は〜どっこいしょっと。
んじゃ、おやすみなさ〜い。
ぐぉぉぉ……ぐぉぉぉ……すぴぃ……
なんて……
って車で寝られるわけないだろおおおおおおお!!!!!
取り乱してすみません、ライターの根岸達朗です。
皆さんは、車中泊を経験したことがありますか?
先の熊本地震では被災者の避難手段にもなった車中泊。プライベート空間が持てるのはいいけれど、足は伸ばせない、シートはデコボコ……。僕も一回やったことあるんですけど、とにかく体がきつすぎて、ただシートに横になればいいというもんじゃないなって痛感したんです……!
「車中泊はちゃんとしたやり方を知らないとヤバいです。僕も先日、気温5℃の車後部座席で泊まってみたんですが、寒さと勝手のわからなさで大変な目に遭いました。あと、盲腸にもなったんですよ」
「盲腸は無理しすぎたせいでしょ」
「まぁね。でも、こないだコンビニで『車中泊マニュアル』という雑誌を見つけて読んだら、知らなかった知識がわーっと入ってきて、これさえ知っておけば、全然違っただろうなあと思ったんです。これは生きる知恵だなと」
「車中泊が生きる知恵……!?」
「そう! 大げさな話じゃなくて、明日は我が身の問題です。備えあれば憂いなし。快適な車中泊マニュアルを取材して、その知識をジモコロの読者にも届けましょう。そしてみんなで車中泊マスターを目指そう!」
「家族を持つ人間としても知っておいた方がいいことなのかもしれないですね。わかりました!」
というわけで、今回は車中泊の正しい知識を学ぶべく、車中泊専門誌『カーネル』を発行する出版社「地球丸」さんを訪問! いざというときに使えるテクニックや、車中泊を快適に楽しむコツなど、柿次郎編集長と一緒に勉強してきました。
http://www.chikyumaru.co.jp/carneru/
話を聞かせてくれたのは、カーネル編集部の友光哲さん。
本日はよろしくお願いします!
明日は我が身! 生きる知恵としての「車中泊」
「先の熊本地震では避難所に入れなかった人たちが車中泊をしてエコノミークラス症候群になったとか、ネガティブな報道もたくさんありました」
「そうでしたね」
「もし自分がそういう状況になって、とりあえず家を出よう、でもプライベートは確保しようとおもったときに、やっぱり車中泊っていうのはひとつの選択肢になると思うんです」
「震災のときは、車中泊の問題点が一元的に報じられていた印象もありますね。少なくとも、車中泊をポジティブに捉えているものではなかったなあと。そのあたりどうですか?」
「車中泊をテーマにした雑誌をつくっている私たちもそれはすごく感じましたね。だからこそ私たちとしては、車中泊の魅力を正しく伝えていく必要があると思っていて」
「車中泊自体は悪いものではないという?」
「そうですね。実際、アウトドア好きの人や、車中泊を趣味にしている人たちなどはその利便性の高さから車中泊をしています。工夫すればいくらでも快適に寝る方法はあるんですよ」
「実際移動もできて、寝泊りもできるなら、これほど合理的なものはないと思います。ただそれにはある程度の慣れが必要なんじゃないかと。準備なしにいきなりやるといろんなトラブルがありそうで」
「そうですね。特に災害時だと普段よりも限られた状況になりますから、あれもこれもしようっていうのはむずかしいと思います」
「最低限の道具で車中泊をしなければならないわけですよね。実際、熊本の現場はどんな感じだったんですか?」
「次の写真は避難所になっていたグランメッセ熊本で車中泊をしていたクルマを編集長が撮影させてもらったものです。家のなかにあるものや、その場で手に入れたものなどを使って車中泊をしている人も多かったようですね」
「初めは慣れなくて安眠できなかったという人もいたようですが、みなさんなんとか工夫をして乗り越えていたようです」
「クルマで避難するとなると、自分のことは自分でやらないといけないですしね。アウトドアの下地みたいなものが大事になってきそうな気がします」
「そうですね。実は私たちも雑誌づくりではアウトドアカルチャーとずっと向き合ってきたんです。うちの雑誌の名前になっている『カーネル』も、元々は釣り人用語なんですよ」
「え、そうなんですか。なんか気になる名前だなとは思ってましたが」
「魚が釣れるのって夜中だったり、早朝だったりするじゃないですか。それで、みんな夜のうちに釣り場の近くにクルマを止めて車中泊をしていた。それが琵琶湖周辺の釣り人たちの間で『カーネル』と呼ばれていたんです」
「『今日俺、カーネルだから』みたいな?」
「『今日俺、クルマで寝るから』と文字数変わらないのに」
「まあ、そうですね(笑)。でも、編集長いわく、一部の釣り人には浸透している言葉だったみたいですよ。それが私たちのルーツです」
「へえ。車中泊もひとつのアウドドアカルチャーだったんですね。おもしろいなあ」
「はい。というわけで、今日は僕の方から最低限知っておいてもらいたい車中泊の知識を皆さんにお伝えしようと思います。これさえ押さえれば、とりあえず車中泊はできますよ!」
「おおお、めちゃくちゃ頼もしい! 外に僕のクルマが停めてあるんで、ぜひレクチャーしてください!」
車中泊の真髄は「水平」にあり
「12万キロ走ったトヨタのアレックスというコンパクトカーです。息子がお菓子を食べ散らかしてめちゃくちゃ汚いですが、掃除なんてしてたら逃げ遅れることまちがいないので、そのまま来ました!」
「このくらいのサイズでも1〜2人であれば、十分車中泊はできますよ。もちろん車が大きければ大きいほど車内空間は快適になりますが、狭い軽自動車を改造して車中泊をしている人もいるくらいなので問題ありません」
「そうですよね。今あるものでなんとかする精神が大切だと思います」
「ちなみにこのクルマは後部座席を倒してフラットシートにできますか?」
「あ、どうなんだろ。やってみますね」
「お、できそうですね。何年もこのクルマに乗ってるけど、はじめてやったかも。意外と自分のクルマの構造を知らないんだな……」
「フラットシートって車中泊の基本で、これができるかどうかが実はかなり重要なんですよ。実用性を考えてクルマを買うのであれば、そのあたりは検討材料のひとつにしてもいいくらいです」
「なるほど。そうなってくると、必然的に車種は荷室とキャビンがつながっているハッチバックやSUV、バンのようなタイプになりますね。でもなんでフラットシートがそんなに大事なんですか?」
「人は水平じゃないと絶対に安眠できないからです」
「わかるー! 縦とか斜めの状態で寝るのってめちゃくちゃつらいんですよ。終電逃してネットカフェのオープン席で寝ようとしたら地獄でした。寝るときは絶対に水平じゃないとダメ。あとは落ち着く環境で好きなタイミングでウンコができれば最高。それが幸せの最低ラインです」
「新しいタイプのミニマリストか。でもまあ、究極的にはそうかもしれない。まずは平らな場所を探して……」
「そうです。一見平らに見える駐車場でも、意外と傾斜になっているものなんです。こだわる人はジャッキでクルマを持ち上げたりもしますよ」
「すごい。それだけみんな水平の大切さを知ってるわけですね」
「ん、なんですかこれ?」
「子どもが好きなクマのぬいぐるみとビニールの剣です。子どもと車中泊をするなら、多少ファンシーなアイテムがあった方が和むなと……え? あれ? 違う? アンパンマンのボールもあるよ」
「2億%いらないアイテムですよね?」
「……精神的な安定は大切なので、まあいいでしょう。それよりもむしろ、クマのぬいぐるみの横にあるタオルの方が必要ですね」
「タオル!? それは意外な……」
車中泊における「タオル」活用法
「あ、これですね?」
「そうです。とりあえずそれだけ出しといてもらって、現状のままで横になってみてもらますか?」
「どうですか? 寝られそう?」
「あー足が多少伸ばせるだけでぜんぜん違いますね。ただちょっと硬いのと、倒したところのつなぎ目がボコボコしてて、安眠できるかっていうと……」
「はい、そこでタオルを敷く! ボコボコになってるところをタオルで埋める!!」
「え……あ、はい!」
「こ、こういうこと……?」
「はい。タオルや衣類は自由度が高くてクッション性があるので、間を埋めるのに便利なんです。ウォークスルーのあるクルマなら、窪みに大きめのリュックやカバンなどを詰めつつ、タオルで段差を微調整するといいですね」
「へええ……まったく想像してなかった使い方です」
「まずはタオルでできるだけフラットなスペースをつくる。その上に銀マットやエアマットを敷けば、かなり快適になると思います。100円ショップなどで売っているタイルカーペットも悪くないです」
「そのくらいだったら普段からクルマのなかに積んでおいてもいいかもしれないですね。タオル数枚となんらかのマットと……」
「あと、意外と大事なのが窓の目隠し。実はこれもタオルで大丈夫です。パワーウィンドウに挟んでみてもらえますか?」
「こんな感じですか? とりあえずやってみた感がすごいですが」
「はい、いいと思います。プライベートが確保できますし、冬場は防寒にもなります。ただこれだと窓が開けられないので、夏場だったら外側からマグネットなどでくっつけてカーテンみたいにするやり方もありです。ロープを張って、洗濯バサミやガムテープでとめてもOK」
「なるほど〜。家に帰ったらいらなくなったタオルを探してみよう」
あると便利な「車中泊」アイテム
「ほかにも便利なアイテムがあれば教えてもらえますか?」
「時期によって持っておきたいアイテムは変わるのですが、どのシーズンでも使えそうなアイテムを厳選してみますね!」
▼The 車中泊便利アイテム
「おおお! 確かに必要になりそうなアイテムばかり。これだけ揃っていたらかなり安心感あります」
「意外と忘れがちなんですが、持っておくと便利なのは十徳ナイフ。工具も何かと使えるので、一式をまとめたツールボックスをひとつトランクに積んでおくのもいいと思います」
「ああ、確かに。アウトドアだと、食料の開け口がつぶれてどうにもならないときとか、ちょっとしたモノの修理が必要になる場面とか、実際ありますもんね。とりあえず、ぬいぐるみやビニールの剣を積み込んでる場合じゃない!」
「車中泊にファンシーはいらない……と。じゃあ、気候が厳しくなりそうな夏とか冬だったら何が必要ですか?」
「夏だったら、虫対策でしょう。虫除けスプレーは必需品です。あとはホームセンターなどに売ってる網戸シート。これを窓のサイズにカットして貼り付けます。夜はランタンなど光の出るものを車から少し離れたところに置いて、そこに虫を集めるのもいいですね。ただし、近くにほかのお客さんがいるときは迷惑にならないようにしてください」
「光に集まる虫の習性を利用するとか、すごくアウトドア的。じゃあ、夏場の車内の暑さ対策は?」
「湿度を取り除くだけでもだいぶ違いますね。なので、タンスの湿気取りに使うような除湿剤を車内にひとつ置いておきましょう。USB扇風機もあるといいですね」
「なるほど……でも、それだけで寝られるかなあ。暑がりなんで」
「うーん。であれば、30分くらいクルマを走らせて、標高の高いところに移動するというのも手です。単純に標高が上がれば気温は下がります。山間の展望台の駐車場などを利用してもいいと思います」
「おお。移動できるクルマならではのテクニック! それはよさそうですね。でも、冬場は逆に平地に降りた方がよさそうですね。高いところだと気温も低いし、雪が降る可能性もあるわけで」
「そうですね。寒さに関しては、重ね着をした上で厚手の寝袋に入る、カイロや湯たんぽなどのあったかアイテムを利用するなどして、意外と乗り越えられます。気を付けたいのは、雪や凍結によるトラブルでしょう」
「どんなトラブルがあるんですか?」
「朝起きたらクルマが雪に囲まれていて身動きが取れなくなったとか、夜中に用を足そうと外に出たら地面が凍っていて転倒した……なんていう話は聞きますね。場所選びは重要だと思います」
「冬は結構気をつけること多そうですね」
「そうですね。あと、冬場は絶対にエンジンをかけっぱなしにして寝ないこと。誌面でも注意喚起してますが、クルマのマフラーが雪で埋もれてしまうと、車内にガスが逆流して……」
「一酸化炭素中毒で死にます」
「こえええええ!!!!!!!」
「当たり前ですが、体調不良や命の危険を感じるようなことがあったら、すぐに車中泊をやめましょう。どの時期にも共通して言えるのは、絶対に無理はしないということです」
「はい! 死にたくないので気をつけます!」
エコノミークラス症候群を防ぐために
「いやーそれにしても、後ろのフラットシート、僕ひとりならいいけど、家族で寝るとなったら厳しそうだなあ。ハイエースくらい大きなクルマだったらいいけど……」
「そうですね。その場合は誰か一人が避難所に泊まるか、前席に寝るか……。前席はフラットにしにくいのでなるべく避けたいのですが、試しに一回寝てみてもらえます?」
「こんな感じですかね」
「ちょっとー! これダメなんじゃないですか!?」
「うーん、そうですね。足が水平になってないんで……」
「エコノミークラス症候群になりますね」
「え? なるの確定!?」
「確率は高まります。エコノミークラス症候群は血液のなかに血栓ができてしまう病気ですが、足を下にして長時間同じ姿勢だと、血流が滞って血栓ができやすくなってしまうんです」
「なんと……どうすればいいんですか?」
「そうですねえ、どうしてもここで寝るというのであれば、せめて足の下に寝袋やリュックなどを置きましょう。できるだけ高さを上げてフラットに近づけることが大事です」
「ああ……これ、フラットとは言えないけど、不思議な安心感あるな。足を上げるだけでぜんぜん違う!」
「この男、エコノミークラス症候群……別名、急性肺血栓感染症をなめていたとしか思えない! 正式名称で危険を訴えていくぞ!」
「急性肺血栓感染症……字面のヤバさがすごい。でも、この機会にいろいろ知れたからよかったなあ」
「私たちとしても、できるだけ普段から経験してもらうことをおすすめしたいんですよ。たとえばこれからの季節だったら、旅行などとからめるのもいいですよね。3日間の旅行のうち2日間を車中泊にして、浮いた分のお金で最後の日にちょっといいホテルに泊まるとか」
「それはいい! 車中泊を選択することで、旅の自由度もすごく広がりそう。非日常感もあって楽しいかもしれません」
「まずは車中泊をひとつのレジャーのように捉えてもらえたらいいなと。一度やってみると、自分にとって何が必要で何が必要でないのかもわかると思うので、ぜひいろいろと工夫をしながらやってみてください。車中泊って意外と奥深いんですよ」
「勉強になりました! ありがとうございます!」
<車中泊これだけは覚えておこう!>
・自分のクルマがフラットシートにできるか確認する
・車内の凸凹はタオルで埋める
・できるだけクルマは水平の場所に止める
・便利アイテムはできるだけ車内に常備しておく
・車内が暑くて寝られないときは思い切って高地に移動する
・冬場は雪・凍結に注意(エンジンを入れたまま寝ないこと!)
・エコノミークラス症候群を予防するのも「水平」が大事
取材を終えて
移動手段としてのクルマも視点を変えれば、我が身を守るシェルターになる。もちろんある程度の準備や慣れは必要になるけれど、そういう使い方ができるんだということを意識するだけでも、災害への心構えは変わってくるのではないでしょうか。
まずは練習がてらに、レジャー感覚でやってみる。旅の選択肢のひとつとして、車中泊があってもいいし、もしかしたら中途半端な宿に泊まるよりもそのほうが経済的でいい!なんてこともあるかもしれません。
普段からクルマに乗っている人も、都会暮らしなんでクルマはいらないよ〜なんて思っている人も、ちょっとだけ車中泊のことを考えてみてもらえたらうれしいです。僕も今はがぜんやる気になってます。
おやすみなさい、またどこかで。
書いた人:根岸達朗
東京生まれ東京育ちのローカルライター。ニュータウンの端っこで子育てしながら、毎日ぬかみそひっくり返してます。Mail:negishi.tatsuro@gmail.com/Twitter ID:@onceagain74/Facebook:根岸達朗