2016年、4月14日に発生した熊本地震。 日本国内の観測事例としては阪神大震災、新潟県中越地震、東日本大震災につづいて4度目の震度7を記録する大地震となりました。
多くの方が電気や水道を断たれ、あるいは住む場所を地震によって奪われました。ライフラインが復旧せず、避難先で満足に食べるものがない……といったトラブルも報道されていましたね。
まずは身の安全を保障できる空間、続いて食べ物をいかに確保するかが、大きな災害が起きた時に大切なことではないでしょうか。
みなさんはじめまして、平山と申します。通称は「おかん」です。眉毛が白飛びしまくって、元ヤンみたいな風貌ですみません。先日、「日本おもしろ記事大賞」で長嶋有賞をいただきました。
あっ、おかんはニックネームであって、未婚で子どももいません。
わたしも幼少時に阪神大震災で震度7を経験しました。避難先の体育館で子どもながらに「これからどうなるんやろ……」と不安だったのを覚えています。
あと、ちゃんとした食べ物があんまりなかったんですよね。
あったかいごはんが食べたくて仕方なかったなぁ。熊本地震のニュースを見ながらそんなことを考えていたら、こんなツイートが話題になったのです。
みなさんは「被災飯テロ」なるTwitterのハッシュタグをご存知でしょうか。
被災してるからって飯テロが無いと思ったか?w pic.twitter.com/SSyeZgx4dy
— 魔王Dark=Kochang (@dark_kochang) 2016年4月16日
おおおお!?
冷蔵庫で「解凍」された七城豚肩ロースと、ハーブ花壇からちぎってきたローズマリーとタイムでポークソテーだー!#被災飯テロpic.twitter.com/vDMM1qBF68
— 魔王Dark=Kochang (@dark_kochang) 2016年4月17日
この状況でまさかの飯テロ!!!
朝はベーコン餅。
— 魔王Dark=Kochang (@dark_kochang) 2016年4月18日
阿蘇の有名な燻製屋、ひばり工房さんから回ってきたベーコンさ!#被災飯テロpic.twitter.com/Zt2UbMpHLo
しかも、超絶うまそうなもん食ってんじゃねぇか……。
「誰だよこのポジティブ野郎」と思ってツィート主を見たらこれがビックリ。
こ、このお方は……燻製講座の悪魔さんやないか!!
悪魔近影。見たことある!って人も多いんでなかろうか(提供:Dark=Kochang)
説明しよう! 悪魔ことDark=Kochangは、ニコニコ動画初期に活躍された動画投稿者。強烈なビジュアルとは対照的に、家庭的で丁寧な燻製講座のギャップが話題を呼び「ニコニコ馬鹿十二神将」のタグをほしいままに、今なお人気を誇っている。
Youtubeにもアップされているので、詳しくはそちらを参照されたし。
「被災飯テロ」の仕掛人がまさかこの人だったなんて……。あのハッシュタグの理由や、被災しての体験談を聞いて、わたしも来たる次の災害にしっかりと備えたい!
しかも当時、何度もこの動画を見ていた人間からすれば、もうこれは実際に話を聞くしかないやないかーい!
そんなわけで、Dark=Kochang氏にネットインタビューを行い、熊本地震での体験談や、被災飯のコツなどをきいてきました!
熊本地震、悪魔宅はどうだった?
こちらが悪魔の世を忍ぶ仮のお住まい。これは被災前(提供:Dark=Kochang)
「やや、このたびはお見舞い申し上げます。Dark=Kochangさんのお住まいの場所は、どのくらいの被害だったんですか?」
「阿蘇なので震度6弱ですね。体感的には6強くらいだったと思うけど、そのあとも余震の震源地になったりもしましたし」
室外機は倒れ、玄関は歪んで動かないとか(提供:Dark=Kochang)
「甚大な被害のなかよくぞご無事で!」
「うちは運良く助かってます(笑)。けど、玄関や部屋のドア、間仕切りが動かないとか、そういった被害はまだ解決できていません」
「地震当時は何をしてたんですか?」
「Netflixで『ジェシカジョーンズ』を見てて、ガッと揺れて。リアルに『何だこりゃぁああああ!!』と叫びました(笑)」
「突然の松田優作」
「外国ドラマに影響されすぎて、ドアが開かなかった時、『うおおぉ!くそったれ!』と叫びながらタックルしましたね(笑)」
ドアをぶつけ壊し、臨月の奥さんとお子さんを連れて外へ避難
「上の娘は地割れのようにズレたベッドの隙間に飲み込まれたまま寝てました」
「ご家族みなさん無事だったから言えますが、カオスすぎる」
「父親のオレが平気にしてるから、彼女もトラウマがないのがよかったなぁ」
好奇心から生まれた「#被災飯テロ」
揺れで荒れ放題の悪魔部屋。PCは壊れた。そのあと自力で直したらしい(提供:Dark=Kochang)
「被災飯テロ、話題になりましたね。ポジティブオバケすぎて爆笑しました」
「あれはですねー、別に周囲に元気を与えようとかいう意図は全く無いんですよ。『被災してるけど頑張ろう!』とか思ってもなかった」
「あ、確かにそれは感じなかったです」
「(ククク……ここで飯テロかませたら、みんなビビるかなぁ……?)という、純粋な興味で」
「震災時って、たとえば『おいしいお肉食べました〜♡』なんて言うと『被災した人の気持ちも考えろ』って叩かれたりして、過剰な不謹慎狩りがあるじゃないですか」
「当時は『オレ自身が不謹慎になることだ』って思ってました」
「某マンガの主人公かよ」
3日生き延びるための備えが大事
しっちゃかめっちゃかの台所。この中を引っかきまわして食材を探したそう(提供:Dark=Kochang)
「被災飯テロのきっかけは不可抗力なんですよ。冷蔵庫の中身がいっぱいだから、処理しようかっていうタイミングで」
「そうだったのか!結果的に助かった感はありました?」
「他にも備蓄があったので、なくても問題なかったですけど、処理が一気に進んでよかったなと。非日常で食うポークソテー、めちゃくちゃウマいですよ」
「朗らかすぎて笑う」
「何と言うか、3日生き延びればなんとかなるだろ、っていう確信みたいな、日本の技術力に対する信頼があるんですよね。先の東日本大震災を見てて」
「復旧できるまでの数日を自力で生き延びられるってのは大事なことかもしれませんね」
「あとこれは田舎だからだけど、野菜なりいろいろと食べ物を貰えたりする環境なので、餓死だけは絶対ないから気が楽でしたね」
「都会は地震が起きると動きが止まっちゃうし、かといって身近に食べ物がタダでとれるなんて環境はないので、自力で備えなきゃですね」
ネットができる装備は現代ではマスト
「水や電気は大丈夫だったんですか?」
「水はエコキュートに溜まってたし、電気は太陽光発電を取り入れてるので昼間は使えました」
「何それチートすぎる」
「もしものために要塞になるように家をつくってたので。停電してると売電しないから、充電用に住民に開放したら、なかなか好評でした」
「神かよ……いや、悪魔か」
「キャリアの通信障害も、太陽光でルーター起動させてWi-Fi繋げて解決。停電時に太陽光発電で何ができるか把握してたのがよかったですね」
「生き埋めになった人が友達にLINEをして救出されたってニュースもあったもんなぁ。状況によっては充電切れると詰みますね。太陽光発電は無理でも、せめてモバイルバッテリーくらいは持っておかなきゃ! それにしても悪魔無敵すぎんよ……」
「それでも個人でできることには限界がたくさんあります。災害復旧のために、全国から集まってくれた自衛隊や電力会社、ボランティア、携帯キャリア、すべての人々に心から感謝します!」
「モバイルバッテリーを常備しとけば、行きつけの飲み屋で毎度毎度iPhoneの充電器を借りるってこともなくなるよね!(ホントすいません)」
手軽に使えて必要な装備とは?
こちらは阪神大震災の被災写真。火災が多発し、倒壊に加えて延焼被害が多かった(借用:一般財団法人消防防災科学センターより)
「阪神大震災で被災して何日か避難してたんですが、食べ物があまり満足になかったので、避難中はちゃんとご飯らしいご飯が食べたかったんですよね」
「飯は大事ですからね。餅は保存が利いて腹持ちもいいのでオススメです」
散乱した室内で餅を発見するの図(提供:Dark=Kochang)
「これは持ってたら有事の際に役に立つ!ってのはありますか?」
「カセットコンロはマジでいいですよ!操作難しくないし、燃料がすぐに手に入るので、アウトドア用品よりよっぽど現実的です」
「災害=サバイバル=アウトドア用品……って、思い込みがちな構図ですね」
「アウトドア用品のバーナーとかあるといいとか言うけど、あんなの家族のなかでもお父さんくらいしか使い方知らないでしょ(笑)だったら断然カセットコンロです」
「単身者は持ってない人も多いし、家庭でもホットプレート派の人もいますもんね。ふむふむ、カセットコンロは超便利……と」
「鍋に水を湧かして、タオルで拭けば風呂替わりにもなるな」
「あと、今回鉄のフライパンが大活躍でした」
「鉄ですか」
「普通のテフロンでもいいと思いますけど、鉄はハードに扱えるので。あと、鉄フライパンは洗剤が不要なんです。水だけで洗うのが正しい洗い方」
「なるほど。洗剤を使わない分、水の節約になりますね」
「今回で鉄のフライパンの魅力がわかったんで、家庭のメインフライパンに躍り出ました」
完全復旧はまだまだこれから
住宅の基礎と犬走り(建物の軒下などに、外壁に沿った周囲の地面を砂利やコンクリート敷きにして固めてある部分)はビッキビキに壊れてしまったんだそう(提供:Dark=Kochang)
「そういえば先日下のお子さんが生まれたんですよね。おめでとうございます!」
「ありがとうございます」
「子育てに家の手直しに、お忙しいですね」
「ですねー。家を直すのは大工さんの手が足りないから、自分も手伝う予定ですけど」
「Dark=Kochangさんって日曜大工マスター感ありますよね」
「職業柄、何でも屋みたいなところがあって、いろんな職人さんの仕事をよく見ているので、他の人よりやり方をたくさん知っているところはあるかもしれませんね」
「あと菜園もありません?」
「そうですね。タイム、ローズマリー、セージ。あと紫蘇とバジル、パクチーとか。あ、ブラックペパーミントも」
「家庭&子持ちで、家も自分で修理するくらいDIYが得意で、ハーブを育てている、悪魔……?」
「ひとりTOKIOを目指してるんです」
(想像図)
「絵面がヤバイ」
「まだまだ途中ですけどね。子どもの世話や家事、家の復旧が落ち着けば、何とか今年中には飯テロ動画の投稿を復活させたいですね」
厚さ約1.5cmほどの手作りベーコンステーキ!
— 魔王Dark=Kochang (@dark_kochang) 2016年4月29日
被災前から冷蔵庫に入っていた最後の食材だ…。
これを以ってオレの被災飯テロは終わり。
いつまでも被災者気分ではいられない。
これからは復旧に全力を尽くす!#被災飯テロ完ッ! pic.twitter.com/6JgefVRIh6
「新作が見られる日を楽しみにしてます! 今日はありがとうございました! 私も教わった知恵を活かして料理に挑戦してみます!」
「ありがとうございました!」
もしもの時の訓練に!被災飯テロを実践しよう!
さて、Dark=Kochang氏からの体験談をもとに、被災飯テロを実践してみようと思います。 バッチリ空焚きして油に慣らした鉄のフライパンも準備!
コンクリブロックの上にカセットコンロをセット。そして、タイムとにんにく、レモン汁でマリネしておいた豚トロを……。
豪快に焼く!!
でも絵面は地味!
野外感を出すため家の裏庭で実践しておりますが、灼熱すぎて溶けそうです。
食器は被災時に便利だと聞いた、お皿にラップでコーティングしたものを使用。砂利の上にテーブルを置いてるので皿が傾いてしまう……。
フライパンに残った油とタイムを再利用して、冷凍庫にあった餅とトマトジュースをドボン。水分を飛ばしてソースをつくります。
水分が飛び、ソースが餅によく絡んだら……
完〜〜〜成〜〜〜〜〜!
トマトソースにはダメ押しのチーズを投入。なかなかの飯テロ感ではないでしょうか?
いざ実食! いただきます!
……。
おいしい!!(クソ汗だく)
トマトジュースを煮詰めてつくったソースも、豚トロの脂とハーブのおかげで塩を加えるだけでしっかりコクがあります。餅に合う〜。
冷蔵庫の処理にもなるし、もしもの時にちゃんと肉が食べられるというのは嬉しいですね。これは元気が出るメニューです!
さて、食ったらとっととお片づけです。
フライパンに残ったソースをキッチンペーパーできれいに拭き取って、
タワシで汚れをこすり落として水をポイ、空焚きして終了!
発生したゴミは皿に張っていたラップと、拭き取ったキッチンペーパーのみ。水も150mlほどしか使いませんでした。
ちなみに、実践して感じたことは以下。
1:お皿にラップは結構スベる
ソースなどは結構滑ります。浅い皿でも、ピンと張ってしまいがちなので、使うのは結構難しい。使用感としては紙皿のほうが便利かも。
2:鉄のフライパンは実際かなり便利!
洗剤を使わなくていいので、片づけがものすごく楽です。このラクさは使ってみて実感した! 我が家でもすっかりメインのフライパンになりました。
3:備蓄は用意しておくべき、マジで
何を今更……と思うかもしれませんが、常に缶詰やらレトルトやらを常に備えてる人って結構少ないと思うんです。一人暮らしの人は特に。のんきに暮らしてると、わかっていても用意しないんですよねぇ。
家の台所に何もない人は、このあとスーパーに行ってください!
今回の取材でわかったこと
誰しも被災の危険はすぐ近くにあります。ヨソでも散々言われてますが、ちゃんと備えておくことが大切!わたしもちゃんと備蓄を揃えなきゃ。
また、天災は避けようがないもの。被災飯テロのハッシュタグのように「どうしようもないから、せめて面白く」精神で、明るい発信をすることが、くじけそうになる心を支えてくれるかもしれません。
7月にあった熊本震災支援イベント、私も参加してきました。おいしい食べ物を食べて、お酒を飲んで(酔いつぶれ)、たくさん散財してきましたよ!
そのレポはまた別記事にて!
書いた人・平山(通称:おかん)
京都の編プロ、合同会社バンクトゥの編集/ライター。兵庫県出身。大学のあだ名「おかん」がそのまま通称に。しかし実態は色々とおっさんに近い。酒場と酒を愛し、将来の夢はスナックのママ。
個人ブログ:おかんの人生飲んだくれ日記/Twitter:@hirayama_okan/所属:合同会社バンクトゥ