こんにちは、京都在住ライターのおかんです。みなさん、今年フェスには行きましたか?
毎年、全国各地でフェスが開催されていますが、京都にもたくさんの音楽フェスが存在します。ロックバンド10-FEETが主催する「京都大作戦」や、京都出身のバンド・くるりが主催する「京都音楽博覧会」。他にも、さまざまなお店や駅前広場などをステージとした市街地型音楽フェスなども。
さて、数ある京都のフェス、そのなかでも老舗中の老舗、ローカルフェスの先駆けとなるイベントがひとつあります。みなさんは「ボロフェスタ」をご存知でしょうか。
メジャーシーンにはない、マニアックで新しいアーティストがたくさん出演する典型的なインディーズフェスなんですが…。
ボロフェスタのなにがいいって、自給自足なフェスなんです。知名度の有無やジャンルに関係なく主催者やスタッフが「いい!」と思ったアーティストのみを呼び、100人以上のボランティア・スタッフと主催者が一緒になって、会場設営から運営までを行っている、ハンドメイド感あふれるイベントってこと!
「今年はボロフェスタどうしよっかな〜」と、考えていたらある日柿次郎さんから連絡をもらいました。
「おかんちゃん、9月にジモコロで京都に行くんだけど、記事書いてくれない?」
「おお〜、ぜひぜひ!何の取材ですか?」
「ボロフェスタっていうフェスなんだけど、知ってる?」
「知ってるもなにも……知ってますよ」
「お、話が早いー! 今度、秋に開催されるボロフェスタに先駆けて、ナノボロフェスタっていうプレイベントで、ジモコロが出張トークイベントをするんだよね」
「出張トークイベント……。何の話しをするんですか」
「フックアップっていうカルチャーと音楽を絡めて話しをする予定!日曜日にイベントあるけど、京都で遊びたいから金曜日に行くねー!ではー!」
「ものすごいバックリした説明やったな……」
かくして、ジモコロ出張イベントの様子と、京都が誇る名フェス、ナノボロフェスタをレポートしてきました。
あらゆる人が集まる3日間がはじまった
そして金曜日の夜。はじめに合流したのは、おなじみ「鶴と亀」の小林くん。小林くんだけ早めに京都に着いたので、雑貨屋をウロウロするプチおデートを敢行しました。
小林くんに「どんな感じのイベントなんか全然聞いてないんやけど、なんか聞いてる?」と聞いたら、「いや、何にも……。とりあえず京都集合って言われたんですよね」と何ともフワフワとした回答が。ジモコロっていつもフィーリングで取材してる?
四条烏丸にある雑貨屋「VOU」。クールでかっこいい商品がいっぱいのお店です。
このあと前回の「路地酒場」で紹介した「ELEPHANT FACTORY COFFEE」で一服して、京都駅へ移動。
京都駅で柿次郎さんと望月優大さんが合流。望月さん(あだ名:もっちー)は熊本のイベントで仲良くなったお方です。
「おかんちゃん、おつかれさま〜」
「久しぶり〜」
「ユルい登場だなぁ。近所のコンビニに行くくらいラフな格好で来たな。もっちーさんはジモコロ初登場なので、軽く自己紹介をお願いします」
「HIROKIM BLOGという硬派めのブログを書いている会社員です。 RHYMESTERの宇多丸師匠を勝手に尊敬しています」
「ヒップホップとカレーと銭湯が好きな望月さんです。いずれジモコロライターとして何か書いてもらいたいなーと思ってます」
「そうなんだ」
京都といえば銭湯!ということでまずは京都駅から徒歩15分くらいの銭湯「白山湯」へ。ここのお湯は全て地下水をくみ上げて沸かしているので、湯触りがマイルドなのが特徴なのだ。
……ごめんなさい。今回、ものすごーく記事が長くなってしまうのを先に謝っておきます。ナノボロフェスタ自体の話と、トークイベント自体の話やテーマが絡み合っているのでちょっと複雑。
しかも、メンバーがまさかのイベント前々日集合! 過去のジモコロ出演者も総動員。読まれやすい文章ルールを全無視して、熱量だけで書き上げたこの旅の記録!(無理しなくていいから)読んでくれ〜!
ふたりが提唱する「フックアップ」ってなんだ!?
入浴後の一杯。銭湯のあとの牛乳ってなんでこんなにおいしいんだろうな。しかしワイの顔がでかい。目も死んでる。
「そもそもなんでナノボロフェスタにジモコロが出るんですか」
「ふむ、その説明をするとなると……」
「まずはフックアップの話をしなければならないね」
銭湯後は串カツ屋「はなまる串カツ製作所」へ。一串80円で爆安なのに、薄衣&大ぶり具材でめちゃウマ。柿さんが京都にくるとだいたいこのお店に行く。いわく「これが東京なら食べログ4.1はする」らしい。
「フ、フックアップ……?」
「フックアップっていうのは、『ものを引っかけて持ち上げる』とか『接続する』っていう意味の英単語なんだけど、ヒップホップのスラング的な言葉でもあるんだよね」
「柿さん、ヒップホップ好きでしたね」
「たとえば50Centっていう筋肉バッキバキのラッパーがいるんだけど、彼はあの世界的にめちゃくちゃ売れているラッパーで。EMINEMの目に止まったことがきっかけで音楽シーンでの成功を果たしていて」
- アーティスト: 50 Cent
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50Centのド名盤 1stアルバム『Get Rich Or Die Tryin』。50Centはあるトラブルがきっかけでレコード会社のブラックリストに載ってしまい、大舞台での活動ができなくなっていたんですが、くすぶりながらも続けていた音楽活動が結果としてEMINEMによって見いだされ、大型ラッパーとしての地位を獲得します。
その50Centを自身のレーベルへ迎え入れたEMINEM。極貧、家庭崩壊などの不遇な境遇からアフリカ系アメリカ人やヒップホップに親しんでいった。いまや世界中にファンを超大物ラッパー。音楽をあまり聴かない人でもこの「Lose Yourself」は1度はどこかで聴いたことあるって人は多いはず。
串カツ屋の後は我が家で深夜まで飲んだあと並んで寝た。4畳半にいい歳した成人が4人川の字で寝るなんて完全に無茶をさせてしまったと反省してます。写真はおかん得意の強制マッサージ中。
「そのEMINEMも、もともとはN.W.A.っていう伝説的なヒップホップグループの元メンバーで、いまはヘッドフォンの開発や音楽プロデューサーとして活躍するDr. Dreがプロデュースしたことがきっかけでヒットに繋がったっていう経緯があるんだよね」
「黒人主体のヒップホップ業界で白人のエミネムが成功したのは、Dr. Dreあってこそだって言いますもんね。『Without Me』がリリースされたとき、あまりのカッコよさに衝撃を受けたのを覚えてるなー。MDに入れて聴きまくってた」
50CentをフックアップしたEMINEMをフックアップしたDr. Dre。N.W.A.時代の波乱や東西間の音楽抗争などで多くの仲間を失ってきたんですが、紆余曲折を経てEMINEMというダイヤの原石を見つけ舞台に戻ってきた。そんな経緯を知った上で「Still D.R.E.」という曲を聴くと泣けてきます。
「この話みたいに、ヒップホップ業界には『上の立場にいる人が下の人を捕まえて、引き上げてあげる』っていう文化が根づいてるんだよね。その引き上げる、持ち上げてあげる行為のことをフックアップと呼んで、まだ世に知られていない才能を世間に広めていくんだ」
「フックアップ素敵やん……!ただ、フックアップといま京都に柿さんともっちーさんがいるのがあんまり繋がらないんだけども」
「よくぞ聞いてくれました」
「僕たち、フックアップブラザーズです!」
「何それ」
「僕ももっちーもヒップホップが大好きだから、前にフックアップの文化っていいよね、フックアップをテーマにしたメディアをつくりたいよねって話をしてて。ユニットとしてフックアップ文化を啓蒙すべく、フックアップブラザーズとしてやっていくことにしたんです」
「ジョナサンでね」
「そう、ジョナサンでうっすいハイボールを15杯くらい飲みながら……」
「3時くらいにね」
「そう、昼の3時くらいに」
「笑う」
翌朝、昨日の銭湯で朝風呂をキメてから近くの渋〜い喫茶店「CAFE WORLD 新町」で一服。
「まあ、そんな感じで、フックアップカルチャーを広める活動をしようということに決まって、一度東京でふたりでトークイベントをしたんよね。その後ももっと全国的にこの活動を広げたいなーと考えていたところに、今回のナノボロ出演のお話をいただいたというわけ」
「にゃるほど。ふたりが京都にフックアップを伝導しにきたってことか。フックアップが音楽シーンのなかで生まれた文化なら、フェスで話すのはごく当たり前ですしね」
フックアップされた経験があるからこそ、フックアップを広めたい
お昼は美味いスパイスカレーが食べたい!というリクエストで「240(ニコヨン)」へ。パンチ力のあるカレーで美味い。ひとつのお皿にカレーと副菜が盛られた小宇宙のようなビジュアルは関西ならではって聞いたんですがホンマですか?
「フックアップを推すのは、ただヒップホップが好きだからって理由だけじゃないですよね?」
「うん、ぼく自身の経験も大きいよね。バーグハンバーグバーグ社長のシモダにフックアップしてもらったからこそ今の自分がいるから。最終学歴松屋だし、どうやって社会に上がるかわからなかった」
スパイス欲がガツンガツンに満たされる!めちゃくちゃうまいと大好評
「大阪でくすぶっていたある日、上京していたシモダからメッセンジャーでエクセルシートが送られてきたんよね。確認したら半年で50万円を貯めろ!そして上京しろ!っていう内容で。毎月貯金額を記入して送り返せって言われた」
「おお、信頼関係がないと通じないやり方ですね」
「まぁね。自分自身このまま大阪でくすぶっていても先が見えなかったから、そこから必死で働いたなぁ。朝8時〜夜22時まで松屋でアルバイト。23時〜深夜2時までスーパー銭湯でアルバイト。休み関係なく半年働いたら50万円ぐらいあっという間に貯まって。『よっしゃ、上京だ!』って行動に移したのが26歳の終わり頃だったかな」
「8年ぐらい前のことですね。へー!そんな経緯があったんだ!」
「上京直後は編プロで2年間修行したんだけど、バーグハンバーグバーグの4人目として誘われて合流。紆余曲折を経てジモコロ編集長に至るんだけど、シモダのフックアップがなかったら、おかんちゃんとも出会ってないね」
「そう考えるとフックアップ超大事…!」
「さらにシモダ自身は、paperboy&Co.(現:GMOペパボ)創業者の家入一真さんにフックアップされていて。その関係図を分かりやすく伝えるために用意したのがこちらです」
「わざわざ6人分の似顔絵イラスト用意してまで伝えたいんだ」
「うん。これが一番分かりやすいからね。この図で言えば、Dr.Dreと家入一真さんはフックアップおじいちゃんにあたるんよね。つまりフックアップの恩義を感じている人間は次に繋げようとするんじゃないかな?と思っていて」
「なるほど〜! 次は柿さんも誰かをフックアップしないといけないわけですね」
「そういうこと。ジモコロ視点でいえば、ロゴや紙周りのデザインをお願いしているデザイナーの中屋辰平くん。写真をよくお願いしている鶴と亀の小林直博くん。そしてジモコロのメインライターとして一緒に動いている根岸達朗さん。この3人はほっといても実力があるし申し分ないんだけど…僭越ながらジモコロきっかけでフックアップできたらいいなと思ってる」
「そういえば3人よく一緒にいますもんね」
「まぁ、気の合う人と一緒に仕事できるのが一番だからね!」
2日目、男子チームは京都のゲストハウス「Len」に宿泊。ホステルの1階にあるカフェバーで飲んでいたら、たまたま柿さんの東京での知り合いが現れてしばらく一緒にお茶をすることに。
「まさか旅先で三ノ輪のご近所さんに会うとは思わなかった」
「偶然が生み出すエモ」
昨日たくさん飲んだのに結局みんなビールを飲み出す。
「もっちーさんのフックアップされたエピソードはどんな感じなんですか?」
「ぼくは柿次郎さんとシモダさんのような上下関係だけがフックアップだけじゃないと思ってるんだよね。横どうしの関係、『水平フックアップ』での経験が多いかもしれないなぁ」
「水平フックアップ。そういうのもあるのか……」
「若いころはアンチ上下関係だったし、この人に拾ってもらったって言える上の立場の人はいなかった。でも柿次郎さんみたいに、同世代の人が『飲みに行こうよ』って誘ってくれることで、ふだんインドア派の僕は新しい人たちと知り合えることがあって」
「それは柿さんがもっちーさんをフックアップしてるてこと?」
「そう、でも柿次郎さんとは上下のフックアップにある同業種の繋がりはない。すごく水平な人間関係なわけで、ぼくはこれを水平フックアップと呼ぶわけです」
「水平フックアップなら、知らず知らずのうちに誰もが一度はやっているのかもしれないなぁ」
夜はボロフェスタOBの人たちを中心に前夜祭。ボロフェスタOBの大学の後輩、京都在住のDJ、バーグさんとこの社員、まきのゆうきさんの弟がやってきたりして、人が人を呼ぶ大型飲み会に。
しっかり梅湯にも行きました。湊三次郎さんのインタビュー記事はこちら!
かもめブックス&校閲会社・鴎来堂代表の柳下さんも登場。
「柳下さんのインパクトがスゴい。知のドワーフ存在感ありすぎ」
「知らないうちに来てて、パっとみたら豪快に身体洗ってたからびっくりした」
「なにそれ。続々とジモコロと接点のある人が集まっていてすごい。そんな柳下さんが校正校閲について語る記事はこちら!」
10人くらいいたのに、女が私ひとりだけだっため悲劇のソロ入浴。男子チームのキャッキャしてる声を聞いてました。壁の向こうは楽しそうでいいなぁ。
「梅湯では10月28日から11月15日まで、記事の冒頭で小林くんと私が行ってた『VOU』っていう雑貨屋とコラボして、オリジナルグッズの販売や、銭湯でのアートイベント、ライブなどをおこなう『Get湯!』が開催予定です」
「なんだその新しいイベントは!」
「ちょうどボロフェスタ本祭と日程がかぶっているので、ぜひ合わせて行ってみてください。より京都のカルチャーにどっぷり浸かれますよ!風呂だけにな!」
いよいよ本番!ナノボロフェスタ!
風呂行って食って飲んでを繰り返し、ようやくメインイベント、ナノボロフェスタの会場へ。本当はこの日も直前まで銭湯行って豆腐食べてしてました。
アルミホイルがギャンギャンに巻かれたろうそくのオブジェに……
手描きのタイムテーブル。
会場のひとつである「喫茶マドラグ」での演奏の様子。イベント限定の特製メニューなどを食べながらのんびり観賞が可能。
「なんというか、こう……ものすごくユルくないですか?」
「ユルい!」
「この独特のユルさがボロフェスタの魅力なんですよ。スタッフが学生なので、すごく学園祭のようなのどかさがあるんです」
ジモコロ出演陣と、ボロフェスタのOBスタッフのみなさんも会場に集結!
左から、ボランティアスタッフからそのままSCRAPに入社した松田さん、デブ(わし)、柿さんともっちーさん、星海社で編集をしている今井さん、新婚旅行先のハワイから昨日帰ってきた久保さん。
そして……この方がボロフェスタ創始者のひとり、今回のトークイベントオーガナイザーである飯田仁一郎さん!
リアル脱出ゲームで知られる株式会社SCRAPの取締役であり、音楽情報や音源を配信するサイト「OTOTOY」の編集長も兼ね、さらに自身もパンクバンド「Limited Express (has gone?)」のリーダーをつとめる超マルチなスゴい人。
「今日はよろしくお願いします〜!」
「前置きがあまりに長過ぎたけど、やっと本番やど!」
ボロフェスタは「フックアップされなかった」人たちがつくった
「今回はフックアップをテーマとしているんですが、フックアップについて、飯田さんはピンとくるものがありました?」
「もちろん過去を振り返るとフックアップと呼べるものはあったんですが、それよりなにより、ボロフェスタの起源がフックアップされなかった、もしくはされたかった人たちのイベントなんです」
「いきなり重要な話きた!」
「15年前の何があったかというとですね、くるりがその2年前にメジャーデビューを果たしたんです。現在のくるりと言えば名前が大きく知られていますけど、当時もう京都は震撼したんですよ。『くるりがメジャデビュー!?』って」
「ほほー!」
「しかもメジャーに行っただけではなく、売れた。それによって何が起こったかというと、大手レコード会社のA&Rがくるようになったんです。『なんか京都がすごいらしいぞ』って。SONYとかVictorなんかの袋を持った人たちが小さなライブハウスに大挙したわけです」
「そこから『キセル』『つじあやの』『ママスタジヲ』に『越後屋』っていうバンドがメジャーに輩出されて、いわゆる京都ブームがどかーんと起こったんです」
「みんな有名なアーティストばっかりだ!」
「問題は京都出身のアーティストが根こそぎ持っていかれたこと。いいバンドをあらかた拾いきってA&Rたちが去ったあと、京都の音楽シーンは焼け野原になった。その頃に出てきたのが僕たちのバンドで」
「ほおほお」
「上の世代はあんなに目をかけてもらえたのに!?って。これじゃあ見てもらう機会さえない、フックアップされる術がない。俺たちをみてくれよ。そんな思いが募って、フジロックが5年目を迎えたタイミングで『自分たちでもできるんじゃ?』と決起してはじまったんです」
「のっけからエモい話だ!よくよく考えれば音楽フェスってフックアップそのものですよね。フェスで人気のアーティストがセールスを延ばして、強い固定ファンを獲得して、次のステージに上がっていく」
「そうですね」
「消費型ではないリアルな体験というのもいいですね」
「ジモコロにフックアップを絡めると、地元の良さってまだまだ見つかってないんですよ。かといってその場所に長く住むと良さが見えなくなる。外からの目線で『これいいぞー!』って発信する、これもフックアップだと思ってます。フックアップはどこにもある」
ボロフェスタだからこそできるフックアップ
「『今年はコイツをフックアップしたい!』っていうのはありますか?」
「ありますね。去年だと『Have a Nice Day!』と『NATURE DANGER GANG』という東京のバンドです。まだ京都では知られていなかったんですが、相当カッコいいんです。けど、アングラな音楽だからメジャーシーンのフェスには出られない」
「なるほど」
「そうなるともう『俺らしかいない!』って。Have a Nice Day!はエレクトロな曲なのに、モッシュやダイブが起こるバンドなんですよ。そんな特徴もふまえて、彼らは新しいカルチャーだからこんなふうに暴れたりするんだよ!って紹介しました」
「他所ではポテンシャルを出せないアーティストを出せるのがボロフェスタなのかもしれないですね」
「たとえば話題の岡崎体育くんは去年マドラグで歌ってたんですよ」
「ええっ!?」
「彼もめちゃくちゃおもしろい。ただ、オルタナ対比で見ると特殊すぎて、現在のフェスルーツには乗れないんですよ。そんなアーティストを僕たちが紹介していくってのはボロフェスタの意義としては大いにあります」
「ただ、NOTフェスルーツのアーティストであっても、岡崎体育くんや『水曜日のカンパネラ』みたいに、売れていくと呼ばない場合もあります。呼ばないっていうか、アーティスト側が、自分たちが来るとチケットが売れすぎるからって辞退していきますね」
「特定のファンだけがドッと来て、他のアーティストを熱心に見てくれないってことですか?」
「そうですね。あんまり1アーティストで引っ張ると客層が変わっちゃうし。1500人規模のフェスには、1500人規模に見合ったキャパがありますから。客側にも演奏する側にも」
「業界としてすごくきもちいい循環があるんですね」
「その上で、『このアーティストいいな』って思う基準はなんですか?」
「知名度に地域差があるときかもしれない。拠点地では完全にアツいのに、プロモーションが下手だったり、有能なA&Rがついてなくてその場に留まっている。実力があるのに進めてない。そんな人はフックアップしていきたいと思います」
「ローカルでくすぶっている人たちだ」
「地元で熱が出てるってことは、どこでも活動できるんです。でもバンドマンって人見知りだったりするから。酒が飲めたらそれでいいとか言っちゃうし」
「あー、ありますね」
「それ以外のフックアップ予備軍といえば?」
「近しい人たちに認められなきゃ、俺がフックアップしても無理だぜ、っていうのはありますね。まずは地元のライブハウスをパンパンにしなさいよって」
「そこまでは死にものぐるいで登ってきなさいってことですか」
「そうです。やっぱり実力主義なので、おもしろくても演奏やメロディーがよくないとだめ」
「それは熱量以前の問題なんですね」
「東京のバンドによく言うのは『ぼくは君たちを応援したいが、いま呼んでもボロのステージの前に集まるのはたった10人だ。それじゃダメだろう。だから東京のLIQUIDROOMを満杯にしてくれ。そうしたら絶対に呼ぶから』って」
「ほぉー」
「で、その説得から7年かけて今年来るのが『MOROHA』です」
「おおお、MOROHA!知ってます!」
「そう、MOROHAにはこの話をして、以前このステージに呼んだんです。ボロフェスタ本祭じゃなく、こっちのナノボロフェスタに」
「そしたら彼らはラッパーなんで、MCで『なんで俺らを本祭に出してくれないんだ』って内容をラップして、めっちゃ盛り上げたんですよ」
「それはアガりますねえ」
「ぼくはその場にいなかったんですが、主催者のひとりから『こんなに盛り上がったから本祭に呼びたいんだ』って電話があったんです。でもぼくは言ったんです、『待とう』って」
「ええっ、まだ早いってこと?」
「まだ早いというか、そのエネルギー持ってる奴は京都にもいっぱいいるんですよ。『そんなMCがよかったからって出してどないするねん。 お前の周りにもあるやろそれくらいの情熱ある奴』って説得して」
「おあずけフックアップだ!」
「厳しい」
「『あいつらが1000人収容のLIQUIDROOMを埋めたら、京都でも100人は埋まるから。そこまでいってから呼ぼう』って、渋々納得してもらいました。それで7年後、MOROHAから『LIQUIDROOMに見に来て』って連絡があったんです。すごくいいライブで、チケットもソールド。感動しました。そしてその日の夜に、是が非でも出てほしいですって連絡しました」
「エッモ〜〜!」
「エモすぎる!!」
「7年越しの気持ちよさ!ふぁー。僕たちなんか飯田さんに比べたらフックアップ新人ですね」
パッパラパーだからこそ京都の学生はいい
「こんなイベントができるのも京都だからじゃないですか?たしか人口の3割が学生なんですよね。『学生さん』なんて、さんづけで呼ばれるのなんて京都だけですよ」
「うーん、京都の学生さんは本当に……パッパラパーなんです」
「ええ?」
「いやこれはスゴい大事なことで。たとえば東京で同じようなイベント立ち上げると、人は集まるけど、みんな就職活動のためだったりSCRAPへの入社を目的としてるんですよ。でも、京都の学生は誰もそんなこと考えてないんです」
「パッパラパーすぎるでしょ!」
「超ステキじゃないですか。東京の人はみんな確固たる目的があるのに、京都の人はただおもしろそうとか、刺激的だからってだけでやってくる。それが最高なんですよ」
「今年は小学生から立命館の4回生までずっとアメフトやってたような奴が『刺激を求めて……』なんて理由でスタッフとして参加してます。もう意味がわからない」
「学生間の仲のよさとか、街全体が学生さんを甘やかしてるところがあるのかな」
「ぼくも甘やかされて育ってきました。京都の特性でもあるんですけど、むしろ東京がシビアすぎるのかも。東京は著名な経済人スゴい!ってなるけど、ローカルはぜんぜんそんなことない。先輩がいて街の飲み屋がいて……その土地に沿ったコミュニティがありますね」
「ぼく、もしなにかあったら京都で人生リセットしたいですもん。ダメな人を受け入れてくれそう」
「そんなこともないですけど、街全体がエモーショナルな感じ、優しい感じがあると思います。特別な街であることは間違いないですね」
くだんのアメフト部。でかい。
「ぼく、もともと音楽ライターになりたかったんですよ。京都に来たらボロフェスタのボランティアからはじめようかなぁ」
「全然いいですよ、来てください!」
SNSの活用で影響力を高めて、「スモールフックアップ」を広げよう
「このなかにもフックアップされたい人がいるんじゃないですか?」という質問に、真っ先に声をあげたガールズバンド『おとぼけビ〜バ〜』のぽっぷちゃん。
飯田さんいわく「完全にフックアップ候補です!」とのこと。かわいい見た目してパワフルな音楽がカッコいいバンドです。要チェックや!学生の頃からイベントではいつも聞いていたのでなんだか嬉しいな〜!
「ひとまず、ぼくはスモールフックアップのカルチャーを育てていきたいんです」
「スモールフックアップ?」
「その人なりの影響力が人生のなかで積み上がってくるにしたがって、助けられる人の数が増えてくるんですが、まずは誰でもできるフックアップのひとつがSNSの活用なんですよね」
「フックアップは明確な立場がある人だけじゃなくて、だれでもできるっていうのが現代、SNS時代ではOKなんですよ。たとえば友達が曲をつくってYouTubeにアップした。それをスルーするんじゃなくて、コイツのためにシェアするっていう踏みとどまりが大事だと思うんです」
「ああ、なるほど」
「シェアも、ただシェアするだけじゃなくて、なにか一言添えてあげる。それだけで周囲の人の印象に残りますよね。そうした『小さなことからコツコツと』フックアップはできる。西川きよしスタイルです」
「……?」
「完全にスベッて悲しい。誰か何か話して」
「うん。話は少し変わるんですが、SNSの使い方って難しくないですか?ちょっと最近疲れてきて。そんなに自分が何してるかって知りたいかなあって。『コイツおもしろいで』って内容は呟けるんだけど」
「『SNSってこういう場所だよね』っていう斜に構えたイメージがあるとおもうんですよね。それぞれごとに。それに流されてる場合じゃないんです」
「おお……」
「僕はSNSは広報ツールでしかない。FacebookやTwitterとかは『俺通信』。僕はこういうことやってますっていう告知で、キャラを明確にする。投稿は疲れるんだけど、自分の影響力を上げることは恥じらうことなくやるべきなんです。その方が、何か発信した時に潜在的に届く数が増える」
「なるほど……」
「たとえばSNS上で寄付を募ったとして、俺がシェアしたらこんだけ拡散するんだぜ!っていう影響力が育ちます」
「つまり影響力が高いほど、シェアしたときのフックアップ度合いが高まるってことですね。フォロワー数が多いほど、たくさんの人に拡散されるから」
「ぼくも日頃の発信は欠かしません。しかも楽しそうに発信します。『いま京都に来てまーす』って楽しそうに言うだけで『この店がおすすめです』とか『◎◎さん京都に来てますよ!』とか、周りが情報をくれて、新しい出会いがあったりするので」
「なるほどなー、おもしろかった。スモールフックアップ、すごいな」
「『京都でうまいもん食ってまーす』って言われても知らんがな、なんですよ。でも知らんがな……の向こうに何かがある。それを積み重ねていくとメリットがあるかもしれない」
「すごく勉強になった!勉強になったところで、いい時間なのでそろそろ終わりにしましょうか。おふたりともありがとうございました」
「ありがとうございました〜!」
で、ここからが本番「ボロフェスタ」の告知なわけですよ
「今日のはあくまでプレイベントなんだな!」
壮大なボリュームでお届けした今回の記事ですが、今までの話は全て布石!フックアップの権化、ローカルフェスの代表格、京都音楽カルチャーがいちばんギラギラに光るサイコーな2日間のためのイントロダクションなんです!
今年のボロフェスタは開催15周年!
イベントのなかで登場したMOROHAを筆頭に、クラムボンやtofubests、話題の岡崎体育、アイドルのBiS!クリトリック・リスにeastern youthにサニーデイ・サービスに!POLYSICSにHave a Nice Day!に忘れらんねぇよに踊ってばかりの国に……あああああああああああ!!!
出演人が豪華すぎて動悸がおさまらん!こんなにエモい人たちばっかり集めてボロフェスタは我々をどうする気なの!?エモ死にさせる気なの!?
毎年すごいけど今年はメチャクチャすごいです。ボロフェスタというイベントにフックアップされたアーティストたちがどんな音を奏で歌い、観客をどんな世界に引っ張り上げてくれるのか。はんなりイメージな京都には、ものすごいパワーをもったフェスが存在するんだと改めて思い知らされました。
このあと急いでチケット購入に走ろうと思います。
「おまちしてま〜す!」
書いた人・平山(通称:おかん)
京都の編プロ、合同会社バンクトゥの編集/ライター。兵庫県出身。大学のあだ名「おかん」がそのまま通称に。しかし実態は色々とおっさんに近い。酒場と酒を愛し、将来の夢はスナックのママ。
個人ブログ:おかんの人生飲んだくれ日記/Twitter:@hirayama_okan/所属:合同会社バンクトゥ