はじめまして。
静岡出身のジモコロライター、田中嘉人(たなかよしと)と申します。
突然ですが、静岡県はマグロ類缶詰(いわゆるツナ缶)の国内シェアが98.6%もあるって知ってました?
しかも『シーチキン』でおなじみのはごろもフーズや、『タイカレーシリーズ』が人気のいなば食品の本社も静岡市にあり、缶詰大国と呼ばれているのです。
※ 出典:「缶詰時報」公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会
そんな中、今回僕が訪れたのは……
ドドドドドド……!
ヒュイン、ヒュイン、ヒュイン、ヒュイン!
ガラ、ガラ、ガラ、ガラ……
ドドン!
これです! 1億3千万人の日本国民全員が、一度は食べたことがある『ホテイのやきとり』!
昭和45年(1970年)から、この商品を作っているのがホテイフーズさん。他社がツナ缶の開発に注力しているのに、なぜよりによって焼き鳥の缶詰をつくっているのでしょうか。
今日はその秘密を探ってみたいと思います!
やきとりの缶詰は、社運をかけた大勝負だった
お話を伺ったのは、ホテイフーズコーポレーション 開発部 商品企画課の水野さん。
「缶詰と言えばツナ缶、というイメージがあるんですが……なぜホテイフーズさんは焼き鳥を選んだんでしょうか? いじわるされてマグロが手に入らなかった?」
「いや、そんな『将太の寿司』みたいな状況はありませんでした。元々はホテイフーズもツナ缶が主力商品だったんです」
「え、そうだったんですか!」
「と言っても、当時はほぼ海外向けという感じで、売上の8割は輸出でした。ところが、高度経済成長期に入ると賃金高騰や為替の変動によって、国際競争力が低下してしまって」
「なるほど。昔の日本は『安く作れる』のが売りだったけど、コストが高くなって海外で売れなくなったわけですね」
「そうですね。かなり危機的な状況だったようです。なので、国内向けにシフトしようと」
「で、焼き鳥を? それまで主力だったツナ缶を、そのまま国内向けに売るという考えはなかったんでしょうか」
「寿司屋に行けばわかりますが、まぐろやカツオは『時価』といって、値段が安定しないんですね。そこで、比較的相場が安定している鶏肉で何かできないか、と考えた結果、焼き鳥になりました」
「『時価』の値札がついてるような、高い寿司屋で食べてらっしゃるんですね」
「今それ重要?」
「当時の缶詰業界のことを推し量ることはできませんが……缶詰で焼き鳥っていうのは、『あり』だったんですか?」
「いえいえ、『缶詰で焼き鳥って(笑)』という状況でした」
「ではどうやって発想したんでしょう? もしかして、アイデアに行き詰まって居酒屋で飲んでる時、たまたま手にした一本の焼き鳥を見て『こ、これだ!』という一幕が……」
「そんなドラマみたいなシーンはありませんでした。普通に会議室で生まれた発想ですね」
「あ、そうですか……」
「昔、缶詰で焼き鳥という発想がなかったのは、『焼き鳥といえば串に刺す』というイメージがあったからです。でも、串は本来、鶏肉をまとめて焼くための工夫であって、味的には串がなくても成立するんです」
「確かにそうですね」
「つまり焼き方さえ工夫すれば、缶詰でも本格的な焼き鳥が食べられる。イケるんじゃないかと」
「そこまで決まれば、あとは順調に発売までこぎつけたって感じですか」
「ところが、焼き鳥の缶詰誕生までの道は、平坦ではありませんでした。特に炭火は火加減が難しくて、当時の開発者たちは研究室に炉をつくって、煙にむせながら試行錯誤を繰り返したそうです」
「ちょ、ちょっと待ってください! え、これって本当に炭火で焼いているんですか? 今も?」
「もちろんです! パッケージにも『国産鶏肉炭火焼』って書いてあるでしょ? そんな炭火へのこだわりが功を奏して、1970年の発売直後から、大ヒットしたんですよ」
「まさか本当に炭火で焼いていたとは……それが一番の驚きでした」
「では、実際にどんな工程で缶詰が作られているのか、見てみますか?」
『ホテイのやきとり』の味を守る、炎の番人
工場の案内は、工場長の松村さんにバトンタッチ。僕も白衣に着替えました
「白衣のサイズ大丈夫ですか?」
「キツキツです。特に頭周りが」
「これが最大サイズなんですけどねぇ……」
「さっそく大量の鶏肉が……! こちらは何をしているところですか?」
「均等に火を入れるために、隙間なく鶏肉を並べています。」
「ということは、この後『焼き』の工程が……?」
「はい。こちらです」
「おぉ、すごい熱量だ……。でも、あれ? 炭火じゃなくてガスバーナー!?」
「まずはこちらのバーナーでじっくりと火を通すんです。次に、仕上げの工程として炭火で焼いていきます。こちらです」
ジュオオオオオオオォォォ!!!!!!
「うわー!!ジュウジュウいってる!!あっつい!!」
「こうやって炭火焼きしてます。鶏肉から落ちた脂の煙でいぶされて、本格的な炭火焼の風味になるんですよ」
あああああああああああああ! 遠赤外線効果ァァァ!!!!
「美味しい焼き鳥をつくるために専門の炭職人が厳しく目を光らせて5~6分に1回くらいのペースでチェックしています。この工程は味のキモですから、本当に気を使います」
「ヤバい、なんておいしそうなんだ。目の前に炭火で焼きの入った鶏肉が大量に……脂の焦げるニオイが堪らない……これ、ちょっと試食しても良いですか? あくまで取材の参考に」
「この段階では、まだ完全に火を通していないんで、食べられないんです。この後、缶ごと加熱殺菌するタイミングで完全に火が通るように計算されてます。それがおいしさの秘密ですね。火を通しすぎると鶏肉が硬くなってしまうので」
「なるほど、いや、忘れてください。オナカが減っていたわけではないんで。ほんと、オナカが減ってたわけでは……ないんで……」
炭火工程のあと、鶏肉は一口大にカットされ―
焦げた部分や皮のみの部分などは目視ではじかれます。
この女性たちの手の動き、ハンパなく早いです。たぶん卓球とかムチャクチャ強いと思う。
そしていよいよ缶に入れられ―
ひとつひとつタレが注入されていきます。店頭に並ぶまでの間に、缶詰内で鶏肉とタレの味がじっくり馴染むんです。
「缶詰内で味が整えられる」というのは業界では常識らしく、例えばツナ缶だと、製造から1年経ったものがオイルの染み込み具合がちょうどおいしいんだそう。役立つ知識!
タレが注入された焼き鳥は密封され、一箇所に集められます
コンテナにびっしりと並べられたら、
こちらの釜で加熱殺菌されます。そして、ようやく出荷されるというわけです
「もっと機械化されていると思ったので、想像以上に人が関わっていたのが驚きでした。1日でどれくらいの缶詰が生産されるんですか?」
「1日約8万缶ですね。1年だと250日稼働だとして……2000万缶ですね」
「ちなみにですが、2000万缶の缶詰を作るために、ニワトリはどれくらい必要なんでしょう」
「どれくらいだろう……おそらく1日1万羽だから1年で250万羽くらい、かな。実は1年に一回、愛知県豊橋市の神社で供養してるんですよ」
社員考案のオススメレシピを大公開!
工場見学を終えて、再びオフィスに戻ってきました
「工場はいかがでしたか?」
「炭火は迫力がすごくて感動しました。おいしそうだったなぁ! まぁ、実際には食べてないんですけどね。おいしそうだったけど、食べてはね、いないんですよね」
「……せっかくなので試食していきますか?」
「え!? いいんですか! やったーーーーーー!
定番のたれ味に始まり、塩味、激辛味、ガーリックペッパー味、柚子こしょう味をご用意いただきました。
あぐっ
うんまい……!
お酒のつまみにピッタリの「塩味」、若者に人気だという「ガーリックペッパー味」、そして缶詰のなかに焼き鳥と煮玉子がまるごと入ってる『やきとりたまご』等など……
これもう缶詰のレベルを遥かに超えちゃってる!
「おいしい~! 特にこの、もっともスタンダードな『たれ味』! 子供の頃から変わらない『これこれ!』っていう味ですね」
「えーっと、実はタレの味は、時代に合わせて進化しているんですよ。最近はりんご果汁などをたれの材料に加えているので、以前と比べてやさしい甘さになっています」
「全然気づかなかった……。でもパッケージの男性イラストだけは、昔から変わってないようですね」
ホテイフーズさんに見せてもらった資料。
写真は昭和50年前後のポスターをまとめたページ。右下に現在も見覚えのある男性のイラストが……
「この男性は誰なんですか? 工場の近くで焼き鳥屋をやってた人がモデルとか?」
「いえ、特にモデルはいないと思います。漫画家のおおば比呂司さんに描いていただいたものなんです。実は名前はありませんが、社内では『ヤキヤキ親父』と呼ばれています」
「え~! もったいない! 名前をつけてグッズを売れば儲かりそう。え~っと、ホテイの缶詰だから『寅泰(トモヤス)』さんではどうですか?」
「怒られそうなので遠慮しときます」
ホテイのやきとり―おいしい食べ方は?
食べながら取材しちゃってすいません。こちらは『やきとりたまご』。煮玉子に味がメチャ染みてる!
「『ホテイのやきとり』の食べ方として、僕が思い出深いのは、バーベキューや焚き火の時に、缶ごと焼き網に乗せるやり方です。屋外でアツアツの焼き鳥を食べるおいしさが……」
「あ、それはやめてください」
「え、え? なぜ?」
「缶の内側は樹脂でコーティングされているからです。缶ごと直火にかけると樹脂が溶けてしまうかもしれません。アツアツで食べたければ、湯せんするか、皿に移してレンジしてくださいね」
「知らなかった……。食べ方といえば、ホームページには『ホテイのやきとり』を使ったアレンジレシピの紹介もありますが、水野さんイチオシのレシピってあります?」
「イチオシですか。ちょっと照れくさいんですけど……」
モジモジと見せてくれたのがこの本。
バターでやきとり(ガーリックペッパー味)とご飯を炒めて、そのうえに目玉焼きを乗せるというガーリックチキンライス。
「数年前にレシピ本を出版することになって、社員でアイデアを出し合ったんです。そのなかのひとつに、僕が考案したものが選ばれまして」
「おぉ、おいしそ~~~! どうやって考えたんですか? 何回も作ってはやり直し……」
「いや、料理はしないんで、想像で考えたレシピだったんですけどね」
「想像かい」
まとめ
いかがだったでしょうか。今回は、誰もが知る『ホテイのやきとり』について、工場にまで潜入して調べてきました。
常識にとらわれることなく、果敢にチャレンジした結果 生み出された商品だったんですね~。
最後に、水野さん考案のレシピを実際に作って、この記事の締めくくりにしたいと思います。だってみなさん、「想像で考えた」という一言がメチャメチャ引っかかっているでしょう?
<材料>
使用する食材はこちら。『ガーリックペッパー味』(黒いやつ)を使用するのがポイント!
・ホテイのやきとり ガーリックペッパー味 1缶
・ごはん お茶わん1杯分
・卵 1つ
・バター 10g
・レタス 1枚
・ミニトマト 2つ
・パセリ 適量
<作り方>
▼レタスを一口大にちぎる。ミニトマトを半分にカットする。
▼バター5gをフライパンに溶かし、目玉焼きを作る。目玉焼きはお皿にうつす。
▼残りのバターをフライパンに溶かし、ホテイのやきとりとご飯を炒める。
▼レタスを敷いたお皿のうえにご飯をもりつけ、目玉焼きを乗せる。
▼トマトとパセリをいい感じにもりつけて…
完成~~!!
うンめ~~~~!
想像で考えたくせにめちゃめちゃおいしかったです。みなさんもぜひ作ってみてくださいね! ホテイフーズ公式サイトの「ホテイのレシピ」では、その他おいしいレシピを公開中ですよー!
(おわり)
書いた人:田中嘉人
1983年生まれ。静岡県出身。2008年にエン・ジャパン入社。その後CAREER HACKをはじめとするWebメディアの編集・執筆に関わる。2017年5月に独立。Twitter=@yositotanaka