こんにちは、ジモコロを運営している株式会社バーグハンバーグバーグの取締役社長・シモダです。
社長という立場上、最近は社員とコミュニケーションをとりにくくなってきましたが……ここで、世の社長様に申し上げたい儀がございます。
会社という生き物がもっとも重視しなければいけないのは、外交よりもむしろ内部のコミュニケーションではないでしょうか?
そこで今回は、このようなお題で社員を集め、話し合いの場を設けてみました。
招集したメンバーは3人。ここに僕を加えた4人で、設定したお題について話し合っていきます。社員の性格は「趣味」で把握できる!?
メンバー紹介
取締役社長
好きな漫画ベスト5を語り合いたいだけと言いつつ、実はある目的があって社員を招集した。仕掛けは全員が一通り発表したあと作動する
部長
アニメ・漫画が大好物。萌えからグロまで何でもイケる性格だが、基本的に嗜好が子供
オモコロ編集長
どこから情報を得てくるのか、知る人ぞ知る名作を確実に抑えていたりする
ジモコロ副編集長
学生時代はマンガ家を目指して雑誌に投稿していた漫画好き。一昔前の漫画に詳しい
原宿のベスト5
「今回は社長も社員もなく、みんなで『好きな漫画ベスト5』を発表して、わいわい語り合いましょう」
「では一番手、僕の好きな漫画ベスト5はこちらです!」
「3位の『ワールドイズマイン』、よくタイトルを聞くけど、触れてこなかったなぁ。おもしろいの?」
「かなりブ厚い完全版が出ているので、漫画好きなら絶対に読むべき作品です」
「確かに『おもしろくなかった』という感想をあまり聞かないですね」
「ただ文字が多いし、内容もかなりハードな犯罪やバイオレンス描写があるんで、慣れてないと苦痛に感じるかもしれません」
「ロックミュージシャンはほぼ全員、これ読めって言いますよね。昔のテキストサイトの管理人とかも」
「僕は読みましたけど、内容がハードすぎて気分悪かったわ……。漫画喫茶で明け方にこれ読みながら、コーンポタージュ飲んで、ソフトクリーム食ってたから、全部食い合わせが悪くて吐きそうだった」
「わかる人にはわかるんですけどねぇ」
真説 ザ・ワールド・イズ・マイン 1巻(1) (ビームコミックス)
- 作者:新井英樹
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / エンターブレイン
- 発売日: 2012/09/01
- メディア: Kindle版
- 購入: 2人 クリック: 2回
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▼その他、原宿の感想
・どうらく息子(尾瀬 あきら)
保育園で保父をしていた主人公が落語の世界に魅入られ、30歳にして落語家に弟子入りする話です。新人に厳しい演芸界で、色んなやらかしをしながら成長していく姿に共感が持てます。毎回古典落語を紹介してくれるので、落語初心者が読むのもオススメ!
・かぶく者(たなか 亜希夫、デビッド・宮原)
歌舞伎版の「ガラスの仮面」です。伝統と家柄を重んじる歌舞伎の世界で、「客を感動させれば勝ち!」とばかりに才能を発揮する天才歌舞伎役者の話。「ボールルームへようこそ」とかも好きなんですけど、天才を描く漫画って面白いですよね。
山口のベスト5
「続いては僕がいきましょう。こちら!」
「結構有名な作品が多い中、『魔法少女オブ・ジ・エンド』はかなり異質ですね。僕は読んだことないです」
「知らないなぁ」
「とにかく、ガチガチに人が死ぬ漫画なんですよ。魔法少女がいきなり来て、主人公のクラスにいるやつをとにかく殺しまくる」
「え、魔法少女は味方じゃなくて敵なんだ」
「グロさで話題になったと言ってもいい作品で、頭は爆発するわ、体はねじ切れるわ、臓物全部口から吐き出すわ……」
「それ読んで、『わーおもしろ~い!』って思うんですか? ヤバくない?」
「グロいの好きなんで。グロと聞くと読みたくなる。最近はそれだけじゃなくて、今まで謎だった伏線が回収されてきて、ストーリーも盛り上がってきました」
「実は僕もグロい作品はとりあえず手に取りたくなってしまいます。これ、読もうっと」
「二人とも、うちの家族にはあまり近付かないでほしい」
▼その他、山口の感想
・さくらの唄(安達哲)
『お天気お姉さん』の作者が描くダークな青春もの。エグい話だけどエッチなシーンも多くて、興奮しながら読んでた
・レベルE(冨樫義博)
子どもたちが不思議な力を手に入れて原色戦隊カラーレンジャーになる話が好きだった。性格の悪い王子(このできごとを仕組んだ人)とのやりとりが最高!
ギャラクシーのベスト5
「では、三番手は僕で。こちらです!」
「全部知らん」
「マンガ自体は名作だけど、このベスト5を選出した人、めんどくさそう」
「1位の『薔薇と拳銃』って何ですか?」
「『薔薇と拳銃』と言えば、皆さんご存知、谷弘兒先生のあの名作に決まってるじゃないですか」
「いつ頃のマンガ? 何系? どういう雑誌に載ってたの? 基本情報が不足しすぎでしょ」
「この漫画は1993年に発売された、いわゆるガロ系の作品ですね。エロ・グロ・バイオレンスなストーリーなんですが、美しい愛が全編を貫いている名作です」
「めんどくさそう、から、めんどくさい、に印象が変わりました」
「ガロ好きな人の中でも『きみ、わかってるね』と言われるくらいには知る人ぞ知る作品ですかね。全1巻なんで、ぜひ古本でお求めください。絶版なのでプレミアがついてますけど」
「読みたいと思う“とっかかり”が一切無い」
その他、ギャラクシーの感想
・14歳(楳図かずお)
培養鶏肉からチキンヘッドの主人公が生まれる冒頭、そしてラストのムチャクチャな着地点まで、全編勢いがすごくてかっこいい!
・孤高の人(坂本眞一)
単独行で数々の山を踏破してきた登山家がモデルのマンガ。社会に馴染めず孤独に山へ向かう姿に共感して、自分でも登山をはじめた。
シモダのベスト5
「じゃあ最後は僕のベスト5ですね。こちらです」
「……ほう」
「へぇ……」
「なるほどね」
「どうかしました?」
「いえ、なんでもないです。小学館の作品が多いですね」
「『うしおととら』こそ最高の漫画ではないでしょうか? 冒険、戦い、友情―少年漫画のすべてが詰め込まれてる」
「異議なし!」
「ん? ギャラクシーさんは確か1位が『薔薇と拳銃』とかいう漫画でしたよね?」
「いや、まあ、それはアレですけども……あ、『スプリガン』もおもしろかったですね」
「中二病のかたまりみたいな漫画ですけど、それが良いんですよね~。凄腕の特殊工作員でありながら、普段は普通の高校生っていうのが、全男子中学生憧れのシチュエーションですから」
「『よつばと!』は『あずまんが大王』の人(あずまきよひこ)ですよね。おもしろいんですか?」
「むちゃくちゃおもしろいですよ。よつばっていう言う4~5歳の女の子の、基本的には何もない一日を描いた漫画なんです」
「何もないなら漫画にしなくてよくない?」
「何もないから良いんです。大人にとってはありふれた日常だけど、子供の目を通して見ると、すべてが初めてで特別な体験なんですね。世界はこう見えてたのかっていう」
「なるほど、ちょっと読んでみたくなった」
「色んな人に出会って、色んな所に行って、ちょっとずつ成長していくよつばが、可愛くてしょうがない」
「さっきグロいの大好きって言ってて、今は幼女大好きとなると、なんか……」
「違います」
その他、シモダの感想
HUNTERXHUNTER(冨樫義博)
こんなに続きが気になる漫画はない。ここで気取って『レベルE』と言い出さないあたり、自分でも素直だなぁって思います。
HUNTER×HUNTER カラー版 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)
・東京喰種(石田スイ)
世間的にはアニメも終わって一段落着いた感じであり、今これを好きだというのは若干恥ずかしいのですが……好きなものは正直に言ったほうが良いと思うので。
東京喰種トーキョーグール リマスター版 1 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)
今回の真の目的
「さてみなさん、僕の『ベスト5』に、何か違和感を覚えたかたもいるのではないでしょうか?」
「どういうこと?」
「なんか、ひねりが無いな~とは思ってました」
「それは、正直にベスト5を書いたからです。実は僕にはある仮説があったんです。それは……
好きな漫画教えてって言うと、大抵『カッコイイと思われたい欲』を発揮し、ファッションとして選んだベスト5を言ってくる説
です!」
「ああああああああ!」
「そう思いませんか? 1位が『薔薇と拳銃』のギャラクシーさん」
「ギクッ!」
「若干……カッコつけたかも……若干……」
「僕は、社員に素直な、本当の“好き”を教えてもらいたかった……。嘘偽りのない、心からおもしろいと思っているマンガを!」
「すいません」
「というわけで、やり直し!」
「えー!」
原宿の「真の」ベスト5
「では改めて、みなさんに真のベスト5を発表してもらいましょう!」
「恥ずかしながら、僕から発表します。こちらです!」
こちらが真のベスト5
こちらは冒頭で発表した、カッコつけたベスト5。比較してご覧ください
「かなり変えてきましたね」
「カッコつけたベスト5では1位は『銀と金』って書きましたけど……どう考えても『カイジ』なんですよね」
「さっきは、なぜ『銀と金』にしたんですか?」
「それは、誰でも知ってるカイジより、もうちょっと詳しい感を演出したかったからです……」
「正直、まだ若干カッコつけてますよね?『闇金ウシジマくん』とか、古谷実とか」
「ガンが取りきれてない」
「カッコつけベスト5では、落語や歌舞伎といった伝統芸能への興味もチラ見させてましたよね」
「大人だから勉強してます、学んでます、と言うスタンスを表現しました……」
「これは、まだ再発の可能性がありますね」
「本当の本当に正直なこと言うと、2位は『幽☆遊☆白書』かな。自分でもどれくらい病巣が深いかわからない」
「こわい。なにこれ。精神をえぐられてる感覚」
山口の「真の」ベスト5
「では僕からも真のベスト5を発表しましょう。こちらです」
真のベスト5
カッコつけたベスト5
「そんなに変わってない気が……?」
「人の良さがすごい。そもそも、カッコつけたベスト5の時も、他の人みたいに気取ったところがなかった。こういうところに社員の性格や態度が現れると思ってます」
「『好きな漫画ベスト5』で、ドラゴンボールを入れるのは勇気がすごい。『誰でも知ってるだろ』とか『有名な漫画しか読んでないの?』って思われそう」
「誰でも知ってる作品を挙げると『そりゃそうだろ』で話が終わっちゃうっていうのはありますけどね」
「でも実際ドラゴンボールはめちゃくちゃ面白いんで」
「冨樫義博が2作品もランクインしてる」
「本当に好きな、と言われたから『幽☆遊☆白書』を入れたいけど、『レベルE』も本当に好きだから」
「信用に足る人物すぎる」
ギャラクシーの「真の」ベスト5
「正直、カッコつけベスト5で一番イタかったの、ギャラクシーさんですからね。『薔薇と拳銃』とか、諸星大二郎とか。ちゃんと反省してます?」
「カッコつけてたっていうか、もともとセンス良いからああいう結果になっただけですけどね。一応真のベスト5も書いてみましたけど……」
真のベスト5
カッコつけベスト5
「変わりすぎでしょ」
「なんだかんだで『スラムダンク』が一番おもしろい」
「やっぱりカッコつけてたんだ」
「『薔薇と拳銃』って何だったの」
「あれも本当におもしろい漫画なんですよ? でも、本棚に飾って見栄を張りたいっていう選考基準はありました」
「確かに、本棚は一軍・二軍みたいな“くくり”がありますね。奥に二段入るならこっちを手前にしよう、みたいな」
「さっきはいけ好かないサブカルクソ野郎って感じだったのに、一気に散髪屋の本棚みたいになった」
「ほんとだ、商店街の散髪屋だ!『WORST』入ってるのが特にね。ヤンキー漫画好きなんですか?」
「実は好きです。『WORST』は、映画化された『クローズ』の続編で、男の生き方みたいなものが学べるんで、マジでオススメしたい」
「男の生き方が学べるって、主人公たち男子高校生ですけどね。40代のギャラクシーさんが学んでいいものなの?」
「『はじめの一歩』、『ワンピース』、『スラムダンク』……なんの驚きもないベスト5になったな」
「ライターやめて散髪屋で働きます」
まとめ
いかがだったでしょうか。社員の心の裏に潜む『カッコつけたい欲』が露わになりましたね。
全国の社長さまにおかれましては、こういった施策で、社員の性格を把握してみるのも良いのではないでしょうか。
読者のみなさんもこの機会に、今まで隠してた「カッコつけてない漫画ベスト5」をツイートして頂けると嬉しいです。
なぜならそれを見ながら「この人は正直だな」「この部分、まだカッコつけてるな」などと社内で盛り上がれるからです。
(おわり)
書いた人:シモダテツヤ
1981年京都生まれ。Webクリエイター。バーグハンバーグバーグ代表取締役社長。 代表作は「インド人完全無視カレー」「分かりすぎて困る! 頭の悪い人向けの保険入門」など。著書に『日本一「ふざけた」会社の - ギリギリセーフな仕事術』がある。Twitterアカウント→@shimoda4md