バーグハンバーグバーグ代表・シモダテツヤが、自分と同じ“社長”に話を聞きに行くこの企画、今回は家入一真さんと佐藤健太郎さんを迎え、対談形式でお話を伺いました。
三人はpaperboy&co.(現GMOペパボ=以下ペパボ)で共に働き、現在はそれぞれの道で社長になったという珍しい関係。
当時の自分たちを振り返りながら、社長という立場についても語ってもらいました。
家入一真
1978年生まれ。2003年、株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)創業者。2009年に代表取締役を退任。 現在は株式会社キメラ代表取締役社長。
株式会社キメラ
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佐藤健太郎
1981年生まれ。2003年、株式会社paperboy&co.入社。2009年に同社代表取締役に就任(現職)。2014年に商号をGMOペパボ株式会社に変更。
GMOペパボ株式会社
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シモダテツヤ
1981年生まれ。2004年、株式会社paperboy&co.入社。2010年に同社を退社。現在は株式会社バーグハンバーグバーグ代表取締役社長。
株式会社バーグハンバーグバーグ
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社長・上司・部下だった三人が、それぞれが社長として集結
「今日はよろしくお願いします」
「お願いします…あれ? 家入さんは?」
「家入さんは遅刻してます。もう着くと思うので少々お待ちください」
「あの人らしいね(笑)」
「今回は一緒に働いていた頃のことを振り返って、それぞれが社長になった現在のことについても話し合えたらと思ってます」
「当時は社長(家入)・上司(佐藤)・部下(シモダ)っていう関係だったのが、今や僕もシモダくんも社長だもんね。この10年はほんと激動って感じだった」
「ごめんごめん。久しぶりだね~! 何の話してんの?」
「対談してるんですよ! 三人とも社長になったということで現在の……」
「僕って今社長だっけ?…あ、そうかキメラだ! 株式会社キメラ代表取締役の家入です。よろしくお願いします」
株式会社キメラ
採用のための新しいプラットフォーム「LEAN」や、人材マッチングの「Talentio」など、ワークスタイルをアップデートするサービスを展開中。
「改まって喋るの恥ずかしいですね、なんか」
「ケンタロ(佐藤さんのこと)と飲んだり、シモダくんと飲んだりというのはあるけど、三人でっていうのは珍しいよね。ビール飲みながら話したい気分」
「僕はこのあと大腸検査があるので、水以外飲めないんですよ」
「え、大腸の検査って、なんかあったんですか?」
「いやいや、どこか悪いとこはないかな~って調べるための検査ね。おしりからカメラを入れるやつだからイヤなんだけどさ」
「おしりからカメラを入れる? それは個人的な趣味で?」
「そんなわけないでしょ! 我々も健康に気を使わなきゃいけない年齢になったということですよ」
2003年:スタート地点!ペパボ設立時の関係性は?
「家入さんと佐藤さんはペパボ設立以前から友人関係なんでしたっけ」
「そう。ネットの掲示板で知り合ったの。家も近所だったから友人付き合いが始まって、家入さんが起業したあとに、手伝いに来ない?って誘ってくれたんですよ」
GMOペパボ株式会社
レンタルサーバーサービス「ロリポップ!」、ハンドメイドマーケット「minne」、ブログサービス「JUGEM」など、多数のサービスを提供中。
「じゃあ、社長と部下っていう感じではなかったんですか?」
「社長と部下どころか、僕よく怒られてたよ、ケンタロに」
「いやいや、家入さんは年上だし社長だし、ちゃんと部下として敬意を持って付き合ってましたよ」
「でも周りから見ると家入さんが怒られてるイメージしかないですね」
「僕らの関係性っていうのは、コンビ歴の長い芸人みたいな感じなんだよね。お互いのことをよく知ってるから、喋る必要もないし。周りから見るとギスギスして見えるのかもしれないね」
「ペパボの頃、家入さんはよく会社を休んでましたよね? 右腕だった佐藤さんはどんな気持ちだったんですか?」
「いくら会社を休もうが、あのカリスマ性は家入一真しか持ってないものだから。僕にできるやり方で支えようと思ってました。来ないことがマイナスなのではなくて、来ることがすごいんだという雰囲気を作ってましたね」
「佐藤さんって家入さんに対して『尊敬してるのに期待はしない』っていう、斬新な接し方してましたよね」
「若くしてよくその境地に辿り着いたよね。えらい」
「ものすごく大事なイベントの時にも来ないことがあったんですけど、あらかじめ来ない場合のことも想定してあるから、僕だけはうろたえてないっていう」
「苦労してたんですね」
「組織づくりが好きなんですよ。だからどんな状況でも(社長が来なくても)、この状況でチームを最高のパフォーマンスにするにはどうするかっていうことを考えてる」
「それに比べて家入さんは……」
「僕も休みたくて休んでるわけじゃないんですよ。よし、行こう!とは思ってるんですよ。でも当日の朝にどうしても嫌だなって……。行けなくなるんですよ」
「佐藤さんが家入さんの言い訳を聞きながら『うんうん、わかるよ』みたいな感じですごい小刻みに頷いてますね。お母さんみたい」
「(笑)お母さんじゃないけどさ。社長と部下という関係であり、親友でもあるっていう当時の状況は、やっぱりちょっと複雑だったんだよ」
2004年:問題児? シモダがペパボに入社
「シモダくんがペパボに入ったのは2004年だったっけ?」
「そうですね。採用募集もしてなかったのにダメもとで連絡してみたら、家入さんが偶然僕のことを知ってくれてたんですよね。それで、おいでよって言われたんです」
「シモダくんが個人的にやってたテキストサイトを読んでて、好きだったんだよね。それで採用することにしたんだけど、一応入社テストをやってもらったの。ロリポップのバナーを作るっていう課題を出して」
※ロリポップ=ペパボが提供するレンタルサーバサービス
「それ鮮明に憶えてるよ。ロリポップを代表するキャラクターが幼女をバクバク食べちゃって、経営陣が記者会見で謝罪するっていうGIFアニメのバナーを作ってきたんだよね。なんてやつだと思ったもん」
「違うんですよ!テストといっても家入さんが個人的に僕を試すだけだと思ってたんですよ。まさかあんなものを全員に見せるなんて思わないじゃないですか!」
「だってバナーを見ておもしろいと思ったから。『今度入社する新人はこういう人ですよ!』って全員に見せてまわったの」
「シモダくんの入社には反対する声も多かったんですよね。入社してから3年くらいは僕の下で働いてもらったけど、確か初日にニット帽かぶって仕事してたでしょ」
「あぁ~、かぶってました! 周りの人も遠回しな注意として『ニット帽なんかかぶってたらムレてハゲるよ~?』って笑いながら言ってくれてたんですけど、心遣いにまったく気づかず、『そんなわけないでしょ!』って」
「ははは(笑)。全然空気読めてない」
「今考えたら何もわかってなかった。サンダル履いていったり、新人なのに何回もタバコ休憩行ったり。ITイコール“自由”みたいなイメージがあったんですよ。恥ずかしいですけど」
「ただ、シモダくんは礼儀的なことに関してはかなり真面目だった。挨拶もしっかりしてたし。入ってすぐにかわいがられてたよね」
「そうですね。よく先輩からいじられてました。『自分はいじられキャラじゃない!』ってすごく不満だったんですが、とにかく今をしのぐために、しばらくこのままで我慢しようと思ってました」
「部下として見た時のシモダくんはね、頑固だった。それは良いところでもあったけど、こうと決めたら譲らない性格だったから、手を焼くことも多かったかな」
「佐藤さんにはよく怒られてましたね。当時はなんでこんなに怒るんだこの人は!って思ってたんですけど、最近やっと、僕が至らなかったせいだってわかるようになりました」
「僕とシモダくんはあんまりぶつからなかったよね。一回だけ『絶対言わないでくださいよ』って言われてた女性関係の話を言いふらしちゃったことがあって。あの時くらいかな」
「絶対言わないでって言ったのに、20分後にはもう全員が知ってたんですよ。夜に怒りのメールを送りましたよね。『なんで言いふらしちゃうんですか!』って。結構本気で怒ってましたから」
「そうそう。すごい怒ってた。だから僕は、『シモダくん、本当に誰にも知られたくないことは、誰にも言っちゃいけないよ』って」
「最低(笑)」
「あの時はおまえが言うな!ってめちゃめちゃ思いましたけどね。ほんと良い教訓でしたよ」
2009年:家入さんがペパボ退任、残った二人は…
「佐藤さんは、家入さんがペパボを辞めるって言った時どう思ったんですか?」
「ある程度気持ちは察してくれてたよね」
「そうですね。息苦しそうにしてるなとは思ってたから。友人として、他にやりたいことがあるなら、それを応援しようという気持ちもありましたね」
「……………」
「良い話をしてる最中なんですけども……………飽きました?」
「いやいや、飽きてないよ! ツルを折ってると心が穏やかになるんで喋りやすくなるの。宮本武蔵だって仏像を彫ってたでしょ」
「喋りやすくなるならいいですけど。その折り紙はツルを折るためだけに持ち歩いてるんですか?」
「喋れよ」
「家入さんが退任したあと僕が社長になって、しばらく経った頃だったかな、シモダくんと口をきかない時期があったよね」
「え、何それ。ケンカしてたの?」
「ケンカっていうわけじゃないんですけど、佐藤さんにものすごく怒られたことがあったんですよね。それが納得できなくて、その後1年くらい口をきかなかった。今となっては何の件で怒られたのかすら忘れちゃいましたけど」
「同じ会社で1年も口をきいてなかったの? そんなにこじれて、よく仲直りできたね」
「1年経った頃に社員旅行があって、トイレでばったり会ったんだよね。その頃シモダくんはもう辞めるって決めてた時期だったから、『辞めたあとはどうすんの?』みたいな話がすんなりできたというか」
「やっと仲直りできたっていうのもあって、トイレで1時間くらい喋りましたよね」
「いい話だね~。大人のケンカ」
「でもその時、実はシモダくんはインフルエンザになりかけてたんですよ。僕も うつされてしまって。『あの野郎…』って思いましたけどね」
「その社員旅行、僕が乗ったバスの3分の2くらいの社員がインフルエンザで倒れるっていう事件に発展しましたよね」
「会社の損害ハンパないね、それ」
2010年:起業したシモダのことを二人はどう思った?
「僕がペパボを辞めてバーグハンバーグバーグ(以下バーグ)を設立した時、実際のところお二人はどう思ってたんですか?」
「安心した、かな。ペパボが変わり始める時期だったから、これからシモダくんにできることって何だろうとは思っていて。自分で会社を作って好きにやるなら、絶対その方が向いてると思ったんだよね。だから迷いなく送り出せた」
「僕もシモダくんがバーグを作った時は、嬉しかったんだよね。自分のやりたいことを始めたんだなと思って」
株式会社バーグハンバーグバーグ
おもしろさに特化したWEBプロモーション、コンテンツを制作。またWEBメディア「オモコロ」の運営を行う。
「出資しようかって言ってくれましたよね」
「そうそう。でも『家入さんとはいつか対等な立場で仕事したいので、出資は遠慮します』って断られた。それを聞いた時は、なんか感動したんだよね。あのシモダくんがって」
「『対等』なんて大それたことは思ってないですけど、結果、今は友達みたいな感じで飲みに誘ってくれたりするし。良い関係になれたと思います」
「僕もシモダくんとは辞めてからやっと友人になれた気がする。今は純粋に頑張ってほしいなと思ってるよ」
「家入さんの良いところと、佐藤さんの良いところっていうのは、バーグで受け継がれて形になってますから」
「だとしたらすごく嬉しいなあ」
「ペパボに入って家入さんと佐藤さんに会ってなかったら、全然別の人生を歩んでたと思うと不思議ですよね」
「最近よく考えるのが、今生きてるこの人生って、同じようなことを1万回くらい繰り返してるんじゃないかって」
「ツルを折りながらそんなこと考えてるんですね」
「1万回といっても、全部同じじゃなくて、ちょっとずつ違いがあったりするのね。シモダくんの場合はペパボに入社してバーグを作って、というのがメインなんだけど、1万回の内の一回や二回は別の会社に入ってる人生もあるんだよ、きっと」
「別の会社で休日にバーベキューしまくってる人生もあったんですね。うわ~、なんでこっちの人生にきちゃったんだろ」
「僕の場合は、ペパボを立ち上げたこの人生が、1万回に一回のレアケースじゃないかと思ってるんだよね。だからなんかうまく生きられないんじゃないかって」
「そこは1万回に一回のレアなチャンスを掴んだと喜んでくださいよ」
三人の社長が語る、社長になりたい人へのアドバイス
「お二人のもとには『僕も起業したい』『私も社長になりたい』という相談がくると思います。社長として、そういった方にはどんなアドバイスをするんでしょうか」
「成功した社長って『努力したら夢は叶う』みたいなことをすぐ言うでしょ。でも僕は昔から努力が嫌いだったし、夢もなかった。ペパボ初期の頃から、やれることをやるっていう形でずっとやってきただけなんだよね」
「そういえば家入さんとはお互い夢とか語ったことがないですね。そんな必要がなかったとも言えるけど。ほんとに淡々とやり続けてきたって感じ」
「そうそう。続けるってすごく大事だと思う。やりたいことがないんですっていう人も、今できることっていうのは絶対あるから。とりあえずそれを続けてみたらいいんじゃないかな」
「続けていたらいつの間にか形になって、自分を助けてくれる大事な能力になったりしますよね」
「とはいえ向き不向きっていうのはあるけどね。シモダくんが今ペパボに残ってたとして、能力が最大限発揮できてるかというと、そうじゃないでしょ。迷っている人は、続けるか道を変えるか、判断することも大事だと思うよ」
「そういえば先日、家入さんがTwitterで『自分のフォロワーは信用しない』って書いててすごく気になったんですが」
「『僕には夢があるんです!』ってキラキラした目で言ってくる人が多いんですけど、大体の場合は“他者をディスること”が含まれてるんですよね。あれがあまり好きじゃないという話です」
「どういうことですか?」
「例えば…『世界一周したいという夢があるんですが、大学では周りのやつは夢もないし努力もしない人間ばかりで…』みたいなこと。世界一周がしたいなら、それで良いじゃん。大学に行ってる無関係な人のことを貶める必要はないと思うんだけど」
「他の人と違って自分は特別だっていうアピールなんでしょうね。確かに他者をディスっておいて『自分には夢があるんです』って言われても信用できないですね」
「結局ね、打算的な人じゃないと信用できないよ。これをすると自分にこういう得があるのでやりたいですって自覚して説明できる人」
「さらに言うと、あなたにもこういう得がありますってプレゼンできないと成功しないよね。社会に出て何年か経験をつめば、嫌でもわかってくると思うけど」
これから10年後どうなっているのか?
「僕らは今から10年後ってどうしてるのかな? 想像もつかないけど」
「10年後も家入さん佐藤さんとは会ってると思います。その時にまた、何かおもしろい仕事の話ができたら最高ですよね」
「最高だね。またこういう対談やってもいいかもしれない」
「そうだね、生きてればね。10年って何があるかわからないから」
「ツルを折りながら交差点に突っ込んでいくかもしれないですからね。今日は懐かしい話がたくさんできて楽しかったです。ありがとうございました」
「事故らせないでよ。こちらこそ、ありがとうございました」
「このメンツだと話が尽きないね~。このあと飲みに行こうか?」
「僕は大腸検査があるんで無理です」
「ああ、趣味のやつですか」
「違うよ!」
ペパボ設立から、数年で上場企業、社長の交代、それぞれの道へ……と激動の人生を共に歩いた三人。話は尽きることがなく、今でこそわかるあの頃のこと、さらにはこれからのことまで、2時間もの収録時間になりました(ただし半分くらいはとてもここには書けない話ばかりでした)。
執筆:ギャラクシー(株式会社バーグハンバーグバーグ)