居酒屋大好き人間のジモコロライター・くいしんです!
以前に、こんな記事を書きました!
人生で最高だった酒場(居酒屋)10店を紹介するこの企画、古き良き赤提灯系のお店をはじめとした好きな酒場への愛を爆発させたところ、ハッシュタグ「#人生最高酒場TOP10」で投稿してくれた人がたくさんいました。ありがたや〜!
というわけで、今度は、「自分にはない視点での人生最高酒場を知りたい!」と思いまして、自炊料理家の山口祐加さんをお呼びしました。
山口さんは、自炊する人を増やすために一汁一菜のレシピを発信したり、子どもから大人まで対象とした自炊レッスンをしたり。でもじつは、「私はもともと外食ライターになりたかった時期もあったくらい!」と語るほど、外食が大好き。好きすぎて、全国のお店を飛び回っています。
そんな山口さんの選んだ酒場がこちら。
<山口祐加さんの人生最高酒場>
1.なとな(居酒屋・高知)
2.助(ひろ)(居酒屋・那覇)
3.アルコ(ジンギスカン・札幌)
4.しづか(居酒屋・松本)
5.櫻バー(居酒屋・京都)
6.ブランカ(居酒屋・京都)
7.トキオカ(居酒屋・神楽坂)
8.泰明庵(蕎麦屋・新橋)
9.松風(居酒屋・三浦)
10.玄鮨(町寿司・新代田)
「『やりたいことはこれ』と伝わるお店が好き。筋の通ったお店が好き」と語る山口さんが選んだ人生最高酒場はどんなお店なんだ!? 根掘り葉掘り聞いてみました。
山口祐加の「やりたいことが伝わるお店」愛
「さっそくですが、10選を聞いていきます!」
「よろしくお願いします!」
「この企画、外食がテーマなのですが……。自炊料理家として活動する山口さんにとって外食とは?」
「そもそも私は、外食をテーマとしたライターで生きていきたかったんです。会社員時代は、化粧品とか美容院とかにはほとんどお金をかけず、稼いだお金をすべて外食に費やしてやろうと思っていたくらい」
「振り切ってますね」
「そしたら、『外食ばかりして、自炊しなくて大丈夫?』って聞かれて。『外食もしているけど、めちゃめちゃ自炊もしてるんだなこれが』と、自炊のブログを書いたらそっちのほうが読んでもらえて、そこから方向転換をしたんです」
「選んでくれた10選は、山口さんの中でテーマや基準はありますか?」
「やっぱり、選んだのは全部、『個性があるお店』なのかな。すごく歴史があるとか、文化があるみたいな。あるいは、遊びや工夫があるとか、そういう『特徴が見える』お店が多いかも。あとは『お店の人がめちゃくちゃ好き』も入っていますね」
「スタンダードなよさっていうよりはちょっと変わったよさがあって、それがしっかり伝わる形になっているということですか?」
「そうそう。何か、飲食店のよさって、味がいいとか、場所がいいとか、接客がいいとか、コスパがいいとか、そういう一般的な指標で評価されがちじゃないですか」
「五角形のパラメータが大きいほうがいいみたいな」
「もちろん選んだお店は五角形も大きいと思うけど、でも私はその五角形が平均的に満たされているのが必ずしもいいお店、とは思っていなくて。味はいいけど接客は適当、みたいなお店も全然好きなんですよ」
「なるほど。一点が突出しているお店が好きっていう」
「『やりたいことはこれなんだな』っていうことがすごく、伝わってくるお店が好き」
「なるほどっ! では、そんな酒場の紹介、よろしくお願いします!」
ひっくり返るくらいおいしくて、泣けるおにぎり『なとな』(高知)
「じゃあお話していきますね。一番最初は、高知のなとなから」
「なとなはどんなお店なんですか?」
「女将さんがひとりでやっているお店で、基本的にはその日のおまかせ料理を『今日はこれがあるよ』みたいな感じで出してくれます。その日に獲れた鯖(サバ)を醤油と生姜でざっくり和えたお刺身とか」
「分厚い」
「まず、とにかく魚が新鮮なんですよね。女将さんはたしか自分で畑もやっていて、だからか、野菜もおいしいし、すごい元気。本当においしいご飯と料理をすることが好きで、おしゃべりしながら食べてもらいたくてお店をやっているんじゃないかと」
「家庭料理的なテンションなんですか?」
「そうそう、そんな感じ。そして、おにぎりを握って最後に出してくれるんだけど、このおにぎりがもうひっくり返るくらいおいしくて」
「塩むすび。おいしそう」
「おにぎりってこんなにおいしいんだ! って感動しました。何かやっぱりすごく、そのお店の温かさとか雰囲気が伝わってからの、『この味噌汁とご飯とから揚げですか!?』みたいなのがもう何か、泣ける感じで超好きでしたね」
「泣けちゃうおにぎり」
「『自分で漬けてるんだろうな』って感じのきゅうりとか、かぶとかの漬物が入ってたりとかするんですよ。もし私が高知に単身赴任するなら週5で通いますし、お店に行ったら、おにぎりを食べてもらいたい!」
優しいアンマーと沖縄の家庭料理『助(ひろ)』(那覇)
「お次は助。助と書いて、ヒロって読むんですね」
「那覇市のお店なんですけど、お母さんが息子さん家族とやっています。優しいお母さんのことが大好きで会いに来る人たちが多いんじゃないかなあ。私のオススメメニューは、もずくの天ぷらです」
「もずくの天ぷら!」
「もずくの天ぷらってふつう、もずくの形に揚がるんですよ。でも、ここのは小麦粉と片栗粉を入れて、スパム、ネギも加えてハンバーグみたいにまとめて揚げるの。これが超おいしくて。厨房に入って教えてもらったけどもう全然再現できない」
「もずく天ぷら自体は那覇で見るけど、この形は見たことないですね!」
「そうですよね。あとは、ドゥルワカシーという料理もあって、芋や椎茸を煮てつくるのが泥を沸かしているように見えるからこの名前らしいんですけど。これは沖縄に琉球王朝があった時代の宮廷料理として有名です」
「初めて知りました」
「すごく時間がかかるから、那覇の居酒屋ではあまり出てこないんですよね。やっぱり那覇の居酒屋は地元じゃなくて観光客向けのお店が多くて、どうしても定番の物しか出されないというのがあって」
「そうですよね。そしてみんなゴーヤチャンプルーを頼むという」
「ゴーヤチャンプルーとかタコライスとかね。でも助は、タコライスとかはおいてない。ゴーヤチャンプルーは、やっぱり沖縄の家庭料理で絶対的な存在なので置いてあるんですけど」
「あくまでも沖縄の家庭料理を出したいという気持ちが伝わりますね」
「お通しも、沖縄といえばピーナッツを使ったジーマーミー豆腐ですけど、これもアレルギーに配慮して豆乳豆腐にしてあって。そういう人柄が見える工夫もすごく好きですね」
路地の先で掻き込む、臭みのないジンギスカン『アルコ』(札幌)
「次のアルコはジンギスカンのお店なんですね」
「そうです。料理家であり作家の樋口直哉さんにオススメしていただいたのがきっかけですけど、樋口さんはものすごい食通なので、この方が勧めるなら間違いない! と思って行きました」
「お墨付きで行かれたんですね」
「そしたらもう、すごかった。ここは羊一頭買いでやっているんですけど、ジンギスカンが超おいしい。本当に臭みがないし、タレも甘じょっぱくてビールとすごく相性がいいし。それと、この、羊の油で焼けた野菜が最高なんですよね」
「いいなあ、お腹がすいてきました」
「そもそもお店が、人ひとりしか通れないくらいすごい細い路地を進んだ先にあるのに、どんどん人が入ってくるんですよ、予約しないと入れない」
「隠れているのに人気店。すごい」
「店内はテーブルの距離が近いけど、焼いている音があるから意外と気にならないっていうその距離感もおもしろくて。カウンター寿司とかって隣の会話が聞こえちゃうじゃないですか」
「あー、なるほど。気になることあるかも」
「でもアルコではそんなことを気にせず、この野性味あるものをみんながほとんどしゃべらず、ひたすらひっくり返してビールと一緒に掻き込んでお店を出ていくっていうのがいいなって思っています」
城下町で文化的雰囲気を漂わせる『しづか』(松本)
「山女や、鳥心、peg。松本は本当にいいお店が多いですよね〜。しづかはどんなお店なんでしょう?」
「おでん屋と紹介されることが多いけど、私は長野のおいしいものが全部ある居酒屋だと思っています」
「おでん以外で、どんな料理があるんですか?」
「パッと浮かんだのは、豆を煮たものとか。ふつうの居酒屋にはなかなか出ないでしょ? これも郷土料理なんですよ。わらびのおひたしもすごくおいしかった」
「お皿も民芸っぽくていいですね。松本の城下町っぽさや歴史文化が感じられるようなお店?」
「よく聞いてくれました。まず、暖簾。芹沢銈介さんや柚木沙弥郎さんの暖簾があったり、店内も民芸調の家具を中心にインテリアされているなど、民芸・工芸の街の雰囲気を感じさせてくれます」
「松本は城下町であり、クラフトカルチャーの街でもありますもんね」
「外観も、本当に佇まいがかっこいいし、文化的雰囲気もすごくあって、どの世代の人を連れて行っても喜んでくれると思います」
割烹料理店みたいなクオリティでも驚愕コスパ『櫻バー』(京都)
「そして、櫻バーですね」
「バーなんですか?」
「名前はバーだけど、家族でやっている居酒屋です。櫻バーの手間と料理のおいしさはすごいんですよ。まず、厨房の換気扇の付近に並んでいるメニューは、毎日手書きでつくっていて、それが巻物みたいになって渡されるの」
「そういうひと手間、うれしいですよね〜」
「それでメニューがだいたい1000円以下という安さ」
「山口さんのオススメのメニューは?」
「サバの生寿司(きずし)と生麩(なまふ)の揚げ出し。サバの生寿司というのはサバを酢で締めたものです。生麩は、つけ焼きで味噌を塗って焼くみたいなお店はけっこうあるんだけど、揚げ出しにするお店は珍しくて好きですね」
「もう、櫻バーはお料理に関しては何を頼んでも絶対に失敗しないです。割烹料理店で出てきても疑わないクオリティーのものが街場の居酒屋で出てくるような感じ。もう食べれないってくらい食べて、ひとり2500円〜3000円くらいじゃないですか」
「安すぎません?」
「すごいですよね。量もけっこうあるんですよ」
アジアン×沖縄料理の人気店『ブランカ』(京都)
「ここから後半ですね。ブランカについてお願いします!」
「ブランカはアジアっぽい料理が上手なんですよね」
「なるほど、アジア感」
「オススメは、鶏レバーの串焼き。シナモンっぽい香りがして、タレがすごく独特なんですよね。あとは筍のスパイスフリットなんかもオススメだけど、何を食べてもおいしいです。そして、全部小さいお皿で出てくるんですよ」
「メニューを絞るのに悩んじゃう人にとっては、嬉しいですね」
「そうそう。だから、ひとりで行ってもいろいろ食べられるのもいいなっていう。アジアっぽい料理が得意なのは、店主がもともと石垣島のお店で働いていた方というのも関係あるんじゃないかと思っています」
「なるほど。ということは沖縄料理もあったりするんですか?」
「ありますよ。22時を過ぎるとおにぎりも出してくれますし。だから、アジアと日本料理の何かすごくちょうどいいバランスのあるお店なんですよね。そしてブランカは、ファンがすごく多いお店です」
「京都でアジア料理、いい」
「予約しないと入れないので予約必須です!(笑)」
センスのいい友だちの家みたい『トキオカ』(神楽坂)
「そしてトキオカ。おいしくておしゃれな飲み屋さんがたくさんある神楽坂です」
「トキオカも大好きなお店で。めちゃめちゃセンスのいい友だちの家に来てお酒を飲んでご飯を食べている感じになれるんです」
「どういうことですか?」
「まず、席に座ったら、お料理がどんどん出てくるシステムなんですけど、その出てくる料理もサーモンのカルパッチョとか、きのこのパセリ炒めとか、本当にセンスがいいんですよね」
「大将はいつもお客さんとのお話を楽しんでいる印象で、本当に趣味の店という感じ。一通り料理を出してくれたあと、お腹いっぱいになっていないお客さんには『パスタ食べる?』って。これもまたおいしいんですよね」
「なんかお皿もすごくオシャレじゃないですか」
「お皿も基本的に骨董品ですごく素敵。センスがいいから任せられるし、このシステムでちゃんとおいしいって素晴らしいなと思います」
渋くてがっつり系の老舗そば『泰明庵』(新橋)
「お次はビジネス街の蕎麦屋、泰明庵です」
「新橋界隈では超有名な、老舗の蕎麦屋さんです。やっぱりサラリーマンのお客さんが多いので、お蕎麦はすごく盛りが多いのが特徴かな」
「いいですね。ここに来て、がっつり系」
「人によってはひとりじゃ食べきれないから、誰かと一緒に行くのがオススメ。私は誰かとふたりで行って、ちょこちょこツマミを食べ、蕎麦はふたりで1杯頼むというのがいつもの定番です」
「なんかお店の雰囲気もすごくいいですよね、昭和っぽさ」
「こういう渋いお店好きにはたまんないお店だと思います。一方で、こんなに古くからある感じなのに、せりカレー蕎麦なんかもある。『この渋い感じでそのセンスのメニュー行くんだ!?』っていうギャップもすごく好きですね」
「蕎麦居酒屋っていいですよね。日本酒とも合うし」
「蕎麦屋で飲むのがめちゃめちゃ好き。この、いい蕎麦屋の後ろ側にあるいい出汁っていうのがすごくいいんですよね。いい出汁をベースにした料理たちっていうかね。揚げ出しとか、だし巻き卵とか」
「サイドメニューもおいしいんですね!」
「メニューがものすごく多くって。刺身や天ぷらだけでなく、イワシの塩焼きなんかも置いてある蕎麦屋って珍しくないですか? でもやっぱり、泰明庵もやりたいことが明確だから、いい意味で変わらないんですよね」
ハイカラで新鮮な魚料理『松風』(三浦)
「そして神奈川、三浦半島の松風」
「まだ一度しか行けていないお店なんですけど、そのときは事前に注文する御膳のようなメニュー、3800円くらいだったんですけど、それを頼んだんです。そしたらもう、ものすごい盛り付けで」
「すごい豪華! 魚の種類も多い」
「すごいでしょう? この金目の煮つけとかひじきの炊いたやつとかホタテとほうれん草のグラタンとかね、すごくハイカラなんですよ」
「ハイカラ!」
「イワシのハンバーグ、キャベツがいっぱい入ったタルタルですごく工夫があると感じたし。アジフライもお刺身にできるクオリティのアジを使っているので、もう身がふわふわ。エアリーな感じでした」
「ハイカラで、新鮮で、工夫もあって……すごいお店ですね」
「魚でこれだけ楽しませてくれる居酒屋さんって、あんまりないなって思います。ここを目的に、この三浦エリアに行ってもいいくらい」
町寿司にワイン、ふたつの世界の共存『玄鮨』(新代田)
「いよいよラスト、新代田の玄鮨です」
「最後は玄鮨ですね。このお寿司屋さんの変わっているところは、ワインの品ぞろえがすごくいいんですよ。だからホタテとアスパラのバター醤油炒めとか、活だこのブルーチーズ焼きとか、ワインに合わせる用であるんです」
「おいしそう」
「見た目はザ・町寿司って感じの渋い雰囲気で、入って右側に大将がいて、店内にアナゴとかマグロとかネタが書いてあるお店なんだけど、メニューを開いてみると、ワイン用のおつまみもあるっていう。ふたつの世界が共存しているようなお店」
「もちろんお寿司もおいしいわけですよね?」
「はい。赤酢のお店で握りもちょうどいいし。アナゴの巻物がものすごくオススメです」
筋が通っているお店が好き
「お酒よりも料理から入っているお店が多いようにも感じましたが、これは偶然?」
「私は、何かお酒を飲みたいからこの店に行く、というより、この料理にお酒を合わせたいって感じなんですよね。そういう意味で、ご飯のおいしさに関して今回の10店は、私のお墨付き」
「全体を通しても、10選のテーマの部分で最初にお話ししてくれたとおり、創作とか工夫とか文化を伝えるとか『やりたいことが見えるお店』ばかりでしたね」
「話しながら思い出したんですけど、『自分にとっていい店ってなんだろう?』という話を友だちとかと、よくするんですよね。それがまさに、やりたいことが伝わるお店、もっと言うと、『筋が通っているお店』なんですよね」
「筋が通っているお店とは」
「居酒屋に限らずチェーンの大きなお店って、そのお店のコンセプトとは全然関係ない、たとえば、タピオカミルクティーとか売っていることがあるじゃないですか。そういうことは絶対にやらないっていうのが、筋が通っているってこと」
「なるほど。やりたいことをしっかり伝えるためには、いろんなことをやりすぎないという、学びにもなります」
「なので、メニューが少ないお店の方が、私は攻めてるなって感じて好きですね。『やりたいことを伝えること』と『他の人がやっていることはできるだけやらないこと』、それは自分の料理教室にも共通することだなと思いました」
「なるほどな〜。今日はありがとうございました!」
「ありがとうございました!」