ゴッッッ!
ゴッ!! ッカーーン!!!
どれどれ……。あっ!!
見てください。みなさん、これがなんだかわかりますか??
そう、化石!!!!!!
中央にある黒い部分、これは約1億2000万年前に存在していた植物の化石なんです。
そんなすごいものをどこで見つけたかというと、福井県勝山(かつやま)市にある化石の発掘体験現場。実はここ、福井県立恐竜博物館が運営する「野外恐竜博物館」なんです。すぐそばに見える発掘調査現場からは、今でも魚やカメ、ワニ、恐竜などの化石がじゃんじゃん発掘されています。
ここから貴重な化石がザックザク!
「福井県立恐竜博物館」は、カナダのロイヤル・ティレル古生物学博物館、中国の自貢(じこう)恐竜博物館と並び、世界三大恐竜博物館と称される施設。
現在、2023年夏のリニューアルオープンに向けて工事中。写真右手の「小タマゴ」が新たに誕生予定(完成イメージ図)
博物館のある福井県・勝山市は日本最大の恐竜化石発掘現場となっていて、今までに5種類もの新種の恐竜化石がここで発見されています。
どうしてこの土地では、これほどまでに化石が出てくるのでしょう? 化石って、こんなにサクッと見つかるものだっけ……??
そんな疑問を胸に、恐竜博物館の館長・竹内利寿(たけうちとしひさ)さんにお話を伺うと、福井県が「恐竜のまち」として日本屈指の観光地になれたのは奇跡であること、そしてわたしたちが太古の生物「恐竜」に、どうしてこれほどロマンを感じてしまうのか、その理由が見えてきました。
福井県立恐竜博物館・7代目館長の竹内利寿(たけうちとしひさ)さん。2012年から館長を務め、就任当時の年間入館者数50万人を94万人にまで伸ばした敏腕館長
重いし高いし時間もかかる! 恐竜発掘のセカイ
「館長、さきほど化石の発掘体験をしてきたんですけど、見事に植物の化石を発掘しました!!!!!発掘証明書ももらいましたよ!!」
「おお!それはよかったですね!! 紛れもなく、1億年以上前の地球上に存在した植物ですよ!」
「でも館長、そんな貴重なものをこんな簡単に見つけて、しかも持ち帰れるだなんて、いいんでしょうか?」
「いいんです、いいんです! 実際、発掘体験をされた方の7〜8割は、なにかしら化石を見つけるんですよ」
「そんなに!?!?」
「もちろん、動物や恐竜の化石というのはごくごく稀ですけどね。木村さんが見つけたような植物や貝の化石なら、高確率で見つけられますよ」
ただの石ころに見えるけど、貴重な化石が潜んでいる可能性、大……!
「ちなみに、今までに恐竜の化石を発掘された方っているんですか?」
「いますよ〜!」
「えー!!!すごい!! その場合も、記念に持ち帰れるんですか?」
「それは貴重な研究資源なので……動物や恐竜の化石を発掘した場合は、研究のために寄贈していただく形になります。その代わり、いつ、誰が発掘した、なんの化石か、というのを館内に展示させてもらっています」
「それはそれでうれしいですね!! 博物館に自分の名前が載るだなんて誉れだもんなあ〜」
「せっかくなので、すこし館内をご案内しますよ」
「いいんですか! ありがとうございます!!」
福井県立恐竜博物館は地上3階〜地下1階までの4階建て。山の斜面にあるため、入り口が地上3階にあたり、そこからエスカレーターで一気に地下へと降りていく
「地下に降りてまず見ていただきたいのが、この『ボーンベッド』ですね」
ボーンベッドとは、古生物の骨や骨の破片を多く含む特定の地層、または堆積物のこと
「これはカマラサウルスが埋まっていたボーンベッドの実物大レプリカです。全長は15メートルほどあります。実際にこの状態でアメリカから空輸して、施設内でクリーニング作業を行いました」
「こんな大きい岩盤を、わざわざアメリカから!? 手間も時間もお金もかかりそう……」
「このカマラサウルス一体で、2億5000万円ですね」
「2億5000万!?!? たっかー!!!!」
「運搬費用も含めた金額ですけどね。岩ごと運んで掘り出して、クリーニングして組み立てて……、展示までに4年かかりました。せっかくの機会なので化石の組み上げから一般公開してみたところ、全国的にメディアで取り上げてもらって、その年の入館者数は前年比で約15万人増の70万人になったんです。これは完全にカマラ効果ですね」
9割が実物の化石で組み上げられたカマラサウルス。迫力がすごい!
「ちなみに、ホンモノの化石とレプリカを一瞬で見分ける方法があるんですけど、わかりますか……?」
「え〜〜!? ……なんだろう」
「ヒントは『化石』という字そのものにあります」
「石……? 色が違うとか……?」
「おしい……! 化石って、おっしゃる通り『石』なんですね。とにかく重い。だから、標本として展示するには、しっかりした支えが必要なんです」
「あ〜、なるほど!! カマラサウルスの標本、ガッチガチに金属のフレームで支えてありました」
よく見ると、しっかりした金属製のフレームで支えられていることがわかります
こっちはFRP(繊維強化プラスチック)で作られたレプリカの化石。軽量のため、数本の支柱だけで展示ができる
「実物の化石ってとにかく重いので、組み上げる前に必ずレプリカを作るんですよ。軽くて扱いやすいレプリカで一度全体を組み上げてみてから、本物を組み上げます。カマラサウルスはあれ一体で2トンありますからね」
「2トン!?!? 2億5000万円かけて数十トンの岩盤をアメリカから輸入して、そこから4年の時間をかけて化石を発掘して、組み立てて、展示する……。もうドキュメンタリー映画が作れちゃいそう」
県の一大プロジェクトとして始まった恐竜発掘
「すみません、ちょっとじっくり話を聞かせていただきたくて、会議室に場所を移させてもらいました」
「いえいえ。なんでも聞いてください」
「さっそくお金の話で恐縮なのですが、実際、これだけの立派な施設をつくるのも、維持するのも相当な費用がかかるんじゃないでしょうか」
「そうですね。設立にかかったお金が140億円。発掘調査や、いわゆる研究活動も含めた年間の維持費がだいたい7億円くらいですね」
「カマラサウルスの2億5000万がかすむ……!」
「それでも、うちは公共団体が運営している施設には珍しく維持費の7〜8割は入館料でまかなえているんです」
「それって、すごいことなんですか……?」
「公共団体の施設の多くは維持費の1〜2割ほどの収入に止まっていることを考えると、群を抜いた数字だと思います」
「そう聞くとめちゃめちゃすごいですね!!」
年間90万人以上の入場者数を誇る福井県立恐竜博物館。コロナの影響がなければ入場者数100万人台も夢ではなかったという
「こうしてグラフを見せてもらうと、オープン後の10年はそこまで入場者数が多くないんですね」
「そうなんです。初めの頃はずっと25万人ほどで推移していました。2003年がひとつのポイントになっていて、この年に当選した当時の県知事が『福井県を恐竜の街としてどんどん盛り上げていこう!』という方針の方で」
「県の予算がおりたんですか?」
「はい。当時の県知事の一期目にあたる2003〜2006(平成15〜18)年頃まではさまざまな観光資源での試行錯誤があったようなのですが、それ以降は『ほかの県にない、オンリーワンのブランドは恐竜だ!』となりまして。二期目からは、人や予算を恐竜のPRにどんどん充ててくれて」
「やれることが増えますね!! 入場者数のグラフをみても、2007(平成19)年あたりから入場者数が増えているのがわかります。そのおかげでカマラサウルスも買えたのかあ〜〜」
「さきほど、維持費のなかに『発掘調査』も含まれるとおっしゃってましたよね。そもそも、どうして福井で恐竜の化石が発掘されるようになったんですか?」
「きっかけになったのは、お隣の石川県で恐竜の化石が発掘されたことなんです。その恐竜が発掘された時代と同じ時代の地層がこの辺にもあったので、『ひょっとしたらなにか出るかもしれない』と、1982(昭和57)年に発掘調査をしていたら、ワニの化石が出てきて」
「おお! 読みが当たったんですね!!」
「1億2000万年~1億3000万年前、前期白亜紀の地層からワニが出た。ということは、近くに水場があったはずですよね。水場にはいろいろな生き物が集まってくるので、本格的に調査してみようと、1988(昭和63)年に予備調査を行ったんです。その結果、肉食恐竜の歯が出てきました」
恐竜フィーバーのきっかけとなったワニの発掘現場
「歯が出たことで、これはほかにも絶対にいる!となって、翌年から本格調査を始めたところ、ザックザク化石が出てきたんです」
「恐竜無双の始まりだ!!!」
化石が生まれるのは「奇跡」である
「化石ってそんなにポコポコ出てくるものだと思っていなかったんですけど、ここはどうしてこんなに出るんですか?」
「たまたま、そういう地層がここに集まっていたから、としか言えないんですよね」
「たまたまですか!?」
「1億2000万〜3000万年前の恐竜たちが生息していた時代の地層で、なおかつ動物たちが集まりやすい水辺に近かった。ここが生き物たちが寄ってこないような場所だったなら、これほどの化石は出てこなかったでしょうね」
「たしかに。しかも、こうして発掘しやすい場所に地層があることも、たまたまですもんね」
「そうなんです。それに化石ができる過程を考えると、勝山が恐竜の聖地になったのは奇跡的なことなんです」
「奇跡?」
「生き物の死骸や植物が化石として残っているのは、まさに奇跡なんです。普通は腐って、微生物に分解されて、土に還っちゃいますよね」
「ああ、たしかに。植物なんかも、普通は朽ちて土に還りますもんね」
「だけど、ここは水辺だったので、たとえば洪水とかで一気に土砂に埋まっちゃって、そこにとんでもない圧がグーっとかかった。たまたま、微生物が活動できないような環境が出来上がったことで、化石として今も残っているんです」
「ほあ〜〜。しかも日本って島国じゃないですか。まわりを海に囲まれていて、中国みたいに大陸が大きくもないなかで、これだけ恐竜の化石が出るというのはほんとに奇跡みたいな話なんですね」
「本当に、その通りなんです。しかもここ勝山では、5種類の新種の恐竜が発掘されています。フクイラプトル、フクイサウルス、フクイティタン、コシサウルス、フクイベナートル。フクイプテリクスは鳥なので除くとして……」
「ただでさえ貴重な恐竜が、5種類も!?」
「ちなみに日本で発見された新種の恐竜は、今のところ9種類です。そのうちの5つがここで発掘されたもので、あとの4つが石川、兵庫、北海道、淡路島で見つかっています」
「すごい。恐竜の一大産地だ。そりゃあ世界三大恐竜博物館にもなるわけだな〜」
子どもたちの好奇心の翼を広げるのも、博物館の役割
「博物館といっても、実際のメイン事業は研究なんです。いまはどの博物館も観光視点を大切にしていますが、うちも『恐竜博物館』を名乗っていても、中身は地球科学全般の博物館です」
「館内は恐竜だけじゃなく、地球の歴史や鉱石にまつわる展示もされてますもんね。恐竜が生きていた時代の環境について、学べるようになっている」
「そうそう。恐竜の研究にしても、おなじ時代を生きた恐竜たちがどの土地で見つかったかによって、地球全体の地盤の動きもわかるようになります」
「化石を発掘して調査することで、地球全体の地盤、生態系、その時の気候など、あらゆることがわかるようになってくるんですね」
「恐竜を入口にして、子どもたちが自然科学にも興味を持ってくれたら、という思いもあって。好きなもの、興味のあることから入って、自然や地球、命の大切さを感じ取ってくれたらいいですよね」
「これだけ立派な展示を見たら、きっと恐竜が好きになると思います!」
「小さい頃にこういった自然科学に触れることで、ゆくゆくは研究に携わってくれる子が出てくるかもしれない。化石だけじゃなく、そういった未来の人材発掘にも繋がればいいなと思うんです」
「(館長がうまいこと言った……!)」
「ちなみに、恐竜に関する研究で、最近わかったことなどはありますか?」
「たとえば、最近だとこのフクイラプトル。以前は手が縦に、爪が前を向いた状態だったと考えられていました」
フクイラプトルの再現模型。手は、爪が前を向く形でついている
「だけど、関節の研究が進んでいくなかで、実は横向きだったんじゃないかとわかって。そのほうが獲物を捕まえて食べるのに実用的ですしね」
こちらが最新の研究結果に合わせて作り直された骨格標本。手の向きが横向きに変わっている
「がしっと掴んで、そのままガブっといけそうな手になりましたね。研究が進んで新しいことがわかるたびに、展示も更新されているんですね。おもしろ〜」
「あとは、恐竜は絶滅したと思われていますけど、実はわたしたちの身近にいまも飛んでるんですよ」
「飛んでいる……鳥ですか!?」
「そうですそうです。獣脚類と呼ばれる肉食恐竜のグループには、当時から羽毛をまとったものもいました。彼らはそのまま鳥類として進化し、現在まで生き残っている唯一の恐竜です。だから、毎日見かけるスズメも、水族館で会えるペンギンも、みんな恐竜」
「すご! 恐竜って滅んでいなかったんですね。太古のロマンが一気に身近に!!」
「いま思わず口にしてしまったんですが、恐竜に対して『太古のロマン』という言葉がよく使われますよね。恐竜も宇宙も深海も、自分の知覚している世界よりはるかに規模の大きい未知の存在って、どうしてこんなにも魅力的なんでしょう?」
「それはやっぱり好奇心、想像力が刺激されるからじゃないでしょうか」
「毎日、太古のロマンと向き合っている館長でも、そうですか?」
「というより、子どもたちの存在が大きいかもしれないですね。必ず一日に数回は館内を歩いて、お子さんたちと会話をするようにしているんですが、子どもたちの視点って本当におもしろいんですよ」
「子どもは好奇心の塊ですもんね」
「たとえば木村さん、恐竜の色って何色だと思いますか?」
「あ! 再現されている恐竜の色って実はテキトーで、それっぽい色を想像で付けているって聞いたことがあります」
「そうなんです。皮膚もなにも残っていない化石から、色素を特定することはできません。なので現存する生物を参考に、着色しているんです。でも、なにも残っていないということは、どんな色の恐竜でも存在した可能性があるとも言えます」
「ド派手なショッキングピンクも!?」
「いたかもしれないですよね。子どもたちの塗り絵って本当に色彩豊かで驚くんですが、誰も見たことがないんだから、そんな色の恐竜が存在しなかったとも言えない。
だけど一色だけ、高い確率でいたであろうとされている恐竜の色があるんですが……わかりますか?」
「森に擬態できるような……緑とか?」
「それは考えられるでしょうね。生存競争の中で生き残っていくには、そういう進化を遂げていた可能性は高い。でも、違うんです」
「えー、なんだろう!?」
「お子さんでも、すぐにわかる子はパッと答えちゃいますね」
「ぐぬぬ……。わかりません!」
「答えは、『白』です」
「アルビノか!!」
「そうそう。突然変異によって、色素がない生き物が生まれることは確認されている。ということは、生物学的に白色の恐竜が突然変異で生まれていた可能性は高いと言われているんです」
「なるほど〜〜〜〜〜〜〜」
「こうして理屈で導き出せることがある一方で、まだまだ恐竜については未知の部分がほとんどです。ここにはたくさんの骨格が展示されているけれど、それを見ただけでは、恐竜は何色をしていたのか?なにを食べていたのか?どんな姿で寝ていたのか?そういう部分まではわからない」
「展示を見る子どもたちは、その見えない部分をどんどん想像するんですね」
「どんな顔をしていたんだろう、どんな風に歩いたんだろう。博物館としては、そういう骨格を見ただけではわからない世界にこそ、どんどん想像の翼を広げてほしいんです」
さいごに
館長と施設内をまわる中で印象的だったのは、まっすぐに展示と向き合う子どもたちの姿でした。一生懸命メモを取ったり、精巧なロボットを怖がったり、映像を食い入るように見つめたり……。きっと彼らの頭の中には、彼らの作り出したさまざまな姿の恐竜がいるのでしょう。
わからないから知りたくなるし、わからないから自由に想像できる。
圧倒的スケールで展開される展示の数々は、お子さんだけでなく大人の好奇心もビンビンに刺激してくれます。
現在、2023年夏のリニューアルオープンに向け、絶賛工事中の福井県立恐竜博物館。増築後は広さが約1.4倍になり、貴重な収蔵庫も見られるようになるとのことです。
きっと、今後もじゃんじゃん恐竜が発掘されて、じゃんじゃん展示が増えていくのでしょう。
みなさんも太古のロマンに触れて、心の中に眠っている好奇心の翼をどーんと大きく広げてみてください。知らないことを知る楽しさ、ひさしぶりに味わえた気がします。
それでは、また!
取材協力|福井県立恐竜博物館 ※現在、入館は予約制となっています
撮影:小林直博