こんにちは。長野県在住のナカノです。
いきなり合成のような写真で驚かせてすみません。
私の左にぶら下がっているのは実のお父さんです。
大丈夫です、怖がらないでください。
実は、前々から「私のお父さんって異常にすごいんじゃないの…?」と思っていたんですよね。
ほら、写真を見ても明らかに異常じゃないですか。
まだハイハイしかできない私をおぶって山登りをしていたり、自宅にロッククライミングの設備を自作したりとお父さんとの幼いころの想い出は、かなり色濃く残っています。
そして今でもお父さんとの仲は良好。休日に軽井沢へ2人で買い物に行ったりマンガの貸し借りをしたり、とても仲がよいのです。
ただ、仲が良いからこそあんまりお父さんのことを知らなかったりするんですよね。そこで今回は、異常にすごいうちのお父さんの仕事に密着してみようと思います!
実の父親インタビュー
ナカノの父である宏は今年、還暦を迎えます。
祖父の代に設立した土木建築会社を引き継ぎ社長となるも、48歳の時に平成不況の荒波に揉まれ倒産。現在は、個人事業主として林業(特殊伐採)を中心に生計を立てています。
「今日はお父さんの仕事について話を聞こうと思っていて」
「仕事? 主に林業だね。俺がやってるのは林業の中でも『特殊伐採』というジャンルなんだよ」
「特殊伐採?」
「そうそう。普通の伐採は地面で。特殊伐採は身体一つで木に登って伐採する高所作業のことだね」
今年還暦を迎えるとは思えない!
スパイダーマンさながらの軽い身のこなし!
「伐採っていうとバッサバッサと重機でなぎ倒していくイメージがあったなー」
「そうそう、今は林業ってほとんど機械化されているよね。建物やお墓のすぐ近くみたいに、重機が入っていけない場所の木を切っていくのも特殊伐採だな」
商売道具のチェーンソーは10本近く所持。家に並んでいる様子が物騒すぎる。
ぶっとい命綱に身体を預けます。
チェーンソーの爆音に耐えられるよう、ヘルメットには防音が施されています。
衣服、ヘルメット合わせて約10万円。特殊伐採を始めるにあたっての初期投資は200万円程。常に命がけの仕事にこの投資、決して高くは感じません。
特殊伐採、木こりの「見積もり」
「特殊伐採ってどうやって仕事を集めることが多いの?お父さんってそんなにウェブに強いイメージはないし、チラシとか?」
「最初の1、2年は全然仕事がなかったけど、口コミで仕事をもらえるようになったよ」
「口コミ!田舎あるある!」
「軽井沢が近いだろ。なんてったって別荘地があるから」
「最近は別荘地での仕事が多いね。単価が高いのが魅力の一つ。あと個人だから価格競争にも勝ちやすいんだよ。たとえば他の企業に頼んだら20万円だったりするけど、個人の俺だった8万円でやれちゃう」
「倍以上も安くできるんだ!それでお父さんに頼む人が増えていくわけだ」
「そうそう、別荘管理の会社の人から『これだけ安くできるなら…!』って知ってもらえたことによってどんどん仕事がもらえるようになったよ」
「特殊伐採の見積もりって1本いくらって出すの?」
「例えば10本、20本切ってもらいたいと依頼が来たら、それが何日で切り終えるか算出して見積もりを出している。だから1本の依頼でも、太かったり枝が多かったりと日数がかかるようならそれだけ値段も高くなっていくね」
「仕事は口コミで広がっていったってことはわかったけど、そもそも特殊伐採って稼げる仕事なの?」
「その気になれば年収1000万円くらいいけると思うよ」
「1000万プレイヤーも夢じゃない!」
「でも俺は身体がもたないかなぁ(笑)」
切った木は、種類やサイズによって炭焼き小屋で炭をつくったり、薪にしたり。資源を余さず使い切ることも大切なようです。
炭焼きの様子はこんな感じ。
平常心が仕事のパフォーマンスをあげる
「そういえばお父さんってヨガもやっているよね?」
「ヨガを始めたのは48歳くらいだったかな。ちょうどその頃会社の経営が危なくなって。精神的に乗り越えようと思って始めたんだよ。ジムには35年通っていて身体は常に鍛えていたけど、精神が参っちゃってね」
お父さんがやっているのは「アシュタンガヨガ」。様々な種類のヨガの中でも運動量が多いそう。
ジム通い35年だけでは作り出せない体幹の強さ
ねぇねぇ、どうなってるの、これ。
人間のなせる技なの!?
初めてダルシムを見た時に、「お父さんをモデルにしたのかな?」と思いました。
「そうそう、ヨガを始めたことでよかったことがあったなぁ」
「よかったこと?」
「特殊伐採で必要な平常心を養えたことだよ。高所にいる時はパニックになることが一番まずいことなんだよね」
「たしかに。登ってきた足元を見たら、我に返ってパニックになりそう」
心を癒やす効果を持つ「ティンシャ」はチベットの密教法具。ヨガの最中に鳴らして、意識を集中させます。
「ヨガにおいて一番大切なのが『呼吸』なんだ」
「呼吸?」
「深く長い呼吸によって、精神を安定させてセルフコントロールができるようになる。だから、伐採中も呼吸は常に意識しているね」
「なるほど、自分の呼吸を意識したことってなかったかも」
「木から落ちる自分を一瞬でもイメージした途端に、どんなベテランでも怖くなってしまうんだよ」
「だから平常心が大切なんだ」
「木に登っている時に大切なことは、いかに集中して目の前だけを見つめられるか。そのためにヨガが必要なんだ」
「いやー、まさか特殊伐採とヨガがつながっているとは…」
遠回りでもオリジナルでコツコツやる
「お父さんが働く中で、大切にしてることってなに?」
「俺はナンバーワンにはなれないから、自分のオリジナルでやることが大切だって思っているよ」
「自分のオリジナル?」
「特殊伐採だって最初は自己流だったからね。当初は、まず木の登り方わからないからドリルで穴を空けて、鉄筋を木に刺して登って…と手探りだった」
「うんうん」
「その後、実は木登り専用の道具があることを知って、道具の使い方を自分で考えて…」
「火が使えるようになった原始人のようだ…」
伐採時はカギ爪を装着し、木の表面をえぐるように登っていきます
「私だったらすぐにググってしまうようなことも、自分で試して失敗して、よりよい方法を探していったんだ。調べたり人に聞いたりしないのはどうして?」
「過程を積み上げていくのが楽しいんだよ。自己流の仕事は、洗練はされていないけど味がある。いつまでも未完成だからこそ、いつまでも楽しむことができる。答えは自分で見つけていかなきゃいけないんだよ」
「最近、自分の頭で考える機会がどんどん減ってきたもんなぁ。世の中が便利になりすぎてるし」
「遠回りでも、自分でやるのが俺の仕事のやり方だね」
「良いこと言うな〜!お父さんは何歳まで仕事を続けるの?」
「80歳くらいまでやりたいね(笑)」
「あと20年も。その頃には仙人みたいになってそう!」
最後に、お父さんに今一番の悩みをぶつけてみました
「お父さん、私会社を辞めようと思っていて…」
「うん」
「今の職場ではできないことをやっていきたいんだけど、それをうまく社長に伝えられる自信がなくて」
なぜか笑顔になるお父さん。会社を辞める相談をして普通こんな笑顔になる?!
…と悩みをつらつらと話す私を横目に、多くは語らずに優しいまなざしを向けてくれていたお父さんを見て改めて思いました。
「答えは自分で見つけなきゃいけない」
そういえば昔から多くを語らず、自分に考えさせるお父さんでした。仕事を辞める相談も一緒。「うんうん」と頷いてくれるだけ。
改めてインタビューを通して向き合ってみたけど、やっぱりお父さんはすごい人だし、変わり者でした。
ナンバーワンを目指さず、泥臭く自分で道を切り開いてきたお父さんの個性、努力の積み重ね。娘として誇らしい気持ちになりました。
…そして取材の一週間後、自分の中で考えをまとめた私は会社を辞めました。
「移動式のピザ窯つくろうと思っているんだけど一緒にやる?」と顔を合わせる度に提案してくるお父さん、100歳まで現役バリバリで働きそうな勢いです。
私のパパはヨガきこり。
書いた人:ナカノ ヒトミ
1990年長野県佐久市生まれ。最近、意識的に散歩をはじめた。
twitter: @jimonakano/個人ブログ: ナガノのナカノ
写真:小林 直博
長野県奥信濃発のフリーペーパー『鶴と亀』で編集者兼フォトグラファーをやっている。1991年生まれ。ばあちゃん子。生まれ育った長野県飯山市を拠点に、奥信濃らしい生き方を目指し活動中。