みなさん、長野の蕎麦は好きですか?
はじめまして!生まれも育ちも長野県。生粋の信州人ライターのナカノです。
「長野 蕎麦」と言えば、少し前にこんなツイートが話題になったことをご存知でしょうか。
長野市の人気蕎麦屋かんだたが提唱する「せいろそばのおいしい食べ方9箇条」めちゃくちゃ教えに満ちてる。そばも深刻な美味すぎ問題! pic.twitter.com/vBCSSWJ6Qd
— 本人 (@biftech) 2016年5月29日
長野県長野市にある蕎麦屋「かんだた」のカウンターに掲げられている「せいろそばのおいしい食べ方9箇条」を掲載したもの。
【手打ち(せいろそば)のおいしい食べ方 かんだた流】
1.お腹の空いた時に食べる。
2.出て来たらすぐに食べる。
3.薬味は少しずつ入れて食べる。
4.そばは八本ずつすくって食べる。
5.汁には半分ぐらいつけて食べる。
6.音を立ててすすって食べる。
7.奥歯で二回ほど噛んで食べる。
8.食べ終わったらそば湯を飲む。
9.以上を気にせず好きに食べる。
具体的な数値も交えてかなり細かいと思いきや、
「以上を気にせず好きなように食べること」
で締めくくられています。なんなの。結局どうやって食べたらいいんだよ。
一体どんな心持ちで作ったのか気になる。そして本当に美味しいそばの食べ方を知りたい。というわけで真相を探るべく、早速「かんだた」へ向かいました。
長野県長野市鶴賀権堂町2320
Twitterで話題の「かんだた」へ!
ぐっと奥まった場所にお店があります。
こちらが手打ちそば屋「かんだた」。柄杓で打ち水している頑固親父がいそうな店頭。
今回お話をお聞きしたのは蕎麦屋「かんだた」の店主・中村和三さん。東京生まれ東京育ちながら、25年前に長野へ移住してきたそうです。
「こんにちは〜。初めまして。今日はよろしくお願いします」
「こんにちは」
「今回はTwitterで話題になっている、かんだたさんの『せいろそばのおいしい食べ方』について色々お聞きしたいと思っておりますのでよろしくお願いします! 」
「あ〜、あれですね。そうそう。Twitterの影響でうちのホームページへのアクセスが集中してびっくりしちゃいましたよ」
「やっぱり! 」
「3,4年前であれば、PCからのアクセスが多かったんです。お店に来る前に、家のパソコンで情報を見ておこうってお客さんが多かったのでしょう」
「なるほど」
「大体混む日の2,3日前にアクセスが集中していました」
「プリントアウトした地図を片手に訪れるおじさま方が目に浮かびます!」
「週末に来るお客さんの人数を想定しようと思ったら、木曜日のアクセス数から検討がついてたんですよ。それが今では、全然読めなくて…」
「えっ、それはなぜですか?」
「スマホの普及で、当日のアクセスが増えたため、混雑の予想がつかなくなったんです」
「パソコン活用しまくっているんですね、中村さん。ギャップにびっくりしました。アクセス解析までして…!」
「いやあ(笑)。そうそう、ウェブページへのアクセスは増えたんですけど、Twitterのフォロワーは増えなくて…」
「え、Twitterもやってらっしゃるんですか?」
「毎日更新してます。Facebookもやっていてこちらも毎日更新していますよ」
「ええ、すごい! お客さんからしたら情報を多方面から受け取れて便利ですよね。中村さんは発信することが好きなんですか?」
「そうかもしれないですね」
「ちなみに、ブログも2006年から10年続けていますよ」
「発信欲の塊!!」
お店のブログと聞くとキャンペーン情報に偏る印象がありますが、中村さんの記事は日常生活を切り口に蕎麦、蕎麦屋の話題へと昇華させていく記事ばかり。私のオススメ記事は「女性の持つバッグが巨大化している。: 手打ちそば屋は眠れない。」です。男女ともに共感できる、「女性のバッグでかすぎ問題」を蕎麦屋に絡めて言及しています。おもしろいー!!
「せいろそばのおいしい食べ方」はどうしてできたの?
「この『手打ち(せいろそば)のおいしい食べ方』を作ったのはいつ頃なんですか?」
「これは約10年前、居酒屋時代に作ったものです」
「どうしてまた、こんな細かい指示を? しかも最後まで読んでいったら、結局好きなように食べろって…。最初から蕎麦は好きな様に食べてくださいって書けばよかったじゃないですか。忠実に守ってたら蕎麦が伸びちゃう、蕎麦が!!」
「落ち着いてください(笑)。もちろんここに書いてあることをすべて守る必要はないと思うんですよ」
「やっぱり!!」
「蕎麦が好きな人って、ああいう風に食べるこういう風に食べるって議論することが好きなんです。よく噛んで食べるとか喉ごしを大切にしたいから噛まずに食べるとか」
「なんだか回らないお寿司屋さんみたいですね。最初はこのネタを食べろ! ガリはこのタイミングで!とか」
「似ているかもしれませんね。蕎麦も寿司も昔から人々に愛されてきた食べ物ですから」
「確かにどちらも江戸時代くらいから江戸っ子に愛されている食べ物なイメージがあるかも」
「蕎麦って太麺、細麺と色々種類があるけれど、店としてこういう風に食べてもらった方がいいっていうガイドラインを示した方が、食べる人にとってわかりやすいのかなと思ってつくったんです」
「確かに、どうせ食べるならおいしく食べたいですもんね。ガイドラインがあるのはありがたいことかも」
「ただ押しつけにならないよう、最終的には各自お好きに食べてねってことで9番目の文言が入っているんです」
「かんだた流おいしい食べ方には細かい指定がありますよね。8本ずつ食べるとか、奥歯で2回噛むとか。この数字ってどこからきたんですか?」
「江戸、すなわち東京は蕎麦の一大消費地ということで、昔から庶民に愛されてきました。江戸っ子は見栄を張ることをかっこいいと思う風潮があったんです」
「それはイメージつきますね。江戸っ子=勝ち気で見栄を張っている」
「ですから、蕎麦を食べる時も、格好をつけて食べることが重要視されていたんです」
「時代劇とかでもよく蕎麦屋の描写がありますよね。蕎麦は江戸っ子を象徴してたのかな」
「そうかもしれませんね。細くて軽い東京の蕎麦が江戸っ子に愛される理由はそこにあると思っています」
「細くて軽いとかっこよく食べられるってことですか?」
「そうです。細くて軽い蕎麦を途切れなく食べること、それがかっこいい食べ方。美しく食べるためには少しずつ本当に箸に引っかかる程度で食べていただきたいなと思っています。ぐいっと持ち上げて食べる方もいらっしゃいますが、もぐもぐと咀嚼する様子はあまり美しくないですよね」
「もしかして、いつもそのカウンター越しから確認しているんですか」
「さすがにいつも見ているわけではありませんが、やっぱり食べ方が美しいと目を引きますよね」
「間違いないですね」
「長野市出身の落語家で柳家小さんという方がいらっしゃったのですが、その方は食べ物の作法がとても上手。特に蕎麦の食べ方はまさにお手本とも言える美しさでした」
「さすが落語家!」
「その人の食べ方をみてると、すっすっすって食べてあっという間になくなるのがよくわかるんです。少しずつ蕎麦をとって、ツツッと喉に落とす感覚が大切です」
「喉越しで」
「それが奥歯で2回噛むことに繋がります」
「2回かぁ。あまり噛まないで飲むってなかなか難しいですよね」
「そうなんです。慣れないとこれがまた難しい。だけど、本当は蕎麦って噛んでもおいしいんですよ。甘みが出るんです。だから多少は噛んでもいいと思っています」
「結局いいんだ!」
蕎麦の美しい食べ方
タイミングが合えば店頭の窓から蕎麦を打つ中村さんを見ることができます。
等間隔で切り揃えられていく蕎麦から目が離せない…!
まさに職人芸! 美しすぎる!!
茹でて…
ザルにすくい上げて水で締める
「うちの蕎麦は細いので1分程で茹で上がります」
「あっという間ですね…!」
丁寧に蕎麦が盛りつけられていきます。
かんだたの蕎麦の完成! 美しい!
「うーん、なんだか緊張しますね。話を聞いた後だとちゃんと食べないとって気になってしまう」
「大丈夫ですナカノさん。気にしない、気にしない!」
「大体8本とって…(ズル…ズル…)」
うっま!!!!
「おいしいです!食感を楽しむっていう感覚、なんとなく分かる気がします」
「よかったです!」
「でもずるずるっと小気味よく食べるのって難しい…。綺麗に食べるためのコツはありますか?」
「若い人は、音を立てて食べることに抵抗がある人が多いみたいですね。コツは蕎麦のすくい方ですね」
「ふむ」
「麺は重ねるように盛られているのでお箸を立てて持って真ん中からすっとすくう。慣れない人は横からからつまむことが多いのですが、蕎麦がきれいに出てこないんですよ。すくい方を変えるだけで所作が美しく見えますよ。」
「男性は蕎麦の食べ方を磨いて、女性を蕎麦屋デートに誘うべきだ!」
長野の蕎麦の歴史を聞いてみた
長野に移住してから12年間は、純米酒と手打ちそばをメインにした居酒屋を開いていた中村さん。太麺で甘いつゆが主流であった長野の蕎麦に物足りなさを感じ、自分で食べたい蕎麦を作ろうと思ったのだとか。そば打ちの基本的な打ち方を一週間ほど教わったあとは独学。自分の満足のいく蕎麦を追求して今日に至るそうです。
これだけ美味しい蕎麦を食べると、長野の蕎麦の歴史について気になってきました。そもそも、「東京と長野の蕎麦の違いとは?」「中村さんの理想の蕎麦とは?」ーー中村さんに質問をぶつけたところ、仮説ながら思いもよらぬ事実が浮かび上がってきました。
・長野の蕎麦は「細麺」「キリッとした濃いツユ」が増えてきた
・長野県民は、自宅でそば打ちをしてお金を払ってまで蕎麦を食べない説
・観光需要に合わせて、長野の蕎麦は変化してきたのではないか
・中村さん自身、東京で食べた軽い細麺を理想として使っている
・その細麺をイメージして、小説「蜘蛛の糸」の主人公「かんだた」を店名に採用
実際、長野育ちの私も外で蕎麦を食べる機会は少なく、近所からもらった蕎麦を食べることが多いんですよね。
また、蕎麦ツユには砂糖をたくさん使うのが一般的。しかし、「かんだた」では醤油とみりんのみ。砂糖の代わりにみりんを使うことによって、よりキリッとしたシャープな味わいのつゆに仕上がるそうです。
「今日は蕎麦の深いお話をありがとうございました」
「今回、Twitterきっかけで情報が拡散されましたが、長野に立ち寄った際は当店まで足を運んでほしいですね」
「うんうん。かんだたさんの蕎麦はより多くの人に食べてほしいです!」
「TwitterでRTされた割にはフォロワーが増えたわけでもないので…ぜひ皆さんフォローしてください(笑)」
「どこまでも正直だ〜!」
というわけで…
かんだたで蕎麦を食べてTwitterをフォローだ〜!!
お騒がせしました。ブログの更新です。→ネットで話題になるより、実際に店に来られるお客様が大事! https://t.co/tHD625jVLF
— かんだた (@kandatasoba) 2016年6月16日
●取材先
手打ちそば屋 かんだた
営業時間:11時30分~14時30分、19時30分~20時
※日曜、祭日は昼のみの営業
定休日:毎週水曜日、第1、3火曜日(祭日の場合は営業)
Facebookページ:https://goo.gl/Z17Ftn
書いた人:ナカノ ヒトミ
1990年長野県佐久市生まれ。中央大学文学部卒業。2014年より一般社団法人信州若者会議においてwebメディア「SALMON1000」でのライティング、長野県のUIターン事業「若鮭アカデミー」に携わる。2016年4月からは株式会社地元カンパニーにて「地元のギフト」制作に携わり、全国各地の生産者への取材を行う。 twitter: @jimonakano/個人ブログ: ナガノのナカノ/所属: 地元カンパニー