こんにちは。ライターの菊地です。めっきり涼しくなってきたこの頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか。
僕は今、東京都墨田区の曳舟にある仮面専門店『仮面屋おもて』に来ています。おもてさんの製作する仮面は、映画『デスノート』や、数多くのアーティストのPVにも登場しています。
ここでは、オーダーメイドの仮面はもちろん、
韓国の伝統的な仮面や、
ヨーロッパの仮面など、世界各国から集めた幅広いジャンルの仮面を取り扱っています。
今回、お話を伺うのはこのかた。仮面屋おもての店主、大川原脩平(おおかわら・しゅうへい)さん。仮面屋を営みながら自身も舞踏家という生粋のアーティストです。
それにしても現代で「仮面屋」なんて商売が成立するのでしょうか……? どんな人が買いに来るの? そもそも仮面って? などなど、気になるあれこれについて質問してみました!
仮面屋おもてってどんな場所?
「さっそくですが、大川原さんはどうして仮面屋を始めたんですか?」
「もともと僕が舞踏家ということもあり、仮面文化に触れる機会が多かったから。あとは、とある仮面作家のアーティストの個展をたまたま見に行ったときに、『やばい、かっこいいなあ、この人の作品を売りたいなあ』って惚れ込んじゃって」
「若い才能を応援したいということでしょうか」
「そこまで大それたことじゃないんだけど。仮面作家って、作りたいものをとりあえず作っちゃうんだよね。でも売る場所がないから困ってる。じゃあ、僕が売る場所を用意してあげちゃおうってシンプルな理由」
「なるほど。それにしてもすごい数の仮面ですね。全部でいくつくらいあるんですか?」
「いっぱいあります。二階にもあるよ。見たい?」
「はい!ぜひ!」
映画『東京喰種』にも出演中の仮面
「おおっ!あの仮面!!『東京喰種(トーキョーグール)』の映画に登場していた仮面に似てる!あの仮面屋のシーンで!!」
「よく気がつきましたね(笑)。似てるも何も、うちの仮面を貸し出したので実物ですよ。探せばほかにも何点かあると思うよ」
「そうなんですね!東京喰種ファンにとって、これはアツい!!」
仮面のアミューズメントパーク
「それにしても、本当に仮面だらけですね!アミューズメントパークみたいでワクワクします。一口に仮面といっても、色々なカタチやテイストのものがあるんですね」
「できるだけ仮面の配置も、ばらけさせるようにしているんです。その方が面白いかなって。高価な仮面の横に、安価な仮面を置いてみたり、日本の仮面の横にアフリカの仮面があったりね」
「これ、かっこいいですね、くちばしのシワが寄ってるあたりとか。中二病心がくすぐられます」
「これは『ペストマスク』といって、14世紀からヨーロッパで黒死病(ペスト)が大流行したときにお医者さんがかぶっていたマスクなんですよ」
「マスクの先端にハーブを詰めて、ペストに感染することを防いでいたことから『ペストマスク』と呼ばれるようになった。でも実際のところ、全然ペストを防げなかったみたい」
「確かに、ハーブを詰めたくらいだと防げなそう……」
「防ぐといえば、ガスマスクもあるよ。菊地さんかぶって!グイっていっちゃってください」
「完全にその道の人みたくなりました。そして苦しい……」
「そのガスマスクはヴィンテージものなんですけど、フェティシズム系(簡単にいうとフェチ)の人から人気があります。ガスマスクをかぶって、酸素がなくなっていくことで快感を得られるらしいですよ」
「それは何フェチなんですか……」
「こっちもガスマスクですか?」
「こっちは戦時中の日本で、実際に配給されていたガスマスクです。たしか」
「あ!本当に日本語で説明書きがある!カタカナと漢字が組み合わさっている文章に歴史を感じます。アジがあるなあ〜」
「そうそう。面白いでしょ?」
「それぞれの仮面に歴史があるんですね。本当に面白いです。そして、楽しい!!」
「うわ!このでかいサカナみたいなやつも仮面なんですか?!」
「こっちはヘルメットの内側の部分で作った普段使いできるマスクです。クジラがモチーフになってますよ」
「……普段使いってなんだっけ。ちなみにどういう経緯で制作されたんですか?」
「これは若いアーティストの作品なんだけど、本人曰く、ただなんとなく作っちゃったんだって。いるじゃない、そういう人。用途とか関係ないんですよ。とりあえず作っちゃったから、うちに置いておく。そうすると誰かが買っていく、そういう仕組みです」
「なんとなくで作れるのがスゴイです」
「こっちのつぶらな瞳の仮面はなんですか?」
「こっちの牛も普段使いできる仮面。僕がオーダーメイドしたんだけど、履くタイプの仮面なんだよね。履いてみます?」
「どうですか?履いてみた感想は……(絵面的に大丈夫だろうか)」
「普段使いできそうです」
「あ、そうですか。それはよかったです(何をいってんだろう)」
仮面に意味を見出すということ
「これは翁(おきな)といって能楽(のうがく)に使われる仮面です。能面のなかでは唯一、顎の部分が動くようになっています。劇中にセリフがあるからなんだけど、翁は神様だから日本語を話さないんですよ。だから、演じている役者さんも、セリフの意味はわからずに演じているんです」
「意味がわからないセリフを言うなんて呪文みたいですね。でも、家に飾ってあったら夜とか怖そう」
「そう? 翁は五穀豊穣(ごこくほうじょう)を願ってる仮面だし、家も守ってくれるから怖くないよ〜」
「仮面には、それぞれちゃんとした意味があるんですね! やっぱり奥が深いなあ」
「そうですね。ただ。菊地さんに限らずなんですけど、みんな仮面を見ては、歴史や文化を調べて意味を見出そうとしちゃうんですよね」
「はい、仮面の持つ意味とかルーツとか、知れば知るほど楽しくなってきました」
「でも仮面って時が経つにつれ、作り手の想いとは違った意味合いで世に伝わっていくことも多くあるんですよ。例えば、ある文化圏で女面として劇に使われていたものが、違う文化圏では男面として劇中に登場したりね」
「仮面に意味を持たせようと思えば、いくらでも持たせられるんです。もちろん、能面の研究者の中には、その面の起源や意味を調べている人はいます。それ自体は素晴らしいこと。でも個人的には、そこにあまり興味はないんですよね」
「そうなんですか?」
「流通していくうちに誤解されていって、当初とは違った意味合いになっていく。でもそれでいいんじゃないかな。僕は、むしろそういう現象を積極的に作っていったほうが面白いかなって思ってます」
「どういう意味を仮面に持たせるかは、人それぞれ、ということでしょうか……。仮面について知ろうとすればするほど、より一層わからなくなってきました」
「それでいいんですよ。わからなくていいんです。仮面って実体があって確かなものと思われているけど、実は不確かなもので、語れば語るほどわからなくなるんですよ。だからこそ、もっと知りたくなるし、考えようってなる」
「でも、そういうのって無理に考えるものでもなくて、仮面で遊びながらおぼろげに理解していくものだと思うんですよ 。だから僕も、仮面っぽいものを集めてお店に置いて遊んでるんです」
「うちに置いてあると、なんでも仮面に見えてくるっていう現象もあるんですけどね(笑)。例えば、そこの壁についてる花瓶。ずっと見てると、木の模様なんかと合わさって仮面に見えてきませんか?」
「本当だ……仮面ってなんなんだろう。もうわかりません」
「そうですね。僕もわかりません。仮面について知りにきた人が、帰るときにはもっとわからなくなって帰っていく。それでいいんです」
仮面について知りにきたのに、お話を聞けば聞くほどわからなくなりました。
どんな人が仮面を買いに来るの?
「では、どんな人が仮面を買いに来るんですか?」
「最近だと、『東京喰種』で仮面に興味を持った人がよく来ますね」
「確かに『東京喰種』には仮面がいっぱい登場しますよね」
「もちろん、『東京喰種』ファン以外の人も多いんですけどね。純粋に仮面が好きで来る人もいれば、全然興味がない人も。滞在時間の長い人もいれば、すぐに帰っていく人、お話をしていく人もいれば、一言も喋らずに仮面だけ買っていく人とか。まあ、実際に聞いてみるのが一番ですよ」
たまたま来店された女性。仮面屋おもてに来るのは2回目だそうです。
「突然すみません。なぜ仮面を買いにいらっしゃるのですか?」
「えっと、ここではまだ買ったことはないんですけど、私の場合は単純に仮面が好きなんです」
「仮面をコレクションしているということですか?」
「いえ、かぶるのが好きなんですよ。私は、仮面をかぶっている状態の自分が一番好きなんです。素顔のときよりも、表現が豊かになるような気がして。仮面をかぶっているときの方が、自分でいられる気がするんです」
「わかるようなわからないような……」
仮面をかぶっているときが本当の自分なら、床にしゃがんで仮面を眺める彼女はいったい何者なのでしょうか。仮面って何だろう……。
そもそも本当の自分ってなんだろう?そんなことまで考えてしまいました。
何事も試してみなければ、わからない。そう思った僕は、翁(おきな)の仮面を購入。
早速かぶってみました。仮面をかぶった今の僕は、何者なのでしょうか。考えれば考えるほど、わからなくなるばかり……。
今回はご紹介できませんでしたが、仮面屋おもてには、まだまだ面白い仮面がたくさんあります。
雰囲気もそれぞれ違っていて、
ポップなものや
不思議な雰囲気のもの
近未来的なものから
動物をモチーフにしたもの
なかには、リアルな人の顔をした仮面まで。ここまで精巧だと、街中でつけていても違和感がなさそうです。
まとめ
いかかでしたか? そろそろ皆さんも仮面に興味が湧いてきたことと思います。
次の週末は仮面屋おもてで、ちょっと不思議な仮面の世界に飛び込んでみてはいかがでしょうか。(僕は取材後から、何を見ても仮面に見えてしまう奇病を患っています)
それではこの辺で失礼します!ではまたー。
仮面屋おもて
住所:墨田区京島3丁目20番5号
営業時間:12:00~19:00(HP、Twitter要確認)
電話番号:070-5089-6271
定休日:HP要確認Twitter:@maskshopOMOTE
書いた人:菊地誠
自社メディア事業を手がける西新宿のデジタルマーケティング企業、株式会社キュービックのPR担当。Webディレクター兼ライター。タイ人と2人で暮らしています。動物とぬか漬けが好き。Facebook:菊地 誠 / Twitter:@yutorizuke / 所属:株式会社キュービック