時空のトンネルからこんにちは。ライターの友光だんごです。
このトンネル、よく見ると…
全部「貝」でできています…!
壁一面に貼られているのは「オウム貝」。多すぎじゃない?と思ったあなた、驚くのはまだ早いです。
ここでは、すべてが貝なのですから。
あれも、
これも、
どれもが貝でできています。
本日は、そんな見渡す限り貝まみれの怪しい建物「竹島ファンタジー館」にやって来ました。
竹島ファンタジー館があるのは、知多半島と渥美半島に囲まれた愛知県蒲郡市。国の天然記念物に指定されている島「竹島」のほど近く、海辺の観光地の一角に建っています。
貝でできた壁画に、天井からぶら下がった巨大なシャコ貝。入口からして貝への熱すぎる想いが伝わってきます。
この謎の熱量は、“王道ではない変テコな観光スポット”=「珍スポ(珍スポット)」と呼んでさしつかえないでしょう。
珍スポは日本全国に点在し、ひそかな愛好家も多い一ジャンルです。しかし、昭和(特に高度経済成長〜バブル期)に作られたものが多いため、老朽化やオーナーの高齢化が進み、近年では閉鎖も相次いでいます。
そんななか、竹島ファンタジー館が他と一線を画すのは「珍スポを継ぎし者」がいるという点なのです。
珍スポって継げるの・・・?
こちらが現館長の杉浦巧さん(75)。一度は閉館し、取り壊される寸前だったファンタジー館を2013年に購入し、2014年に再オープンした人物です。
なぜ、いかにして珍スポを受け継いだのか?
そもそもどうしてこんなに貝まみれなのか?
絶滅の危機に瀕する珍スポが生き残るためのヒントになる(かもしれない)館長へのインタビューをお届けします。
昭和×平成センスのごった煮パーク
まずはファンタジー館の中をご案内しましょう。館内では、角を曲がるたびに妙な存在感のあるオブジェが登場します。
目が怖いこちらの彼女は「女海賊」らしいです。
ビカビカに輝く時空のトンネルを抜けると…
火を吹くドラゴンが登場! 案内板をみると「ファンタジードラゴン」という名前だそうで、「竜宮城への道案内」なんだとか。竜宮城…?
ありました、竜宮城。乙姫さまに浦島太郎もいます。
その先には貝で覆われた巨大な壁が!水が壁をどうどうと流れ落ち、滝のようになっています。高さは10m以上…!
ここまで見ると、ザ・昭和の秘宝館テイスト。
しかし、「古さ」とともに「新しさ」が同居しているのが竹島ファンタジー館なのです。
なにやらキャラクターたちが喋る画面、向こうが透けてます…もしや「透過スクリーン」というやつでは…? 急に新しいテクノロジーが出てきたぞ。
こちらでは巨大な3画面でCGアニメが放映中。ちゃんと時間とお金がかかっていそうなクオリティです。
最後の部屋では、卵型のオブジェを使ってプロジェクションマッピングが。最後に卵から火の鳥が孵り、地球を救って終わりました(どうやら「浦島太郎」をベースにした一大スペクタクルが繰り広げられていたようです)。
この「昭和テイスト」と「最新(っぽい)テクノロジー」が交互に押し寄せて来るため、脳がキャパオーバーして途中からはひたすら笑っていました。
一体どうしてこんな施設ができたんでしょう…?
館長に話を聞いてみよう
放心状態で売店にたどり着くと、館長が出迎えてくれました。
「お兄ちゃんたち、ミニゲームするかい? 景品あげるよ」
「景品もほしいですけど、ファンタジー館について聞きたいです。最初に作られたのはいつ頃なんでしょう?」
「35〜40年前に『蒲郡ファンタジー館』という名前でオープンしたんだ。前のオーナーはもう亡くなってる」
「やっぱり貝好きの方だったんでしょうか」
「そうだな。フィリピンやオーストラリアや100カ国から貝を買って、ここを作ったと聞いてる。全部で約5500万個の貝が使われとるんだ」
「5500万個…⁉︎」
「当時は貝の値段も安かったんだけど、今は同じだけの貝を10億円出しても買えないよ。昔は現地で貝を採る人の日当も安かったから。それに、法律で海外からの持ち込みが禁止されてる貝も増えたからね。今じゃとても作れない場所だよ」
「20年くらい前までは団体客がたくさん来てたんだけど、近くに大きな遊園地ができたりして、人が減って行ったんだな」
「なるほど」
「それで、お金持ちだった前のオーナーが破産してしまったんだ。フィリピンに6億円の島を買ってホテルを建てたんだけど、それが火事になってしまったのがきっかけらしい。それでファンタジー館も手放すことになったんだ。それが2010年くらい」
「そこで館長に買い取る話が」
「私が骨董品好きなもんだから、『龍をやるから見に来い』と言われてな。そしたらもう建物の前でショベルカーが待ってたのよ。10台くらいな。取り壊す寸前なわけ!」
「ギリギリのタイミングでしたね…!館長はここへ来たことはあったんですか?」
「いや、なかった」
「え、なかったんですか」
「龍もそのとき初めて見たよ。電気も止まって真っ暗でな、懐中電灯で照らしながら見たわけ」
「こんなでかい龍持って帰れんわと思ったんだけど、その時に現場に居合わせた銀行員が、たまたま若い頃の知り合いだったんだ。そいつが『お金貸すから』と言うもんだから、建物ごと買うことになった」
「仕込まれていたんじゃないかと思うぐらいの話ですね。下世話な話で恐縮ですが、おいくらくらいで…?」
「それは言えないくらいよ」
「言えないぐらいの金額…。もしかしてお金持ちですか?」
「いや、金はないよ。貝ならあるけど」
珍スポの維持はお金がかかる
普段は公開してないファンタジー館の2階へ移動しながら、インタビューは続きます。
「うわー広い!ここはなんですか?」
「昔は2階がレストランだったんだ。1200人収容できる規模でね。でも今は使ってない」
「こんなスペースがあるのにもったいない…」
「2階にスプリンクラーをつけるのに1億円くらいかかるのよ。そこまで余裕がなくて、1階だけ改装してオープンしたんだ」
「買い取った時、ファンタジー館はどんな状態だったんですか?」
「貝のオブジェは傷んどった。だから修繕したんだ」
「やっぱり職人さんを呼んで…」
「貝をボンドで貼り付けただけだよ。若い衆も呼んで、私も一緒に手作業でな。貝は倉庫にいくらでもあったからなぁ。ちなみにトラック3〜4台分はある」
「芸能人のバレンタインチョコみたいな規模。CGアニメは誰が手がけたんですか?」
「原案を私が考えて、地元の製作会社に発注したんだ。ミニシアターを見ながら海底冒険をする『歩く映画館』をテーマに、元のオブジェに加えて改装したんだよ」
「だから昭和感と平成感が同居してたんですね」
「再オープンするのに、外壁も塗り直して看板も新しくしたんだ。それだけで数千万円かかってな。それからなんでも自分でやるようになった」
「そんなにするんですね。維持費も大変そうな…」
「節約のために照明は全部LEDにしたね。箱物はお金がかかるんだ」
「リニューアルにかかった費用って総額どれくらい…?」
「とても言えんわ。たくさんだよ。2階は今のところ宝の持ち腐れだね」
「まだ使う予定はないんですか?」
「私の息子が食堂をしてて、100人分くらいなら食事を作れるようになった。だからイベントや、結婚式のパーティーなんかはできると思うんだ。どんどん使ってほしいね」
世界のどこにもこんな施設はない
「そういえば館長さん、本業は別にあるんですか?」
「私は魚屋だよ。車で1時間くらいの碧南市に会社がある。朝3時起きで市場へ行って、自分の店へ行って、それからファンタジー館へ来るんだ。毎日、毎日。ファンタジー館は水曜が休みだけど魚屋は営業してるから、私は休みなんかないの。なんでその年でそこまでやるんだと友達にも言われるよ」
「趣味ってありますか?」
「骨董品集めが趣味だけど、安いものばっかりだよ。この間、ダビデ像をもらったのよ。6mくらいある」
「え!」
「ただ6mもあるから外から股間が丸見えになるだろ? だから庭に寝かせとるんだ。あっはっはっ」
「めちゃめちゃよくできた話だ…。ファンタジー館の龍もそうでしたけど、大きいものを譲る時は館長に話がいくんですね」
「そうそう、タダが好きだから。もらっちゃうんだぁ」
「その癖で珍スポまで継いだんですね。すごい!」
おわりに
最後に、ファンタジー館は館長にとってどんな場所か聞いてみました。
「世界のどこにもこんな施設はないよ。世界一だと思ってるから、もっとたくさんの人に来てほしい」
「外国の人も好きなんじゃないかと思います。2階もイベントに使えそうですし、いろんな可能性はありそうですね」
「そうだな。ただ、今のところ宣伝をやる費用がないのよ」
「この記事で宣伝しますよ!」
「ありがたい。記事のお礼に貝をあげるよ。金はないけど貝はあるから」
元のオーナーの貝への情熱に現館長のサービス精神が加わり、世界でも唯一無二の存在となった「竹島ファンタジー館」。子どもから大人まで楽しめる場所として心からおすすめします。近くには温泉もあり、夏休みの旅行先にぴったりです。
愛知を訪れた際にはぜひ一度、遊びに行ってみてはいかがでしょうか。
けして貝で買収されたわけではありません。
竹島ファンタジー館
住所:愛知県蒲郡市竹島町28-14
営業時間:9:00~17:00(7〜8月は〜17:30、11〜2月は〜16:30)
電話番号:0533-66-3888
定休日:毎週水曜日入場料:大人1000円(小・中学生500円、3歳以上の幼児300円)
http://www.fantasykan.jp/
書いた人:友光だんご
編集者/ライター。1989年岡山生まれ。Huuuu所属。犬とビールを見ると駆けだす。Facebook:友光 哲 / Twitter:@inutekina / 個人ブログ:友光だんご日記 / Mail: dango(a)huuuu.jp