こんにちは! 栃木県出身ライターの斎藤充博です。
今日来ているのは那須どうぶつ王国。栃木県が誇る那須という観光地の中にある動物園なのだが、ここは日本でも珍しいネコのショーを見ることができるのだ。
はたしてネコが本当に人間の言うことを聞くのか?
なぜネコはあんなにもかわいいのか?
おれは来世はネコにはなれないのか?
いろいろ疑問がわき上がってくるが、まずはネコのショーを見てみたい!
これがネコのショーだ
ネコのショーは那須どうぶつ王国の一画で行われている、「THE CATS」というイベントだ。これが平日に1回、土日祝日は2回行われているという。
どことなく劇団四季っぽいタイトルで心配になるが、あっちは「キャッツ」という名称で、出ているのはネコのマネがメチャクチャ上手なただの人間だ。全くの別物なので、どうか安心して欲しい。
中に入ると、NHK教育テレビのような身なりのお姉さんが登場。幼児向けの雰囲気が高まってきて不安になってきた。
平日の昼間にもかかわらず、家族連れで賑わっている。「本当にネコがショーなんてできるのか」「いやあ、できないでしょう……」なんて声もちらほら聞こえてくる。ああ、やっぱりみんな、不安な中見に来ているんだ。
「みなさ~~~ん。こんにちは! ネコちゃんって寝てばかりだと思っていませんか? でもネコちゃんは高い身体能力を持っていて、とても頭がいいんです。今日はそんな身近なのに知らないネコちゃんのことを、ぜひ知っていって下さい!」
ここで「ケータイの電源はオフ」「カメラのフラッシュ禁止」「急に席を立ったりネコを驚かせるたりする行為の禁止」などの注意事項が伝えられる。
「それではみなさん、ネコが好きですか? お返事は元気よく『にゃ~~~ん』でお願いします。まずは会場のお子様と女性の方、いかがですか~~~?」
「にゃ~~~ん」
「ありがとうございました! 続いて男性の方! 期待していますよー。ネコ好きですか? それでは行きますよ~~~」
「にゃーん……」
「男性の皆さんありがとうございます。背筋がゾッとしますね! それでは『THE CATS』の始まりです。ネコちゃん、どうぞ~!!」
こんな客いじりの軽いはずかしめを受けながらも、ショーは始まった。
お姉さんがネコを呼ぶと、ネコが2匹走ってきて、サッと台に乗る。ここでもういきなりびっくりする。ネコって呼ばれたら来るの?
お姉さんが合図をすると、ネコが立つ。あれ、本当にショーになっているぞ……?
お姉さんの脚を左右から何度も飛び越えるネコ。なんだかお姉さんが指示しているというよりも、遊具にされているようにも見える。
ジャンプして輪くぐりまで! これは本当にびっくりしたんだけど、さらに……
2匹同時の輪くぐりもこなしている。微妙にタイミングがズレて見えるかもしれないけど、やっているのは、ネコだぞ。そう思うとコンマ一秒のズレも感じられなくなってくる。
玉乗りをするネコまででてきた。信じられない……!!! 始まる前は不安な雰囲気に包まれていた会場も、大盛り上がりだ。
なにかトリックがあるんだろうか。そう思って目をこらしてみるが、正真正銘、ネコが玉乗りしている。ネコ、うたがってすまんかった!!!
綱渡りもする。
これもすごい! ……と一瞬思ったんだけど、そもそもネコってバランス感覚が優れている動物だ。綱渡りができるのは、当たり前のことかもしれない。そのへんの野良ネコだって、塀の上を器用に歩いているし。
そうすると、実は玉乗りだって、ネコの能力があれば、そんなにむずかしくないのかもしれない。
ん? ネコにとって、どこからが当たり前にできることで、どこからがすごいことなんだろう?
ショーの終了後にネコのお姉さんこと、トレーナーの千葉友里さんに聞いてみた。
「どうしてネコが人の言うことを聞くんでしょうか?」
「大前提として、その個体が好きで得意な事をやってもらっています。例えば、玉乗りをする子は、昔からボールを追いかけるのが好きだし、自然と乗ることもあったんです。そこからトレーニングを始めました」
「そのトレーニングの仕方というのが想像がつかない……。うまくできたら餌をあげるんですか?」(恐くて聞けないけど、失敗したらこっそりムチでひっぱたいたり?)
「トレーニングするときは、ネコのハンティングの本能を引き出すようにしています。ターゲットをネコに適した場所とタイミングで出すんです」
これがターゲット。
スッっとネコが無視できないような位置とタイミングでターゲットを出す千葉さん。
「ターゲットを捕まえたら、ごほうびをあげます」
「『適した場所とタイミング』! 言うのは簡単ですが、むずかしそう……」
「トレーナー側の根気は必要ですね(笑)」
「ネコとの接し方で気をつけている事ってありますか」
「他の動物でもそうなんですが『絶対に怒らない』ことです。その子ができたことを褒めるだけ」
(ムチでひっぱたいたりしていなかった! よかった!)
「ただ、褒めると言ってもむずかしいんです。なでたら喜ぶとは限らないし、一緒に遊んだら喜ぶとも限らない」
「最終的にはネコの気持ちはわからないんですね……。人間相手の方が、ある意味ラクそうですね」
「ネコって頭はいいんですが、気分屋です。指示を聞くかどうかは気分で決めていることもありますね」
「ショーの本番で失敗することもありますか?」
「ネコって集中していられる時間が短いんです。たとえば、お子様が持っているおもちゃを落としてしまうと、そっちを見てしまう。虫が一匹入ってきたら、虫を追いかけてしまいます」
「でも、許せちゃう空気がネコにはありますよね。そういうところが、私は好きです」
「確かに。失敗パターンも見たいです」
「ちなみに、千葉さんの好きな動物は?」
「私は元々犬派だったんですが、ネコのショーのトレーニングをするうちにネコ派になりました。ネコ、かわいいですよね」
なるほど。話をまとめると、そもそもネコができることをやっていて、言うことを聞かないこともあるのか。
見ている分にはかわいいけど、ぼくがトレーナーだったら、ネコのことを嫌いになっている可能性が高い。トレーナーをやりながらネコを好きになっている千葉さんはすごいな……。
那須どうぶつ王国は人間と動物の距離が近い
さて、ここでちょっと那須どうぶつ王国の見どころも紹介したい。ネコのショーだけではないのだ。広報の林健さんに案内してもらった。
「一番おすすめしたいのが今年できた『熱帯の森』です。ここには檻がありません。熱帯の生き物を建物の中で放し飼いにしています」
「えっ。じゃあ動物に自由に触れちゃうんですか!」
「あっ。触るのはダメなんですね。気をつけないとカメを踏みそうになりますね……」
まるでスーパーマリオみたいだな、と思ったけど言わないでおく。
この施設、ふつうに通路にカメやら鳥がいる。もちろん優先されるのは人間よりも動物だ。かなり注意深く歩く必要があり、全く落ち着かない。
でもその分 動物がメチャクチャ近い。たとえば、このナマケモノの毛の流れるような感じ、見ているだけですごく気持ちがいいのだ。
爪も近くで見ると、鋭くてピカピカしている。もうふつうに取材じゃなくて動物園に遊びに来た人になっちゃっているけど。
「ここ見てくださいよ。苦手な人もいるとは思いますが……」
「コウモリが集まっているんです」
「本当にちょっと気持ち悪い! でもかわいさもありますね」
うーん。見たいような、見たくないような。悩ましい。こういう入り交じった感覚って、ケージ越しじゃ湧かないかもしれない。
「『カピバラの森』 では自由にカピバラに触ることができますよ」
「今までカピバラに触ってみたいなんて思ったことないけど、触れるなら触ってみたい気はする……」
カピバラ。触れる以前に、ものすごく近い。 なんという穏やかなたたずまいなんだ。
「毛がすごく固いんですね。まるでほうきみたいだ」
「カピバラは水の中にいることも多いんです。陸に上がったときにすぐに体が乾くように、こういう毛になっています」
この木で囲まれた部分は「カピバラの休憩エリア」。ここにいるカピバラは触ってはいけない。ちゃんとカピバラのストレスにも配慮されていて安心する。
ずっと寝ているのも能力の一つ
那須どうぶつ王国・総支配人の鈴木和也さんにも話を聞いてみた。
「そもそもどうして『THE CATS』を始めたのでしょうか」
「国内でネコのパフォーマンスを見せているところがまず無い、というのがありますね。海外だとサーカスの演目の一つとしてあるのですが」
「ノウハウも何もない状況で始められたわけですよね」
「そうです。オープン前に1年かけてトレーニングをしたのですが、さんさんたる状況でしたね。これはパフォーマンスとしてお見せできるのかな、という状態だったんです。そこからなんとかオープンできた時は本当に嬉しかったですよ」
「やっぱりうまくいかないときがあったんですよね……」
「ただ、こちらの考えとしては『ネコに何かをさせる』というイメージでやっているわけではありません。ネコ科の動物って身体能力が高いし、個体ごとの個性が際立っているんです。ずっと寝ている子もいるし、凶暴な子もいる。何にでも興味を示す子もいる。その個性を引き出してお見せしたいなと思っています」
「そういえば、ショーの最中にずっと寝ているネコがいました!」
画像右上のネコ。最初から最後まで、ずっと動かずに寝ていた。たしかにこれは特徴を活かしているな。
「そうそう。ぜんぜん動かないというのも能力じゃないですか」
いいなあ……。ぼくも家で何もしないで寝ている能力を評価してくれる人が欲しい。それがムリなら来世はネコになりたい。
ネコとの人の間に信頼関係はあるのか?
「そうそう、よくお客様から『ネコちゃんとトレーナーの間に信頼関係があるんですね』って言われることがあるんですが、それはちょっと違うと思っているんですよ」
「どういうことでしょう」
「種としての性質と、個体ごとの個性を活用しながら、トレーニングを進めてゆく。そこで動物がのびのびと動いていると、トレーナーも嬉しい。でも、それが『信頼関係』かというと、違うんじゃないかなあ。そう見えるかもしれませんが。やっぱりネコは気まぐれですよ」
「確かに、トレーナーの千葉さんも、最終的にはネコが何を考えているかはわからないみたいでした」
ある意味、ネコたちが好き勝手に遊んでいるところを僕たちが見て、感心しているだけなのかもしれない……。トレーナーの人はネコからほとんど遊具みたいに扱われていたし。
おわりに
ぼくは動物園に来ると気持ちがすごく穏やかになって、疲れがとれる。なんでそんな風に思えるんだろうと前から疑問だった。
今日少しわかったところがある。多分、生き物が元気にのびのびとしている様子を見るだけで救われるというのがあるんだろう。「THE CATS」のネコたちはみんな元気だった。あれも生き物の見せ方の一つなのだ。
那須どうぶつ王国は標高が高いところにあって、景色がメチャクチャいいです。風も気持ちよく吹いています。理屈抜きでスカッとするところ。
都会でのつまらない雑事に疲れた人に、超おすすめですよ!
那須どうぶつ王国からの告知
「『THE CATS』は、2017年夏にリニューアルします。 お姉さん達の衣装がかわいくなります。もちろんネコ達のパフォーマンスにもご注目ください! ぜひ夏休み中にいらっしゃってください」
書いた人:斎藤充博
1982年栃木県生まれ。東京で指圧師をやっています。インターネットで記事を書くことをどうしてもやめられない。ツイッター:@3216 / ホームページ:下北沢ふしぎ指圧 / 書いた物まとめ:斎藤充博ライター活動まとめ