ギュワーーーン!!!
唸りを上げて走るこちらの「ミニ四駆」、皆さん見覚えありますか?
そう。模型メーカー「タミヤ」の販売するミニ四駆。今年で35周年目を迎えるヒット商品です。
かつて二度の大ブームを巻き起こし、累計販売台数1億8000万台、公式大会への総動員数30万人(1996年)など、数々の記録を打ち立てています。
そして近年「第3次ブーム」と呼ばれるほど、ミニ四駆が再び盛り上がっているのだとか!
そんな第3次ブームを象徴するひとつがこの雑誌。
2014年に、『コロコロコミック』を卒業した中学生〜大人向けとして創刊された『コロコロアニキ 』(小学館)。これがもう、ミニ四駆世代(僕もその1人です)を狙い撃ちなんです。
雑誌『コロコロアニキ』では、ミニ四駆マンガ『ダッシュ! 四駆郎』、そして『爆走兄弟レッツ&ゴー!!』の新作を連載中。ともにアニメ化された大人気作のため、復活の知らせは大きな話題を呼びました。
※前者は第一次ブーム、後者は第二次ブームを象徴する作品です
往年の名マシンたちが蘇り、限定ボディが雑誌の付録に、そして公式HPで通販も……いまや「大人の財力」を手にした我々ですから、それは買ってしまうわけですよ。
さすがポケモンやベイブレードなど数々のブームを生み出した小学館、マーケティングがうま過ぎる。
さらに「最新技術」と合わさった動きも要注目。
このミニ四駆らしからぬデザインのマシンは、3Dプリンターを使って作られたもの。3Dプリンターやセンサーなどの電子工作を駆使した「FAB四駆」なるジャンルも生まれ、ワークショップやイベントが日夜開催されているそうです。
しかし一体、なぜ再びブームが起こったのでしょう?
気になるので第三次ブームの背景を調べてきました!
「ミニ四駆バー」へ潜入!
まずやって来たのは東京・池袋にある「ミニ四駆バーDRiBAR」。どうやらここにファンの間でミニ四駆の生き字引と呼ばれる人物がいるそうなのです。
ビルの6階にあるお店に入ると……巨大なミニ四駆のコースが鎮座!
そして壁にはミニ四駆のカスタマイズ用パーツがずらり。バーというより模型屋レベル!!
驚く僕を、店長のアストさんが出迎えてくれました。
「今日はよろしくお願いします。久しぶりにミニ四駆のコースを見て、早くも興奮してます!」
「お、子どもの頃にやってましたね。じゃあ初めてのミニ四駆ってどのマシンでした?」
「ええっと…たしか『ビートマグナム』です」
「なるほど、では20代後半ですね」
「えっ、今のはミニ四駆好きの挨拶なんですか?」
「世代を知るには今の質問ですね。ミニ四駆の歴史って35年もあるので、世代によって知ってるマシンも全然違うわけですよ。ちなみに僕は『ファルコンJr.』です」
「ということはミニ四駆歴は何年くらいですか?」
「20年以上と言っていますけど、まあずっとやってますね。人生の中でミニ四駆をやってない時間の方が短いです」
「それはすごい。そもそも『ミニ四駆バー』って店があるのを初めて知りました。こんなにミニ四駆好きの大人たちがいるとは……」
「お客さんたち、見るからにミニ四駆に没頭してますよね。バーとして商売は成り立ってますか…?」
「90分1500円・延長30分につき500円の時間制なので大丈夫です」
「大丈夫だった。しかも皆さん、めちゃくちゃパーツ買ってるからむしろ儲かってそう。では皆さん、やはりミニ四駆目的で来ている?」
「そうですね。ミニ四駆のコースは大きいので、自分で持ってる人は少なくて。だから皆さん、うちに来てミニ四駆を走らせるんです」
「ああ、子どもの頃にコースを持ってる友達って貴重でしたね……だから道路で走らせたりコロコロコミックを並べてコースを作ったりして」
「昔は模型店くらいにしかコースはなかったですからね。でもここ数年で状況が変わってきたんですよ」
「そう!ミニ四駆の『第3次ブーム』を調べるために今日は来たんです。なぜ今、こんなに大人のミニ四駆好きが増えているんでしょう?」
「そうですね、きっかけは2012年の『ジャパンカップ復活』だったんです」
“大人もできるミニ四駆”に
「ジャパンカップ!全国をキャラバンして回るミニ四駆の公式大会ですよね。僕も子どもの頃、地元の大会へ出たことがあります」
「1988年に始まったジャパンカップですが、1999年以降は開かれなくなっていました。しかしミニ四駆30周年を迎えた2012年にジャパンカップは復活。その時、大人の出場枠ができたんです」
「出場枠ができるということは、それまでに大人のファンが増えていたということでしょうか」
「2006年くらいから『ミニ四駆PRO』っていう大人も意識したマシンが出たんですよ。実際のクルマに近いデザインで。その頃からじわじわ大人のユーザーが増え始めたんです。さらに大会にも出られるようになって、『大人がやれるミニ四駆』という流れが一気に生まれました」
「なるほど、メーカーであるタミヤ側の仕掛けがまずあったんですね。ミニ四駆ってカスタマイズパーツがとても多いですから、財力のある大人の方がやり込み度が高いですよね」
「そう、パーツだけじゃなく工具にこだわったりモーターを育てたり……奥深い世界ですよ」
「モーターを育てる?」
「新品よりも、ある程度慣らしたモーターの方が性能がいいんです。一番性能のいい状態に持っていくための作業といいますか」
「すごい世界だ…。大人、つまり親世代が再びミニ四駆をやるようになると、親子のミニ四駆ファンも増えたんでしょうか」
「もちろん!親子二世代でやってる人も多いですよ。うちも休日は親子連れもわりと来ます」
「子供と一緒にできる趣味っていいですよね。父親なら子どもにいい格好を見せるチャンスだし、お小遣いを使う言い訳にもなるし……。ちなみに今の子ってどこでミニ四駆に出会うんでしょう?」
「仲間内でやってる子がいたり、今は家電量販店にコースがある場合も多いですから、そこで見て興味を持ったとかはよく聞きます。あと『コロコロイチバン!』で子ども向けのミニ四駆マンガも連載されてますし」
「ミニ四駆といえばコロコロですよね!先ほどの流れでいうと、2006年頃からタミヤの仕掛けでミニ四駆熱が盛り上がり、2012年に爆発。そして2014年に『コロコロアニキ』でかつてのファンたちが戻ってきたと。メーカーとメディアが連携した完璧なマーケティングじゃないですか……!!!」
「ただ、昔ってメーカーや出版社が主導するブームでしたよね。でも今はユーザー発信で盛り上がってるのが面白いと思ってます」
「ユーザー発信、ですか?」
「ブーム」ではなく、もはや「定着」
「昔は『地域ごとのコミュニティ』で楽しんでたと思うんです。地元の模型店中心で、マシン改造の情報を交換して。ある意味、村っぽい感じですよね。でも今はインターネットで繋がって情報共有できる」
「世代も住んでるところも関係ないですもんね。確かに大人も入りやすい環境になってる」
「ちょっと前ならブログの記事で、今ならSNSかな。そうやってユーザー主体で盛り上がってるんです」
「SNSで繋がって、大会やミニ四駆バーで顔を合わせて…昔より楽しみ方が多様化してるんですね」
「はい、『ブーム』って言ったらせいぜい1〜2年でしょう? でも、2012年からと考えると、もう5年目。だから、ブームというよりミニ四駆って遊びが『定着した』と言った方がいいと思いますよ」
「企業側のマーケティングと、さらにネットの普及という時代性と…いろんな要因が合わさって、この大きな盛り上がりが生まれていたんだ。『DRiBAR』のお客さんにも、初心者らしき人がいるようですね」
「マシンも販売してるので、手ぶらで来てもミニ四駆を組んで走らせるところまで楽しめます。毎日通う人もいますけど、『懐かしいな〜』ってふらっと来て楽しむ人も多い。そういうライトな楽しみ方の人が増えてることに、裾野が広がっているのを感じますね」
「なんていい時代!僕も今度また遊びに来ます」
ミニ四駆は最新技術との相性も良い?
さて、裾野が広がっているというミニ四駆ですが、「FAB四駆」もその広がりの一つ。
最新技術を駆使したヤバいミニ四駆もいろいろ生まれています。
例えばこのマシン、発光しながら色が変わっています。
ボディは3Dプリンターを使って成形され、「光散乱導光体ポリマー」という光を拡散する特殊な樹脂素材を使用。サイバー空間を走ってそう!
こちらもボディを3Dプリンタで成形。「諏訪大社」がモチーフなので、ボディ横に立っている4本の茶色い棒は「御柱」。神々しい…!
このマシンはスマホと連動! スタート&ストップ、走る速度などをアプリを通じてコントロールできるそう。ミニ四駆を操作って子どもの頃に妄想したやつだ! すでに現実に…!!!
ここまでの3台は、長野県諏訪市のものづくりメーカーの技術で最強のミニ四駆を作ろう!という「スワッカソン」でつくられたもの。
諏訪市は日本でもトップレベルの精密加工技術が集まる地。その技術をアピールする「SUWAデザインプロジェクト」(主催:諏訪市、企画・運営:(株)ロフトワーク)での今年度のテーマが「ミニ四駆」なのです。
企業や自治体も注目するということは、ミニ四駆と最新技術の相性がいいということ?デザイナーでFAB四駆カルチャーにも詳しい根津孝太さんに話を伺ってみました。
「『FAB四駆』って、普通のミニ四駆とどう違うんでしょう」
「タミヤさんの公式大会って、タミヤ製のパーツを使ったマシンしか出られないんです。でも、公式のレギュレーションにとらわれずに独自の視点で楽しみましょう、っていう流れがあるんですよ」
「なるほど、自作パーツで魔改造されたミニ四駆ってことですね」
「公式の速さを競うレースもいいけれど、ものづくりの技術やアイデアを競うのも面白いですよ。いろんな楽しみ方が増えてるってことかな」
「単純に見ててワクワクしますね」
「ミニ四駆って技術を組み合わせるのにピッタリなプラットフォームなんですよ。パーツやボディを自作したり、電子部品やセンサーを組み込んで走りを制御したり。シンプルに見えて、いろんな可能性がある。自分なりの工夫がいっぱいできるところが教材としてすごく優れていると思いますよ」
「教材ですか! 子どもというより、大人のエンジニアの方に?」
「子どもの時と何が違うって、工学的な知識がついてるじゃない? だから『エンジニアの性格を知るには、ミニ四駆をやらせるといい』って話もあります」
「へえー!そんな言葉が…」
「題材として面白いんですよね。専門技術を生かした自分なりのアプローチが見つけやすいから、大人でも楽しめる」
「実験の場にできるわけですね。ド文系の僕としては、理系の人の楽しみ方がうらやましいです」
「別に敷居は高くないですよ。高度な楽しみ方をしてる人もいますけど、子ども向けのFAB四駆のワークショップだってあります。気軽に遊んでほしいですね」
「なるほど、子どもにできるなら僕だって…ありがとうございます」
おわりに
大人から子どもまで、広く愛されるミニ四駆。30年以上も愛され続け、三度ものブームが起きるホビーはそうそうないでしょう。
そして何より、大人の高度なやりこみも、最新技術すらも受け止めるミニ四駆のポテンシャルの大きさに驚かされる取材でした。
そして、そんな盛り上がりの一端である「スワッカソン」について、こちらの記事で詳しく紹介しています。
「東洋のスイス」とも称される世界レベルの諏訪市の精密加工技術を結集し…
こんな魔改造されたマシンたちが勢揃いし…
ド迫力のレースあり…
男たちのプライドをかけたドラマがあり…
という熱狂の模様をレポートしています。ぜひご覧ください!
僕はミニ四駆熱が再燃したのでショップへ走ります。それではー!!
書いた人:友光だんご
編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。インタビューが好きです。Facebook:友光だんご / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:友光だんご日記 / Mail: dango(a)huuuu.jp