こんにちは、ライターの瀬谷です。
突然ですが、みなさんが「買い物」と聞いてイメージするのはどんなことでしょうか?
ネットでポチッとすること。スーパーやコンビニのレジに並ぶこと。個人店で、店主さんと二言三言会話を交わすこと。
そのどれもが「買い物」ですし、今はものを買う手段が本当にさまざま。極端な話、ネット環境さえあれば、店に行かなくても生活は回る。それが一番効率的な買い物の手段かもしれません。
けれど、そんな現代の買い物に逆行している店が、今回の主人公です。
それが、愛知県津島市にある「りんねしゃ」。
周りにあるのは田んぼ。時折車は通るものの、静けさの中に虫の鳴き声だけが聞こえるのどかな空気。
こんな場所にあるのだから、なんでも揃うコンビニのような店かと思えば、そうではない。ここにはこだわりの自然食品しか並んでいません。
え、この片田舎で? そう。でも、なぜか人が集まるんです。取材に訪れたのも平日の昼日中でしたが、人がひっきりなしに訪れる……それが「りんねしゃ」です。
そんなお店を営むのが、店主の大島幸枝さん(以下、さちえさん)。
彼女はただの店主ではなくて、さまざまな商品やイベントを企画しているプレーヤーでもあります。たとえばこちらの「菊花せんこう」。
今や全国の雑貨店やセレクトショップで販売されているので、見覚えがある方もいるのでは。「アロマで防虫」をコンセプトに、体に優しい天然成分だけで作られ、虫を殺すのではなくて追い払うことで虫除けができる、画期的な防虫線香です。
この線香を、原料になる除虫菊という植物の栽培から商品企画、販売まで一貫して手掛けているのが、さちえさん一家。
それから、今年も大盛況だった愛知県蒲郡のフェス「森道市場」。その中で澤田酒造や寺田本家など、今をときめく発酵業界のプレーヤーとともに「発酵居酒屋」のブースを出店しているのも、さちえさん。
今年は庭師の職人さんをチームに巻き込み、このイベントだけのために「土に還る」土壁のブースを設営し反響を集めました
そのほかにも、名古屋タカシマヤで食の催事をプロデュースしたり、発酵マルシェや精進レストランなどのイベントを企画したり……。食に関わるさまざまな物事を企画し、発信する。さちえさんはいわば「食の編集者」 的存在なのです。
ジモコロ編集長・友光だんご「そんなさちえさんを、ずっと前から取材したかったんです!」
瀬谷「元々わたしも菊花せんこうを愛用していて、いろんなところでお名前を聞くので気になっていました」
だんご「さちえさんって本当にパワフルな存在で。りんねしゃ含め、ルーツがすごく気になってたんだけど、どうやらご両親も相当個性的だったみたいなんですよね。いろいろ気になるので話を聞いてみたい!」
そんな訳で今回は、さちえさんを訪ねて愛知へ。彼女というひとが生まれた背景と、なぜ「りんねしゃ」が長く愛され続ける店なのか。その理由を深堀りしてみたら、「買い物」の本質も見えてきました。
左:瀬谷 / 右:さちえさん
話を聞いた人:大島幸枝さん
愛知県津島市で、46年続く自然食品店「りんねしゃ」を営む株式会社りんねしゃの2代目代表取締役。全国の生産者から届くこだわりの調味料や野菜などの食品を、「共同購入」というスタイルで食卓に届ける。また、 オリジナルのエコロジー雑貨や基礎調味料などを新しい視点で開発、販売したり、様々なイベントを手がけたりと、多岐に渡って活動する。
水も電気もない山奥で過ごした? 驚きの幼少時代
訪れたのは、三重県多気町の複合施設「VISON」内にある、りんねしゃの3店舗目「本草研究所RINNE」。
この新店舗のお話も気になるところですが、まずはさちえさんの個性的すぎる半生について聞きました。
ジモコロ編集長の友光だんごさん(写真右)も同行
瀬谷「さちえさんは『りんねしゃ』の2代目ということですが、元々は、お父さんがりんねしゃを始めたんですよね」
さちえさん「そうです。両親は食に関して強い信念をもつ人でした。当時(40年近く前)で言ったらかなり前衛的な思想を持っていたんじゃないかと思います。
例えば家族旅行に行くといえば、生産者さんを巡ることだったし、母が作るお弁当といえば、玄米にナスとピーマンを炒めたやつ……お弁当の中身が茶色くて恥ずかしかった」
だんご「かなり自然派な家だったんですね」
さちえさん「でも、一番衝撃的だったのは中学1年の頃のこと。ある朝、母が『電気も水もないところで暮らしたい』と言い出して、家族皆で山奥に移住することになったんです」
だんご「山奥……どんな場所ですか?」
さちえさん「本当に何もないところ。水道も電気も通ってない山奥の家でした。私は6人兄妹の1番上で、当時小学5年生だったんですが、到着して最初に、竹を割って水を流す水路を作ったのを覚えてます(笑)。それくらいサバイバルな土地でしたね」
瀬谷「まさに自給自足! そこにどのくらい暮らしたんですか?」
さちえさん「それが、私は嫌でたまらなくて。1週間も経たないうちに町へ帰ってきて、おばあちゃんの家で暮らすことにしたんですね」
だんご「早々に脱出を。思春期には辛そうですもんね……」
さちえさん「でも、弟たちはまだ小さかったから帰りたいっていう気持ちもなかったみたい。生活も合っていたのか、結局そのまま山で育ちました」
犯罪者扱いされた父、決めた方に突っ走る母。そんな家庭が嫌だった
だんご「しかし、思い立ったら家族を巻き込んで実行しちゃうお母さん、すごいですね」
さちえさん「本当にね、私たち子どもは親の意志の強さにうんざりしてました。うちの父なんて、昔、犯罪者として新聞に掲載されたこともあるんですよ」
瀬谷「は、犯罪者!? なんでですか」
さちえさん「犯罪者といっても、誰かを傷つけたりしたわけじゃないですよ。食料管理法という法律を破ったからなんです。昔は国民の主食であるお米を政府が買い上げて、生産や流通を一元的に管理していたんです」
だんご「今みたいに、農家さんがお米を自由に売ったりできなかったってことですか?」
さちえさん「そうなんです。戦時中の食糧不足の時代にできた法律だったんだけど、戦後に状況が改善されてからも残っていたんですね。その結果、お米が国内で大量に余ったり、『ヤミ米』なんて言葉が生まれたり」
だんご「そんな時代があったんですね……」
さちえさん「だから食管法に『農家の権利や利益が守られるべき』と反対する人たちもいて、私の父もそのひとり。りんねしゃを通じて『共同購入』(※事前に注文をとって必要な数だけを発注し、お客さまにお届けするという購入法)という仕組みを導入し、農家さんから直取引で品物を売買してたんです」
だんご「もしや、それが法律に触れてしまった」
さちえさん「はい。その共同購入が、当時は食管法違反とされたんですね。その後、食管法は1995年に廃止されて、共同購入という仕組みも生協さんをはじめ、いろんなところで導入されています」
瀬谷「お父さんはその時代からものすごく勇敢な取り組みをされていたんですね。でも、家族としてはきっと不安じゃありませんでしたか?」
さちえさん「それは不安ですよ! 自分の父親が犯罪者?なんて、幼心にすごく怖かった」
瀬谷「そうですよね……」
さちえさん「当時、父が『父ちゃんは何にも悪いことはやってない。だから大丈夫だ。お前たちも自分の正しいと思った道をゆけ』と私たちに言ったのを覚えています。
志を持って栽培した農産物を、自分で価値を決めて農家が自主的に消費者に届けられないのはおかしいと思うからやってるんだ。自分が正しいと思うことをやっているんだから、お前たちも絶対下を向いて生きるなって」
だんご「かっこいい」
「『そんなことどうでもいいから、お願いだからやめて』って思いましたけど」
瀬谷「(笑)。子どもにとってはかなり刺激的な出来事ですよね」
さちえさん「本当に。そんなことばっかりだったから、子ども時代は『りんねしゃ』という家業が本当に嫌で。『食にこだわるなんてまっぴらごめんだ!』と思ってました。親を反面教師にして、全く違う仕事に就いてやるって」
「私が憧れていた世界って、こんなものだったの?」
だんご「じゃあ社会人になってからは別の仕事を?」
さちえさん「そう。旅行会社に就職して、旅行会社の添乗員として働いていました。当時はバブル真っ只中の時期だったから、本当に華やかだった。でも、今で言うセクハラみたいな出来事が日々あるような世界でした。
団体のお客さんの接待をするのに、ピンク色のミニスカートを履いてこいって言われたり。上司もそれを我慢しろって言うし、そういう、自分の思う常識とは違う価値観が普通にまかり通っていた」
瀬谷「なるほど……それは辛かったですね」
さちえさん「そんな環境にいて、少しずつ違和感が膨らんでいったんです。同時にその頃、幼い頃から父と親しくて家にも遊びに来ていた、平飼い(※)卵を作る養鶏農家さんが自殺してしまうショッキングな出来事もあって」
※鶏をケージ飼いではなく、放牧して育てること
さちえさん「今でこそ平飼いの卵が評価されるようになったけれど、当時は糞が迷惑だとか、ひどい誹謗中傷に晒されていたんですね。それで、その農家さんは追い詰められて亡くなってしまった」
だんご「そんな……」
さちえさん「その時に、なんでこんなに真摯にものづくりをして生きている人が、そんな目に遭わなければいけないんだろう。絶対におかしいって思ったんですね。
こうやって頑張っている人が、不当な目にあっている。なのに、世の中ではエリートと呼ばれる人々が、理不尽な事を平気で口にして、人を傷つけながら生きている社会がある。それなら自分はどちらの役に立ちたいか?と考えたとき、絶対に前者だと。そんな気づきをきっかけに『りんねしゃ』へ戻ることにしたんです」
本当に共感するものだけを集めた店。それが「りんねしゃ」
だんご「『りんねしゃ』に戻られてから、菊花せんこうの商品化に関わったり、お店やイベントを運営したり、と活動を続けてこられたわけですね」
さちえさん「『りんねしゃ』には、私が使ってみて本当に良いと思ったもの、生産者さんに共感したものだけを並べています。『自然食品』というと、オーガニックや無添加、というイメージをもたれがちだと思いますが、それにこだわっているわけでもなくて」
瀬谷「あ、そうなんですね」
さちえさん「一番の軸は、私がものづくりに共感し、応援したいと思う人々の作るもの。それだけです」
瀬谷「なるほど。じゃあ、ここで扱っている商品の作り手さんとは、普段から交流を?」
さちえさん「昔からやりとりしている方が多いですから、関係性は深いです。農家さんって、おいしい食材がとれるとよく電話をくれるんです。『こんなネクタリンがとれてさ、めっちゃおいしんだよ〜!』って。そうしたら私はそのままお客さんに『めっちゃおいしいネクタリンが届きましたよ〜!』って伝えて、販売する」
だんご「農家さんが『おいしい!』っていうものは間違いないでしょうね」
さちえさん「そうですよね。だから好きな人が作った好きなものを、好きな人に届ける。そんなシンプルなやりとりが日々積み重なって続いてきたのが『りんねしゃ』ですね」
昔ながらの「商い」の形が残る店
瀬谷「今日訪ねてみて、思った以上にアクセスしづらい場所にあることに驚きました。なのに人が集まっている。お客さんを惹きつける理由がなにかあるんでしょうか」
さちえさん「シンプルに『人』の力なんじゃないかな。店って何かを買うためだけじゃなく、そこにいる人に会いたいから行くっていう動機もあるでしょう? それだけはオンラインショップにはまかなえない魅力だと思うんです」
瀬谷「さちえさんをはじめ、りんねしゃの皆さんに会いに、お店に人が来ている」
さちえさん「私も今は色々な場所で仕事をしているので、毎日お店に立つことはできないけれど、それでも週に3度は店に立つようにしています」
だんご「さちえさんのインスタを見てると、イベントや出店で全国を飛び回ってますよね。てっきり店はスタッフさんに任せてるのかと」
さちえさん「好きなんですよね、やっぱり。今はスタッフがしっかりお店を守ってくれているから大丈夫ってわかっていても、やっぱり気になって、自分の口から商品のことを伝えたくなっちゃう。そういう性分なんだと思います」
だんご「好きな農家さんがつくったものだから、自分の口でよさを伝えたい」
さちえさん「この間はね、知り合いの農家さんから『雹(ひょう)が降って野菜の皮に傷がついて、100キロぐらい収穫できなくなっちゃった、どうしよう』って連絡がきたんです」
瀬谷「それは大変ですね。さちえさんにヘルプを求めて?」
さちえさん「そう。だからその野菜を引き取って『この野菜ならあの人好きかもな』と思い浮かんだお客さんに片っ端から電話やSNSで連絡をして。
『こういう理由で皮には傷がついちゃったんだけど、中身は本当においしい野菜なんだよ』って。そうしたら『よっしゃ、買いにいくよ!』っていろんなお客さんが来てくれた。あれは嬉しかったですね」
だんご「へー! アナログなアプローチだけど、それでお客さんが集まってくるのが『りんねしゃ』なのかもしれませんね」
さちえさん「もちろんSNSで宣伝する方法もありますけど、確実に人の手に渡したいときは、やっぱり1対1のコミュニケーションなのかなと。実際、SNSはやっていないけどお店に来てくれている層のお客さんも、りんねしゃには多いですしね。
父の代から私の弟に引き継がれている通信『このゆびとまれ』はもう1180号を超えました。毎週書いているので、24年以上続いていることになりますね。これも紙媒体にして老若男女全てにゆっくり読んでもらえるものでありたいと思っています」
さちえさん「それに、お客さんにとっても、直接電話がくるって嬉しいじゃないですか? もしかしたら押し売りだって思われてるかもしれないけどね(笑)」
だんご「昔のドラマに出てくるような、八百屋さんとの関係みたいな。顔の見えない店員さんじゃなく、お客さんにも『りんねしゃのさちえさん』ってインプットされてる気がします」
さちえさん「うんうん。まさに顔の見える関係のお客さんが多いのは、りんねしゃならではかもしれませんね」
対話して買うこと。今の時代だからこそ、そんな「買い物体験」を求めてる?
瀬谷「そうやってお店に来てくれるお客さんは、地元の方が多いんでしょうか?」
さちえさん「ご近所の方がメインですね。特定の商品のファンで、リピートしてくださっている方が多いです。
あとは、純粋にお店に来て話すっていうことを楽しみに来てくださっている方もすごく多い。昔ながらの小売店の良さってそこにあると思うんですけど、買い物に来て、ちょっと話して、元気をもらって帰るっていうことができるじゃないですか」
だんご「さちえさんって、パワーがありますからね。今こうやって話してても、エネルギーをもらってます」
さちえさん「うるさいってことじゃなくて?(笑) 遊びに行くわけじゃないんだけど、心が満たされる。そういう経験って、やっぱりお店に行かないと得られないものだと思うんですね。そういう場所は、絶対に必要だと思うなあ」
だんご「確かに、個人商店で買うのってそういう魅力がありますね」
りんねしゃの近くの畑にはヤギもいました
さちえさん「コンビニとかスーパーが増えて、人の顔が見える買い物っていうのがなかなか少なくなってきた。だから若い人も、今は逆にそういうものを求めているんじゃないかって思います」
瀬谷「お話を聞いていると、さちえさんがやっていることって『商売』というよりも、純粋に人とのコミュニケーションですね。誰かが困っているから手を差し伸べて、誰かにとって良いものだから、すすめる」
さちえさん「おせっかいともいうけどね(笑)」
瀬谷「それってシンプルだけど、商売として成り立たせるのは難しいことだと思うから、実現できているりんねしゃって、やっぱりすごいです」
「好きな人のために動くこと」を繰り返していたら、りんねしゃができてきた
さちえさん「たしかに、商売って感覚とはまた少し違うのかもなあ。りんねしゃをやりながらいつも考えているのは、私が思う『正しい世界』の中にいる大切な人たちのために動いていたいなということ」
瀬谷「正しい世界?」
さちえさん「まっとうに素晴らしいものを作っている生産者さんが評価されなかったり、私が体験したバブル期のちょっとゆがんだ世界だったり。そういう『自分にとって違和感のある世界』を見たからこそ、自分が思う正しい世界を大事にしていかなきゃだめだなって気づいた。そのためにできることをやっていきたいという、シンプルな動機です」
だんご「その信念を46年間守り続けてきたのが、りんねしゃなんですね」
さちえさん「だから今思えば、両親はすごかったなって思うんです。強引で一直線で大変だったけど、自分の思う正しいことを、偏見にも負けず堂々とやっていた」
だんご「小さい頃にはわからなかった、ご両親のすごさというか」
さちえさん「そうですねえ。よく近所の人から、うちの一家は変だって陰口を言われたりもしていたんですよね。幼心に覚えていて。でも、両親は陰口なんて全く気にしていなかった。
そんな姿勢に今は共感するし、刺激を受けています。自分もそんな風に、違うと思うことにひっぱられず、良いと思ったことだけに全力で応えていきたいよね」
さちえさん「だから、三重県の多気町(たきちょう)で2年前にオープンした『本草研究所 RINNE』もきっかけは同じかもしれませんね。RINNEが入っている商業施設『VISON』の支配人の想いを聞いて、そこに共感したから力になりたいと思ったんです」
だんご「共感できる世界がそこにあった、というか」
さちえさん「うん、あとはやっぱり『人』だよね。この人たちと一緒にやりたい、想いに応えたいなと」
『本草研究所RINNE』で『和草茶』として楽しめる、オリジナルブレンドのハーブティー
さちえさん「本草研究所RINNEでは、『本草学(ほんぞうがく)』をテーマにしたオリジナルのハーブティーやアロマなど、暮らしにまつわる雑貨を扱っています。りんねしゃとはまた違うコンセプトですね」
だんご「『本草学』ってなんですか?」
さちえさん「ここ三重県多気町にゆかりのある学問で、自然界に存在する植物や鉱物などを組み合わせて、未病と言われる不調の状態にアプローチしていこうとする学問です。薬に頼らず、自然のもので不調と向き合っていこうという考え方ですね」
だんご「へえー! 今っぽい考えにも聞こえますね」
さちえさん「これって、りんねしゃが大事にしている『食べることは命を作る』っていうコンセプトにも通じていると思うんです」
だんご「客層はりんねしゃとまた別なんですか?」
さちえさん「VISON自体が高速道路のインターに直結した観光施設だから、遠方からのお客さんも多いですね。でも、近所からも意外といらっしゃいますよ」
さちえさん「この間なんかは、男子高校生2人が自転車でふらっと来てね。どうしたの?って声をかけたら、『最近、体調があんまりよくないんです』って、もじもじしながら言うんです」
だんご「自転車でハーブティーを買いにくる近所の高校生、いいなあ」
さちえさん「で、『なに、寝れないの? それならこのハーブがいいから、ちょっと飲んでみて』って淹れてあげて。おいしいっていうから、『家に急須ある? お湯入れて煮出すだけだから、やってみなさい』って。結局、2人ともハーブティーを買って帰りました」
だんご「近所のお母さんみたいですね(笑)。僕も相談しにいきたい」
瀬谷「そうやってここに来たくなる気持ち、なんかわかるなあ。話したくなるんですよね。さちえさん、聞いてくれそうな気がしますもん」
本草研究所「RINNE」の取材中にばったり遭遇した、デザイナーのナガオカケンメイさん。VISONにあるD&DEPARTMENT MIEの前で記念撮影。ナガオカさんとのきさくなやりとりからも、さちえさんの人柄を感じました
新たなプレーヤーが集まる多気町
本草研究所RINNEの外にある畑では、RINNEのスタッフ自ら素材になるハーブを育てている
さちえさん「それとね、もうひとつここに店を開くことを決めた理由があって。VISONのあるここ三重県多気町が、すごく面白くなってきているエリアなんですよ」
だんご「詳しく聞きたいです!」
さちえさん「もともと『多気』の由来って、ここで多くの食べ物がとれる農業地帯だったからだそうで。多くの命(気)がある、という意味からその名がついたそうなんですね。実際に今、食の分野で面白いことをしている若手の作り手さんが増えてきてるんです」
多気郡で200年以上続く酒蔵「元坂酒造」7代目を務める元坂新平さん(写真右)
さちえさん「たとえば『元坂酒造』さん。日本酒の原料になる酒米を自分たちで栽培するところから手がけてるんです。お酒を作るためだけじゃなく、『米を作る』という仕事を作り出すことで、この地域に雇用を生み、移住者が増えるようにという町の活性化の意味もこめているそう」
だんご「お酒づくりを通じて、地域の仕事を増やす。大事ですね」
さちえさん「なかなか骨太な精神ですよね。本人のキャラクターもとってもいいんですよ」
元坂酒造さんが、自らの手で酒米を育てる田んぼを案内して頂きました
さちえさん「それから、多気町でトマトを作るポモナファームさんも。すごく先進的な農業をしてると思ってたけど、話を聞いてみたら『人の手』もちゃんと大事にしていて。とっても応援してます」
さちえさん「未来の『食』を担う若手が着実に増えてきているエリアなので、私もここに『本草研究所RINNE』を開いたことで、彼らと一緒にもっとおもしろいことをやっていきたい」
だんご「いいですね、プレーヤーが増えてきてる。さちえさんが加わることで、さらにおもしろい化学反応が起きそうな」
さちえさん「仲良くしてもらってますよ。きっと私はいつまでも姉ちゃん気質というか、世の中を良くしたいと思って頑張ってる人やちょっと困ったことがありそうな人を見たら手を出さずにはいられないたちなんでしょうね(笑)。でも、ここで新しい何かが始まっていく気がして、今はすごくワクワクしています」
おわりに
2日間にわたるさちえさんの取材。帰りがけに寄った「りんねしゃ」で、店内に貼ってあるこんな言葉に目がとまりました。
「このゆびとまれ」
自分のしたいことや自分の思っていることを声に出して呼びかけます。
それを聞いた人は、同感であれば参加するし、そうでなければ、しらん顔をします。
ひとつひとつの事柄について全てを強制はできないし、強制はされません。
やりたい人が、やりたいように進めます。
同感するのなら、いっしょにやりましょう。
「同感すること」。それはささやかなワンアクションでも、集まると大きなムーブメントになるのだと、さちえさんのお話を聞いていると実感します。
全国の生産者さんに同感し、彼らのために動きたいとはじめた地道な「このゆびとまれ」の活動は、同感する人を少しずつ増やして、46年続く「りんねしゃ」になりました。
これからさちえさんはどんなことをやっていくのでしょう? 多気町で、また新たな仲間とともに、面白いことを始めていくのか。わたし自身もそんな同感者の一人として、そんな活動を楽しみに追っていきたいと思います。
撮影:橋原大典(@helloelmer)