こんにちは。自称“イケてるしヤバい男”こと長島です。
この景色、どうですか? まさに地平線! 東京に住んでいたら、目線の高さで空が見えるなんてありえないですよね?
ここはぼくの地元である新潟。広大な平野が特徴です。そして、新潟といえば何を思い浮かべますか?
そう、お米です!!
ということで今回、ジモコロ編集長の柿次郎くんと一緒にお米について取材したいと思います!
「柿ちゃん、今日はよろしく!」
「お米みたいな頭の長島さんが、お米について取材するってなんかステキですね」
「えへへ」
友だちの米農家のところへ
ぼくの友だちが35歳という若さで米農家をやっているので、新潟市の中心街から約20kmほど離れたところにある新潟市西蒲区へ。
友だちが飼っている犬、哀愁ありすぎ!!
こちらがぼくの友だちでもあり、地元・新潟で米農家をやってる佐藤裕樹くん。農業組合法人「KSK(河井生産組合)」というところに所属しています。
「今日はよろしくね」
「よろしく、ゲンマイ」
「ゲンマイってなんですか?」
「あ、新潟でのぼくのアダ名みたいなもんです。当時『ゲンマイフレークを投げまくってた』という理由でそんなアダ名がつきました。高校生のときの話なんで、まったく覚えてないんですけどね」
「頭が玄米に似てるからじゃないんだ。ややこしい」
米農家になったきっかけ
「元々、金物で有名な燕市の鋳造屋さんで職人やってたよね。なんで米農家になったの?」
「代々、米農家の家系なんだけど、自分が継がなかったのは、親父に昔から『農業は通年やるのが難しいから継ぐんじゃないぞ』って反対されてたから。でも親父が病気になったのをきっかけに、農業への興味が強くなったんだよ。親父の背中を見て育ってきたこともあるし、『俺がやるしかないな』って。だから1年だけ猶予もらって、仕事をやりながら兼業で農作業を始めたら、自分でもびっくりするほど苦じゃなかった。むしろ楽しかったんだよね」
「苦じゃなかったんだ」
「意外にもね。それで親父に『俺、農家やるわ!』って言ったんだ。そのとき、親父が初めて俺の目の前で泣いたんだよね。絶対に涙を見せない人だったんだけど、覚悟が伝わったのかもしれない。でも、俺が農家でやっていく決意をした半年後に亡くなってさ」
「それじゃあ、お父さんが長年培ってきた技術やノウハウとか何も学べなかったの?」
「そうなんだよ。親父から唯一言われたことは『毎日手帳をつけろ』ってことだけ。『それが絶対役に立つから』って。例えば『去年の今ごろは何をしていたのか』『何がダメで何がよかったか』と、その記録を振り返りつつ、じゃあ今年はこうしようって軌道修正ができるから」
「たしかにお米作りはインターネットみたいにすぐ結果が出るわけじゃないから、一年毎に改善していくしかないもんね」
「親父が残してくれたノートだけが唯一の財産で。あと親父は村の中でも信頼されていたから、何か困ったことがあったら親父世代の農家が助けてくれることもある。親父が長年培ってきたことはこういうことなんだな、と今になってありがたく思うよ」
「めちゃめちゃいい話だ…」
米農家としての課題
「米農家になって3年目だっけ? 農家としての課題はあるの?」
「前提として日本全体でお米の価格が下がってる。昔は1俵(60kg)=3万円代とかだったのが、今は2万円まで下がってるんだよね。さらに機械導入のコストが高いってことも問題。効率よく作業するのに適した土地の確保も大事だね」
「え、農作業の機械って高いの?」
「ちょっと見てみる?」
最新のトラクターにはエアコンやCDもついていて、作業中は快適そのもの! ただし、DVDはよそ見運転になるからつけられないそうです…。数年前まではエアコンなし、ラジオで音楽を聴いていたとか。
デカすぎて写真じゃよくわからないけど、この奥に操縦するハンドルとかがあるそう。
「何もかもすごく高いね」
「これはほんの一部。ほかにも、コンバインや乾燥調製機などいろいろあるんだけど、どれも結構な値段なんだよ。だから機械が壊れたタイミングで農業を辞めちゃう人も少なくない。大体の人が借金をして買うわけだから、高齢になると跡継ぎもいない状態で再購入ってのはハードルが高いんだよね」
「なるほど。さらに人件費でしょ?」
「いや、人の代わりに機械がやってくれるから、人件費はほぼないよ。例えば、田植機も昔なら、ゴロという工具でどこに苗を植えるか印を付けるマーカーの人と、そこに植える人が必要だったんだけど、今ではこの田植機がマーカーも田植えも同時にやってくれんだ」
「え、そうなの…? じゃあ後継者不足ってあんまり課題じゃないの?」
「そうだね。後継者問題は機械(システム)で対処できると思う」
米農家に適した土地の確保
「課題といえばあとは土地問題、いわゆる圃場整備(ほじょうせいび)だね」
「ほじょうせいび? なにそれ?」
「圃場=田んぼなんだけど、田んぼは離れた場所でそれぞれを管理するより、ひとつにまとまっていた方が水の管理が圧倒的にしやすいんだよね。だから区画整理や排水施設整備などを統合的に行うことで、生産性と効率性を高めたいんだ。何十年規模で考えたら、絶対そっちの方が楽になる。それを農林水産省や都道府県の公共事業として申請しようと進めてるんだけど」
「区画整理で飛び飛びの土地をなくすということは、人の土地と自分の土地を交換するってことかな」
「そう。ただね、この申請を通すにはこの村で100軒以上いる農家の100%の同意書が必要なの。現在で約90%まで同意を得られてるんだけど…残りの交渉が大変かもしれない」
「残り10%もいるんだ…まだまだ大変だね」
「ただ、その人たちの気持ちもわかるんだよね。先祖から引き継いだ土地で、当然思い入れもあると思うし…。でも、ただお米を作れば良かった時代は終わったから。俺らの世代がビジネスとして成長させていく必要がある」
「そういえば、宮崎県は最新のテクノロジーで新しい農業の形を模索してますね。秋田県には自分たちの農法を信じたこだわりのお米をネットで販売する『トラ男』っていう若手コメ農家も出てきていて、今後農業がおもしろくなりそうだなぁ」
自分が管理している田んぼは、この紙で把握。ちなみに、この区画の地形はすべて頭に入っているのでこの紙が燃えても大丈夫らしい…。
Googleマップで見るとこんな感じ。町のほとんどが田んぼであることもわかる。
完全に一致!
「河井というエリアでどのくらいの田んぼがあるの?」
「約300,000坪(990,000㎡)かな。組合で管理しているのは約90,000坪くらい」
「でかい!! それって申請が通ったら、30万坪の田んぼがすぐ整備されるの?」
「100%の同意さえ得られれば、計画書を出して申請するだけ。それから測量とかが入って着工が5年。一度に30万坪全部を整備することは無理だから、少しづつ順番にやっていくということを考えると10年くらいかかると思うな」
「10年か…。そのときは45歳になるね(2人とも現在35歳)」
「それまでに東京オリンピックがあるから、予算はそっちに取られると思う。正直、『福島や栃木とかの災害復興もまだまだなのに、オリンピックをやってる場合なのか?』って農家目線だと思っちゃうね…」
「オリンピックで日本を元気づけて盛り上がるのも大切だけど、予算が必要な場所はほかにもいっぱいあるのかもね…」
農家の知られざるヘリコプター操縦の仕事
「それにしても農家って農作業だけじゃなくて、農林水産省への申請とかいろいろやることあるんだね」
「実は米作りだけじゃなくて、他にも産業用無人ヘリコプターを活用して薬剤を撒くという特殊なお仕事を農協からもらってるんだよね」
ぼくと比較すると、サイズが大きいのがよくわかります。ラジコンの隣にハゲのソフビを置いたんじゃないですよ?
「農協からのお仕事ってさ、正直いくらもらえるの?(笑)」
「一気にゲスな質問になったなぁ」
「さすがに農協からのお仕事だから言いづらいんだけど…朝9時から昼12時くらいまでこのヘリコプターを飛ばして薬剤を撒く作業で約3万円ぐらいかな」
「時給1万円って考えるとすごいね!!」
「羨ましく思うかもしれないけど、結構大変な仕事で制限が多いんだよ。例えば、風速3m以上あったら飛ばしてはいけないとか、人に20m近づけたらいけないとか…。ヘリを飛ばすためには事前に警察署への申請が必要だったり専門的な知識が必要だったり、そもそも1人じゃ飛ばせないんだよね」
「え、このヘリ1人じゃ飛ばせないの?」
「うん。操縦してると横の動きはわかるけど、奥行きはわからないでしょ?そこをパートナーの合図マンに立ってもらって、距離を確認してもらいながら、トランシーバーでやりとりする必要があるんだよ」
このトランシーバーで会話しながらヘリコプターを安全に飛ばして、無事着陸できるようにするらしい。ちなみに昔と違って同時通話が可能。
ヘリの話をしていたら偶然、とんぼが頭に着陸。なんで?
今回は、特別にエンジン音だけ聞かせてもらいました。
すごい迫力…!! 中型バイクと同じ250ccのエンジンを積んでいるみたいで、20m離れなきゃいけないっていうのも納得です。
「パッと見た感じ、危険性も高そうだね…。事故もあるの?」
「実際、年に何件かは不幸なことが起こってる。中型バイクと同じエンジンを積んでいて、あのサイズの羽根がついてるから、人間に当たったら普通に死ぬよね…」
「想像したら鳥肌立った…」
「なんでもそうだけど、慣れが一番怖い。ついつい自分の操縦を過信しがちなんだけど、なにか違和感を感じたらすぐに操縦をやめることを心がけてる。ドローンじゃないけど、ぼくらが事故ったせいで規制が強まったらみんなに迷惑を掛けてしまう…。産業の発展という観点でも、絶対に事故を起こしてはダメだから」
「そのリスクに見合った技術料だと考えたら、高すぎる報酬じゃないですね」
飛ばすときは、このように近いところで同じ周波数が使われてないか、同じ周波数でヘリコプターが飛んでいないかチェックする必要がある。同じ周波数だとエラーが起こる原因にもなるらしい。
警察に申請する上に、ここまでチェックするってすごい…。「無事故には 労を惜しまず まず確認 」というのがこの組合のモットーだそうです。
技術を上げるため、日々ラジコンの練習は欠かさないとのこと。佐藤くんは、新潟市の農業共済主催の大会で一位になったほどの腕前です。
新米のコシヒカリをいただきます
一通り話を聞いたので、新米のコシヒカリをいただくことに!
佐藤くんのお米は、味で競うコンクールで受賞経験もある折り紙つき!
「おおお、これが新米のコシヒカリ? ツヤツヤに光っててキレイ! なんだか“自分の子ども”みたいに愛らしい…」
「ツヤツヤさとキレイさなら、お米みたいな長島さんの頭も負けてないですよ」
「とりあえず食べてみてよ!」
「すげえうまい!」
「作り手のストーリーを聞いた後だから、なおさらおいしいですね!」
「二口目は、ご飯の味だけでご飯がいけるかも…! そのくらい甘みがあって、お米の味がしっかりしている」
「ありがとう! やっぱりおいしいって言われるのが一番作り甲斐があってうれしいよ」
「メディアを運営してる側としては、もっと裏側とかストーリーを発信していかないと! その人の顔が見え、言葉を受け取ったら、また違った価値を感じられるからね」
「農家として、今後の目標はあるの?」
「環境と流通の整備かな。環境整備はさっきの圃場を整備することで、田んぼを管理しやすくすると同時に、通年通して農作業をしたいと思ってる。今だと3月〜10月までしか農作業ができなくて、冬は土木作業をやってるんだ。例えば、冬にハウスで違う作物を育てることができれば、1年通して農作業に専念できる…。その分スキルもアップすると思うんだよね」
「農業に関わる時間をもっと多くするんだね」
「流通面では、今だと農協に卸してるんだけど、農協だとほかの農家さんのお米と混ざることもあるから。やっぱり自分が作ったお米だけで袋詰めされて、みんなの食卓に並んだ方がうれしいよね。そのためには品質を上げて、『このお米がいい!』 って言ってくれるお客さんを作ることで、直接届けられるような体制にしたいと思ってる。日本だけじゃなく、グローバル展開もできればさらにいいよね」
「楽しみだなぁ。それが実現したら、友だちとしてすごい誇らしい!」
友だちが作ったお米は本当においしかった。今回のような作り手のストーリーを知るきっかけは少ないかもしれないけれど、メディアがその役割を担えば同じような体験を増やすことができるはずです。
ジモコロの取材を通じて普段は聞けない友人の「仕事」を知ることができましたし、ずっと育ってきた新潟への印象が大きく変わりました。一歩踏み込んだ経験を通じて、書き手としての喜びも今後伝えていけたらと思います!
ライター:長島
新潟出身の35歳。通称「イケてるしヤバい男」。それ以上でも以下でもない。公式サイト: イケてるしヤバい男長島、ブログ:Original Hage P、Twitter:@genmaii