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「どこかにいる20人のために」街の文化をつくる書店ON READINGの15年

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「どこかにいる20人のために」街の文化をつくる書店ON READINGの15年

こんにちは、ライターの友光だんごです。みなさんは普段、どんなところで本を買っていますか?

 

僕は元々、本屋好きなのですが、正直なところ最近はネットで買う機会のほうが多くなっています。コロナで外に出歩くことが減ったり、単純にネットのほうが便利だったりするのが理由なんですが……それでも、行きたくなる本屋さんはあって。

 

それは「そこでしか出会えない本を扱っている本屋さん」です。例えば東京・神楽坂の「かもめブックス」や、群馬・高崎の「REBEL BOOKS」、長野・上田の「NABO」など。

 

そんな本屋さんが、愛知・名古屋にもあるんです。その名は「ON READING」

 

ON READINGとの出会いは、「熊彫(くまぼり)」の本でした。熊彫とは、かつて北海道土産として一世を風靡した「木彫りの熊」のこと。おじいちゃんちに飾ってある、シャケを咥えたアレです。

 

ちょうど当時「木彫りの熊って面白いな」と思っていたこともあり、新宿のビームスでたまたま見つけ、こんな本があるんだ!と速攻で購入。読み終わってから調べてみたところ、版元がなんと名古屋の本屋さんだったんです。本屋さんが自ら出版レーベルをやっていることにも驚いたのですが、さらにWEBショップの品揃えも独特。

 

インディーズ出版やZINEが中心かと思いきや、一般書籍もあるし、雑貨まで。とにかくセレクトが素晴らしく、本好きの心をくすぐられる並びなんです。

 

なんだこのお店!!! 行きたすぎる!!!!!!!

 

取材は2022年初春に行いました

 

ということで、ON READINGへやって来ました。名古屋駅から東山線に乗り換えて20分ほど、東山公園駅からほど近いマンションの1室にある本屋さんです。

 

アートブックや写真集から小説・エッセイ、ZINEやリトルプレスまで、新刊・古本問わずセレクトされた本が並んでいます。

 

本屋と出版レーベルだけでなく、ギャラリーまで運営されています。

 

ON READINGの隣にある「ON READING GALLERY」

 

「自分たちが読みたい本を手に取れる場所が名古屋になかったから、つくったんです」と語るのは、ON READINGを営むご夫婦の黒田義隆さんと、黒田杏子さん。

 

本屋から出版レーベル、ギャラリーまで。どうしてそんなに色々やってるんですか? という疑問を黒田夫妻にぶつけると、「街の文化をつくる」本屋さんの役割が見えてきました。

 

「無いから、つくった」街の本屋さん

「僕、前からON READINGさんにずっと来たかったんです。出版レーベルから出されてる『熊彫』の本が衝撃的で」

「嬉しいです。あの本は好評で、最近、新装版も出したんです」

 

元々はON READINGのギャラリーで熊彫の企画展をやった際、その図録としてつくった本だそう

 

「ON READINGさんのWEBショップの品揃えも絶妙ですし、一体どんな本屋さんなんだろう? と思ってました」

本屋と、ギャラリーと、出版レーベルと、色々やってますね。アルバイトもいるんですけど、本のセレクトや展示の企画、本づくりみたいな、メインの仕事は僕たち夫婦でやってます」

「元々は本屋さんスタートなんですか?」

 

「はい。妻とは大学が一緒なんですけど、共通の先輩がいて。愛知の長者町ってエリアで空きビルを再生するプロジェクトにその先輩が関わっていて、その中で本屋をやることになりまして」

「私が当時、愛知のNADiffって本屋さんでバイトをしていたので、誘われたんです。本好きだし、本屋のこともわかるし、手伝ってと。そこでデザインのできる人として黒田くん(義隆さん)を引っ張ってきました」

「その本屋がON READINGに?」

「いや、そこではオーナーの意向と、自分たちがやりたい事が合わず、僕たちは途中で抜けました。ただ、実際に関わってみたことで、本屋に興味が湧いたんです。自分たちで自由にやれば、面白い店ができるんじゃ?と思ったんですよね」

「それで、2人でON READINGを立ち上げたんです。最初の2年は店舗を持たずに活動していて、その後に長者町で店舗営業をはじめて、11年前に今の場所へ移転してきました」

 

「『自分たちでやったら面白そうだな』が最初だったってことですよね。本屋のどんな点を面白そうだと感じたんですか?」

「もともと音楽や映画、アートとか、いろんなことに興味があったんです。本屋なら全部扱える、入れ物としてなんでも入れられるな、と思ったんですよね」

「たしかにON READINGさんはジャンルも幅広いですよね。『ジャンプ』やベストセラー小説が置いてあるような、いわゆる新刊書店とは違って、もう少しニッチな本を扱っている」

「洋書のアートブックや自費出版の本、海外のZINEを置くところからスタートしたんですけど、どれも自分たちが欲しい本だったんですよね。名古屋にそういう本を置いてる店がなくて、自分たちが欲しいなら、もう20人くらいは需要があるんじゃないかな?と」

「今でこそ、一般流通してる本も仕入れるようになってるんですけど。前はもっと偏ったラインナップでした(笑)。出版社や海外のレーベルに直接掛け合って、なんとか交渉して……」

 

「当時は出版社に連絡しても、仕入れを断られることもありましたね」

「それはなぜ?」

「一般書店は『取次(とりつぎ)』という問屋を通して本を仕入れるので、基本的に出版社と書店は直接取引しないことがほとんどなんですよ。今でこそ、うちみたいに大手取次を通さず本を仕入れる『独立系書店』と呼ばれる個人経営の小規模書店も増えたんですけど、当時は直接取引ってだけでNGが出たり。何しろ前例がほとんどなかったので」

「この15年くらいで、かなり状況も変わりましたね。当時は『独立系書店』もすごく少なかったんです。たとえば、『UTRECHT』『COWBOOKS』『Flying Books』とか」

「そのお店たちが第一世代だとすると、影響を受けた僕たちが第二世代になるのかな。だから最初は本当に『好きな人が好き』って感じの本屋だったと思います」

 

もやし時代からオンラインショップ時代へ

「自分たちが好きな本とはいえ、ビジネス的に見れば相当ニッチなところに挑戦されたわけですよね。相当勇気もいりそうですけど」

「なんかほんとに、何も考えてなかったです(笑)」

「24歳くらいで店をオープンしたので。社会経験もないし、店のやり方もわからないし、全然売れないし。もやしばっかり食べてました(笑)

「(笑)。本屋さんって仕入れに対する利益率が低いから、あんまり儲かる商売じゃないと聞いたことがあって。お二人の場合、最初の苦しい時期をどうやって脱却できたんですか?」

オンラインショップが大きかったですね。このままじゃダメだ、と思ってはじめたら、当時オンラインショップをやってる本屋は珍しくて。扱ってる本も珍しいから、東京の編集者さんが面白がってくれて、雑誌の取材がきたり」

「当時お世話になってたカフェの人に、『とにかくオンラインをはじめろ』って言われたんです。というのも、そのカフェではレコードも扱っていて、レアなレコードがオンラインですごく売れていたんです」

「カフェの収益だけじゃなく、レコード販売の収益も大きかったわけですね。オンライン販売もやることで、ビジネスの軸が増やせると」

私たちと同じ本を好きな人って、名古屋に20人いると思ってたら、全国に20人いるってレベルだったんです(笑)。そういう人は少なくても、広いインターネットの中からわざわざ探して買ってくれる。だからオンラインの収入で、最初の頃は生きていけましたね」

 

海外で発行される、国内では珍しいZINEも扱っている

 

コロナ禍でも、オンライン販売には助けられました。今まではアートブックとか珍しい本を中心にオンラインへ載せてたんですけど、コロナ禍でみんな店に来られなくなったので、普通の本屋に並んでる新刊書籍も載せるようにすると、ちゃんと売れましたね」

「店をはじめて15年ですけど、ずっと同じことはやってなくて。いまだにちょっとずつ変化してます」

「リアル店舗と、オンラインの売り上げの割合ってどんな感じですか?」

「もやし時代は圧倒的にオンラインですね。オンラインが8、リアルが2くらい

 

「そんなにリアルが低かったんだっけ!? 切なくなっちゃう……(笑)」

「(笑)」

「そのあと、今の場所に移転してからリアルの売り上げが伸びて、リアル7、オンライン3くらいに逆転しました。その後、コロナ渦でオンラインが増えて、最近やっと店頭も復活してきて……みたいな感じですね」

「オンライン販売も、ずっと前からコツコツやってきたのがよかったです。コロナだ! やばい! っていきなりはじめても、何千冊も一気にアップできないですから」

 

「ちなみに最近、小さな本屋をはじめたいって若者も増えている印象があって。そんな子たちでも、本屋でどう稼ごう? って不安もあると思うんです」

「そうですよね、僕らも初期の苦しい時代はアルバイトもしてましたし。でも夫婦でやってたからよかった面もあるし、人によって得手不得手もあるので……」

「『本屋がない場所に、本屋をつくろう』って、文化的なインフラづくりの側面もあると思うんです。個人的な動機も強いけれど、どこかに必ずいる20人のためにやってることでもあるから、そこに本屋がある意味は絶対に存在するはず。だからもう、しょうがないですよね」

「しょうがない。たとえあんまり稼げなくても……」

「『稼げる』をどうとるか、ですから。自分たちが食べていけるくらいなら、頑張ればなんとかなるはずだし、いっぱい稼ぎたいんならおすすめはしません(笑)。私たち自身、儲かるイメージが最初から弱(じゃく)なので」

「お金がモチベーションじゃないのは伝わってきます」

 

「まあ、もやしでもなんでも暮らしていければね。儲かりづらい業態ではありますけど、僕もだいぶ楽観的なので。やれることをひとつずつやってきて、ここまで来ましたね」

 

お店をやるならメーカーでもあるべき

ON READINGさんの出版レーベル「ELVIS PRESS(エルビス・プレス)」

 

「お店の稼ぎ方の話で言うと、出版レーベルもやられてますよね。あれは本屋以外で稼ぐためにはじめたとか?」

「いえ、そういうわけでもなくて。元々、自費出版の本を扱っていたので、自分たちでもつくろうと」

「自分たちにとっては自然な流れで、お店をやるならメーカーでもあるべきだなと思ったんです。ただ、すごく腰の重い二人なので、『そのうちやるだろう』と思いつつ、はじめるまでに結構かかっちゃいました。最初の1冊が友人の写真家の本だったんですけど、その人が背中を押してくれて」

 

ELVIS PRESSから最初に出版した、小林豊さんの写真集「Goodbye, Blue Monday 」

 

「僕も本をつくるんですけど、本づくりって時間も手間もかかると思うんです。本屋さんと並行でやるって大変じゃないですか?」

「うちがつくるのはアートブックが中心ですから、文字中心の本ほど作業は大変じゃないと思います。あとは、自分たちのペースでやれるので」

「どの本でも、作家さんと話をして、実際にリリースすするまで大体2年くらいはかかってますね」

「普通の出版社と比べて、かなりのんびり進行ですね。年間何冊くらいつくるんですか?」

「10周年のとき、既刊が24冊だったので……年間2〜3冊くらい?」

「あんまり出してない(笑)。熊彫の本みたいに自分のところの企画展に合わせたり、アートブックフェアを目指したり、きっかけも色々です」

「本をつくるときのモチベーションって何なんでしょう? お店をつくったときみたいに『こういう本がないからつくろう』だったりします?」

「基本それですね。すべてが『無いからつくる』だと思います

「最初の頃はイラストレーターの作品集を何冊も出してたんですけど、当時、そういう本をインディーズ的につくるケースって少なかったんですよね。今みたいに印刷所へオンライン入稿もできませんでしたし」

「世の中的に、個人規模で本をつくるハードルも高かったと」

「そうです。私たち、本屋も本づくりも全部やり方を知らずにやってるなって思うんですけど(笑)」

 

「作品をアーカイブする際、今はデジタルでも可能になってますよね。でも、私たちは本が好きだから、好きな作家を見つけたら紙の本で欲しいと思う。それをずっと続けてるイメージですね」

「本ってモノとしての意味を持つ存在ですし、紙に印刷して、本にして残す価値のあるものをつくりたいと思ってますね」

 

「ギャラリーはどうなんでしょう? やはり『自分たちが見たい、行きたい』と思う展示を意識されてるんでしょうか」

「それは一番です。あとはアートブックを扱っているので、そのオリジナル作品も見て欲しいと思うし、展覧会をきっかけに、お客さんが本を買ってくれる。本屋に立ち寄る目的を増やせるのはいいかな、と思って」

採算も含め、ギャラリーはギャラリー、本屋は本屋と別で考えてます。お店に併設の小さなギャラリースペースもあるので、刊行記念のフェアはそっちのほうがやりやすいし」

「そうか、別々なんですね。ギャラリーも2つやってると考えると、改めて色々やってますね……」

 

店内では、ミシマ社フェアが開催されていた

 

「お話を聞いてると、本屋さんにもいろんな稼ぎ方があるんだなと思います。最近ではカフェ併設のお店も多いですよね」

「同じ名古屋の金山(かなやま)でやってる『TOUTEN BOOKSTORE』はカフェとギャラリー併設の形ですね。店主の古賀ちゃんは愛知出身で、昔からの知り合いなんです。本屋をやりたいって話もちょくちょく聞いていて」

 

古賀詩穂子さんが店主をつとめる本屋「TOUTEN BOOKSTORE」 

 

「古賀ちゃんはカフェやギャラリーもやりつつ、ちゃんと本屋自体で生きていけるだけの儲けを出すってモデルケースをつくろうとしていると思うんです。本屋を別のいろんな何かと複合する形が主流になってますけど、みんな志を持って本屋をやってるので、立派だなと思います」

「古賀さんは僕も知り合いなんですけど、初めてお店に行って、棚に『古賀さんらしさ』が現れてるなと思って。そういう、小さな本屋の本棚から店主の顔が見える感じが好きなんですけど、ON READINGさんは棚づくりで意識されてることはありますか?」

「最近ようやく言語化できてきたのは『世界を見る目の解像度を高めてくれるような本』を並べる、ですかね。そうすると、どのジャンルの本でも当てはまるようになってきて」

「あの辺は身体の本、あの辺は食の本、とか自分たちなりに棚ごとにジャンルはあるんです。でも小さな店なので、あくまでゆるやかな区分けですし、私たちの気持ちや世の中の空気とかを反映して、徐々に変化していってると思います」

「なんだか生き物みたいで面白いですね。そうやって棚が変化してると、またお店に来たくもなります」

「買ってくださる方がいるから、その空いたスペースに、また次の本を挿せるので。だから『お客さんと一緒につくってる棚』と言うこともありますね」

 

あの頃お世話になった本屋さんへ行こう!

「名古屋で店をやられていて、土地に根付く感覚ってありますか?」

「ローカルにどう根差していくか、街の中でどうあれるか、は意識してますね。元々の動機も『ない店をつくる』でしたし」

「名古屋はまあまあ変な街だなと思いますね。土地ごとにエクストリームな、めちゃくちゃ尖ってる人はいるんです。でも、その周りの人はそんなに面白がってない(笑)。細かくレイヤーが分かれてるイメージがあります」

『名古屋はこう』って色があんまりなくて、それぞれが好きなことをやってる感じですね。だからバラエティ豊かだと思います。でも、面白いことをやりたい人は、大学を出たら東京や関西に出てっちゃうパターンも多いんじゃないかな」

「そういえば、名古屋って真ん中ですよね。どちらにも出られちゃう」

 

「出やすいんですよ。東京と関西ローカル、どちらのテレビの電波も入るので、両方のカルチャーに触れられるのはメリットですね。だからかわからないですけど、以前、知人と話してたのは『西と東の文化をごちゃってして、ちょっと味噌味つける』のが名古屋らしさなんじゃないかなって」

「面白いですね。どちらのカルチャーも受け入れる土壌があると」

「個人的には、考えすぎずにめちゃくちゃやっちゃうような若者が、本屋やカルチャーのお店に増えたら面白いなと思ってますね。『どう食ってくの?』と心配になるけど、でも面白いことやってる、みたいな」

「すいませんね、言うことがおじさんになってる気がする……(笑)」

「いやでも、わかります。ちょっと危なっかしいくらいのほうが、周りの人が集まって『面』になっていくというか。同じ愛知の『森、道、市場』もそんな面がありましたし」

「すごく歴史も文化もある街なので、名古屋にいるからこそつくれるものもいっぱいあると思います。もっと編集者がいたら面白くなるんじゃないかな、と」

「僕も東京在住なんですけど、東京に編集者が集中しすぎな面はありますね。もっと全国の街に分散したほうが面白くなるし、実際その動きは起きつつあるとも思いますけど」

 

「そういえば、本屋をやってて嬉しい瞬間があって。学生の頃にうちに通ってくれていた子が、東京へ行ってデザイナーになったり編集者になったりして、その子が手掛けた本がON READINGに並ぶ……みたいなことが起きてるんです」

「すごい。出世魚になって帰ってくるみたいなことが」

「これって最高の恩返しですよね! 長くやっててよかったな~って思います。まあ、その子たちに何かを与えたのは、私たちじゃなく本なんですけど」

若い頃に通った本屋さんって、その人を形つくる上ですごく大事な存在だと思うんですよ。学生だとお金もないから本をすごくたくさん店で買えなかったりもする。僕も地元でさんざん立ち読みしていた経験が今に繋がっているので……」

「学生のうちはそうですよね。私たちもお世話になった、大好きだった本屋さんがありますし」

「だから本当に、本屋さんには『街の文化をつくる』役割がある、と思います。ON READINGさんがまさにそうですし、僕も10代のとき通ってた、地元の本屋さんがありました。もう閉店しちゃったんですけど」

「やっぱり本屋さんは減ってますよね。ここ数年、『あの本屋さんが閉まっちゃうんだ』みたいに驚くことも多いです」

「大人になって、まだお世話になった本屋さんがやっている人は、本を買いに行った方がいいですね。そして『あの時お世話になりました』と伝えると、本屋さんも喜ぶはず」

「めちゃくちゃ嬉しいですよ! ON READINGでもお待ちしてます」

みんな、自分をつくってくれた、あの本屋さんに行こう! というのをこの記事の締めにします。義隆さん、杏子さん、ありがとうございました!」

 

編集:くいしん


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