「え! 通じないんですか(笑)!」
「うん(笑)。なんか『お互い言ってることわかってねえな』って思うときとか、結構ありますよ。でも、なぜか仲はいい。冷静に考えると不思議でしょ? そこが岩瀬さんの魅力だし、やっぱり人にやさしいんだろうなあって思います」
「なるほど、確かに不思議な関係性ですね……。ありがとうございました!」
3年前から交流がある堀田さんから見た「岩瀬さん」
続いて、2年前から森道に参加し、激ウマな文化干しの鯖「もの凄い鯖」を販売している堀田幸作さんにも話を伺ってみました。
「堀田さんは、いつから岩瀬さんとつながりがあるんですか?」
「2015年にミコト屋っていう“旅する八百屋さん”のお手伝いで初めて森道に参加させてもらって、そこで岩瀬さんを紹介されました。翌年からは、僕がやっている『もの凄い鯖』の名前で出店させてもらっています」
「堀田さんから見て、森道を支える岩瀬さんって、どんな人だと思います?」
「んんーー、岩瀬さんっていうか……」
「『モリミチ』を語るなら、岩瀬さんと山田さんのふたりセットじゃなきゃ、って感じっすよね」
「山田さん……?」
「そう。岩瀬さんと山田さん、ふたりでやっているイメージが強いんですよ、森道は」
「ナルホド……?」
こちらが山田さん。たしかに岩瀬さんとよくコミュニケーションを取っていた気がする……。
「ふたりがいつからタッグ組んでるのかわからないですけど、『すげえ!』って思うことがあって。森道も今日の『EATBEAT!』も参加人数が多いし、準備しなきゃいけないこともめちゃくちゃあるじゃないですか。それなのに、このふたりは当日になっても、あんまりピリピリしていないんですよね」
「たしかに、今日も50人近く参加してるのに、余裕そうですよね?」
「僕だったら、森道みたいに規模の大きいイベントの運営をやると、ナイーブになりそう。でも岩瀬さんたちは、そういうのを一切感じさせないんですよ。そういった余裕を見せるオーラを持っていると思います」
「あと、『コミュニティづくり』とか『プラットフォームづくり』って言う人結構いるけど、僕はそういう言葉、しっくりこないんですよね。それって作るものか? って思っちゃう。でも、岩瀬さんは『おもしろいこと、やろう』って感覚で動いて、『そのときにこの人いたら、楽しそうだよね』って基準で声をかけて集めているんじゃないかな~。たぶんあれ、責任取ろうとしてないんですよ(笑)」
「そうなんですか??」
「ノリで動いて、なんならその後、言ったこと自体忘れてるときもあると思うんです。でも、その軽さに多くの人が巻き込まれちゃうんだと思うし、距離感もちょうどいいんだと思います」
「なるほど」
「今日の『EATBEAT!』もこれだけのメンバーが集まったけど、『今回の趣旨ってなんだっけ?』とか『なんのためにやってんだっけ?』とか、実はみんなわかってないんだよね(笑)。で、それぞれが勝手に料理したり行動したりしているのに、なぜか一体感が出て盛り上がっている。これが自然にできてるのが、すげえんだよな~」
「自然体で熱狂を生んでいるんですもんねえ」
「そうそう。誰にも強制しないし、『こうじゃなきゃいけない』みたいなものがない。そのうえ、『おれたちカッコいいよね~』って見栄もないんですよ。それがかっこいいよね」
「たしかに、自然体で、“カッコつけないのにカッコいい”のが、一番カッコいいですもんね。ありがとうございました!」
お二人に話を聞いて浮かび上がってきたのは、岩瀬さんの“距離感”が絶妙であること。
一体感をあえて散らして、全員を主役にさせる。そんな仕組みが自然とできているのが、岩瀬さんをカリスマ的な運営者にしている理由な気がしてきました。
そんなインタビュー含め、豪華な食材と料理人によるぜいたくすぎる前夜祭は深夜2時近くまで続きました。(酔っていて記憶が曖昧)
そしてとうとう、EATBEAT! 当日へ!!
そして始まる、最高すぎる2日目
2日目は乙川で豪華なバーベキューからスタート。天候は微妙だけれど、ずっといい匂いがしています。
出てくる食材もすごい。豚とイノシシの合いの子を、下北沢の有名店サーモンアンドトラウトの森枝シェフが調理してました。どんだけ豪華やねん。
「EATBEAT!」主催のヘンリーさんはチョーク・アーティストでもあり、彼のライブペインティングも。おしゃれな看板がたちまちできあがる快感。
そして徐々に日は沈み、EATBEAT!本番がスタート!
改めて、EATBEAT!主催の堀田さんとヘンリーさんによるイベント説明。
EATBEAT!は、野菜を切る音、煮る音、炙る音、いろんな調理音と食べる音をサンプリングして、それをもとにBGMを作っていく“食べるエレクトロニカ”。
たとえばニンジンをみんながかじる音をサンプリングしたり、
調理する音をそれに重ねたりしていくわけです。
音楽と食が相互に高めあっていく感じ、めちゃグルーヴ感あってノれる。
EATBEAT! 始まった! スティック野菜を齧った音をサンプリングしてBGMにしてる。会場がすごい。#eatbeat#yusuke_hotta#chalkboy#岡崎#岡崎城#pv撮影#森道市場#eatbeat_in_森道市場2018pic.twitter.com/1VTdfVQwCF
— カツセ (@katsuse_w) 2017年10月28日
「モリミチ」を初期から支えてきた“もう一人の主催者”山田さんから見た岩瀬さん
そんな盛り上がりを見せるイベント中、しれっと話を聞いてみたのは、岩瀬さんとこれまで二人三脚で森道を作ってきた山田さん。インカムで常に色んな人ととやりとりしてとても忙しそうでしたが、話しかけたら時間を割いてくださいました。
「いろんな方に話を聞いていたら、山田さんと岩瀬さんってコンビが超大事だってことになったんですけど」
「ああ、人材がいないって課題でもあるんですけどね(笑)」
「どういったところからおふたりの関係が始まったんですか?」
「僕、一回目の森道にはお客さんとして行ったんですよ。行ったというか、辿り着けなかった」
「辿り着けなかった? 森道の会場に??」
「そう。想像以上の来場者数で、大渋滞が起きたんです。その中に、僕がいたんですよ。大多数のクレームが来ているのを、めっちゃ見ていました」
「じゃあ最初は、お客さんと運営者の関係だったんですね。何がきっかけで一緒にやるようになったんですか? 」
「森道とは違う集まりで偶然一緒になったんです。僕は東京から帰って来たばかりで、東京ではバンドをやっていたから音楽関係の知り合いが多かった。そのツテで、第2回の森道からアーティストブッキングをやるようになったんです」
「じゃあ、山田さんがいなかったらアーティストはここまで豪華じゃない?」
「うーん。人生に『たら・れば』はないと思うんですけど、岩瀬さんが当初、そこまで音楽に精通してるわけではなかったかもしれない。今はブッキングに他の人も絡んでるから、住み分けは曖昧になってきてますね。いい意味でのねずみ講みたいに、関わる人それぞれの繋がりで、自然に広がっている感じです」
「なるほど、そこをお二人が『二人三脚』で支えていると」
「岩瀬さんとの関係でいうと、住む場所がすぐ近くになったのも大きいかもしれません。僕が引っ越した場所の目の前に、いい感じの物件が空いていたんですね。その時ちょうど岩瀬さんも独立して事務所を探していたので、そこを紹介したんです。そこからは、会えば森道の話をするようになりましたね」
「じゃあ、『一緒にやろうよ』とか言ったわけではなく、自然とふたりでやるように……?」
「うん。気付けば一緒にやってたから。たぶんそれは皆同じで、やらされ感もないし、かといって『俺すげーやってるぜ!』って感じもないんです。たぶんそれが、あの人の魅力なんすよ。出店者もそうだけど、『森道最高!』って人も、『森道ってなんだろ?』くらいの人も、よくわからないうちにすっごい仲良くなってんの」
「ああ、それは、今日の岩瀬さんを見ていてもイメージがわきます」
「森道のサイトとかコンセプトの文章は僕の方でなんとなく文章化したんですけど、あれも、場の雰囲気とか距離感という視点を大事に作っています。じゃあ僕と岩瀬さんの距離感ってどんなものかって言うと、それもすごい独特で」
「いつもべったり一緒ってわけじゃないんですか?」
「これだけ近い距離にいるのに、連絡を取らないときはまーったく取らないし、会わない。でも、いざ連絡を取り始めると一日何十通のメッセや電話でのやりとりをしたり、晩ご飯を一緒に食べたり。その変な間合いこそ、森道の距離感なのかも。どちらも気負わず、ラクなところにあるんですよ、きっと」
「ああーーー! それ、めちゃくちゃわかります! 2017年の森道に参加しましたけど、客の目線からでも押し付けてくるものがなかった気がします」
「そうそう。岩瀬さんも同じで、あの人は、『働く』とか『遊ぶ』とか『人と時間を過ごす』ってことに対して、全部子供みたいに正直な感覚でいるんですよ。自分が好きな方向に走るんだと思います。それが、岩瀬さんの独特な空気と距離感を生んでるんじゃないかな」
「なーるーほーどー! ありがとうございます! なんだかいろいろ見えた気がしました。勉強になりました!!」
おわりに
こうして、EATBEAT!と岩瀬さんについての取材を終えました。
3万人の熱狂を生んだフェス「森、道、市場」。その運営者である岩瀬さんを紐解いていってわかったことは、岩瀬さんのカリスマ性の要因は、“自然体で生まれる距離感”と“押し付け・やらされ感のなさ”にあるのだと思えました。
暑苦しくもなければ、そっけなさもない。
とはいえ、期待していることは伝え、それでも、強要はしない。
言葉にするとカンタンなようにも聞こえますが、生き方・人との関わり方としてこれを続けるのはかなり難しい。それを本能的にやってのけているからこそ、岩瀬さんが多くの人を惹きつけ、巻き込めているのではないかと思いました。
最後に、岩瀬さんご本人からちらっと伺った、もっとも『岩瀬さんと森道』らしすぎるエピソードをお伝えして、本記事を終わりにしたいと思います。
「森道では、出店者が搬入する駐車場の入口の誘導係を、僕と山田のふたりでやっているんですよ(笑)。これ、ほかのフェスではありえないと思うんですけど、僕らはそのタイミングでないと、全出店者と会える機会を作れないから。
一年に一回、「森道」でしか会えない人たちもたくさんいるから、そのために開いているくらいの気持ちもあります。そこで『あー車変えたんや』とかちょっと話すだけでも、なんかつながりって続くし、その環境って、めちゃくちゃいいと思うんですよね」
最高すぎる主催者の、最高すぎるイベント、「森、道、市場」。
2018年は5月11〜13日に開催です! 今年も、楽しみだー!!!!
森、道、市場開催日:5月11日(金)〜13日(日)
会場:大塚海浜緑地(ラグーナビーチ)&遊園地ラグナシア&? @愛知県蒲郡市
●出演アーティスト
OGRE YOU ASSHOLE / okadada / ORIGINAL LOVE / GRAPEVINE / KEITA SANO / 国府達矢 / 小西康陽 / 坂本美雨+haruka nakamura / John John Festival / 砂原良徳 / SPECIAL OTHERS ACOUSTIC / DAVE CROWE / トクマルシューゴ / tricot / 七尾旅人 / BAD HOP / 般若 / fhána / フレデリック / PES / Polaris / mabanua / yonige / Ryu matsuyama / ASIAN KUNG-FU GENERATION / 大沢伸一 / 大橋トリオ / Otto & Orabu / odd eyes / odol / 漢 & D.O×DJ BAKU / キュウソネコカミ / 小嶋ケイタニーラヴ / Salyu / 水中、それは苦しい / 水曜日のカンパネラ / tofubeats / 蓮沼執太フィル / 石野卓球 / UA / 掟ポルシェ / くるり / Base Ball Bear / BOREDOMS / 吉澤嘉代子 / Licaxxx and more…
☆そして、今年の森道にジモコロが出店します!
その名も「ジモコロの家飲み」(5月12日の昼ごろ〜13日の夕方までを予定)。
編集部おすすめのお酒とおつまみをテントで一緒に楽しみましょう! ジモコロの女子ライターたちや編集長の柿次郎がおもてなしします。会場でお待ちしています!
書いた人:カツセマサヒコ
1986年東京生まれ。下北沢の編集プロダクション・プレスラボでライター・編集者経験を経て、2017年4月より独立。 広告記事、取材記事、コラム、エッセイ、Web小説等の執筆および、 メディア運営・企画・取材・編集・拡散等の領域で活動中。趣味はtwitterとスマホの充電。Twitter→@katsuse_m