こんにちは、ライターの友光だんごです。この「ジモコロ」というメディアに関わりはじめて5年。日本全国を取材で飛び回るようになり、数え切れないくらいの土地を訪れてきました。
すると、どんどん脳内で大きくなっている声があるんです。
「このまま東京に住んでて、いいのかな?」
旅先で地元産の新鮮な野菜や魚を食べて『やっぱり地のものが一番ですね』なんて言った数日後、東京に帰って、スーパーの惣菜を買っている自分をふと俯瞰で見たとき。「これでいいのか……?」と思ってしまう。
地元の岡山を出て、東京で暮らして14年。都会の暮らしに不便は感じていないものの、仕事で地方をまわり、そのおもしろさを伝えている自分との乖離を、正直なところ感じています。
熊本・阿蘇に行った際の一枚
また、コロナ以降、身近な人たちがどんどん移住しています。長野に小田原、逗子につくば。みんな理由は少しずつ違うものの、移住先に遊びに行くと羨ましく思ってしまう自分がいるんです。
とはいえ、『今すぐ移住しよう!』となれない理由もたくさんあって。みんなどんな風に移住を決めてるんだ?という悩みを抱えて、今年、神奈川県小田原市に移住した編集者のくいしんさんに相談してみることにしました。
※取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで行ない、撮影の際だけマスクを外しています
移住には3つのハードルがある!?
「今日は時間とってもらってありがとうございます!」
「いえいえです!」
「移住について悶々としてまして。話を聞いてもらってもいいですか」
「悶々と。移住、したいんですか?」
「うーん。今すぐに移住したいって決めてるわけじゃないんですけど、『自然の近くに住みたい』欲求がどんどん高まってます」
「あー、『環境』の話ですね。まず、いいですか。移住には3つのハードルがあります」
「えっ、移住カウンセラーの方ですか?」
「移住の仕事ずっとやってるんで。ほとんどそれです」
「ほとんど、それ」
「その3つとはずばり、『環境・仕事・家族』です」
「ほう。仕事と家族はわかるのですが、環境というのは?」
「だんごさんみたいに『自然の近くに住みたい』とか『湖の近くに住みたい』とか。はたまた『満員電車がいやだ(から、郊外に住みたい)』とかも環境の話ですね」
「なるほど、なるほど」
「自分の欲求として、その環境を『欲しい』ないしは『避けたい』という類がこれです」
「はい」
「考えてみてください。だんごさんが移住のインタビューをしてきた中で、この3つ以外のハードルってなんか聞いたことありますか?」
「うーん……」
「ないんです」
「ないのかもしれません」
「では、話を進めましょう。逆に言えばこの3つのハードルさえクリアすれば、誰でも移住できちゃうわけです」
「なるほど!」
「移住したいあなたも、3つのハードルと自分の状況を照らし合わせて考えてみよう!」
「急に誰に向かって言ってるんですか?」
【移住のハードル:環境】もっと自然に近い環境に住みたい
「だんごさんは自然の近くに住みたいとのことで。たとえば、山奥とか?」
「そんなにど田舎じゃなくてもいいんです。朝起きて窓を開けると、空が大きくて、山と田んぼが見えて……みたいな環境に住みたくて」
「今はそうじゃないってことですよね?」
「東京のアパート暮らしなので、窓を開けた先は住宅街ですね。コロナ禍になってから、気づいたらベランダ菜園をはじめたり、部屋に植物を増やしたりしている自分にも気づいたんです」
「めっちゃ自然を欲している! そういえば、だんごさんと地方に行ったとき、山とか海の近くに行くとテンションが上がってますね」
「そうそう。ここ1〜2年で移住した知り合いの家に行ったときに『いいなー!』と思った体験もデカくて。ジモコロ編集長の柿次郎さんが長野の信濃町に新居を構えたんですけど、リビングの窓からの眺めが『田んぼ! 山! 空!』だったんですよ」
※実際の写真ではないですが、こんな風な眺めでした
「見た瞬間に、『自分もこんな環境に住みたい!』と思っちゃって。あとは逗子に移住した知り合いの家もよかったなあ。ベランダが広くて、山が見えて、夜にはデカい星空が見えて……」
「とにかく無性に広い空を求めてるんだな、というのはわかりました。それはもう完全に『移住したい』という状態なのでは?」
「ただ、移住へのハードルもすごく感じていて。東京を離れて今の仕事が続けられるのかな?という不安があるんです」
「仕事の面でのハードルはたくさんありそうに感じられますよね」
【移住のハードル:仕事】東京にいなくても、意外と仕事はできる?
「僕らみたいな編集ライター業って、基本はPCとWi-Fiがあれば業務はこなせるじゃないですか。実際、僕も今年から小田原に住んでるんですけど、東京にいなくても、意外と仕事できる説はありますよ」
「本当ですか? 不便なことはない?」
「コロナ禍の影響ってのもありますよね。コロナ以降、打ち合わせはほとんどオンラインになったし。だんごさんとも週一でジモコロのMTGをしてますけど、いつもZOOMじゃないですか!」
「たしかに。『ZOOMだからやりづらい』とかはないですね」
「一部の取材やMTGは対面の場合もありますけど、僕はそういう予定をできるだけまとめて、月に何日か『都内に行く日』を設定してます。その上、新幹線を使えば小田原駅から品川駅は26分です」
「近っ」
「吉祥寺駅から品川駅まで37分。それよりも全然近いんです。僕は都内→小田原ですけど、そんなの移住というより『引越し』じゃないですか!? 東京を離れたところでそんなに変わりませんよ!」
「急に強気だ」
「同じように、だんごさんが都内から湘南エリアとかに移るのは、移住じゃなくて引越しなんです」
「一気に気軽な響きになった。実は最近、逗子・葉山、鎌倉あたりは物件情報を見てるんです」
「おおっ、いいじゃないですか。自然も近いし、東京まで電車で1時間くらいで出れちゃうし」
「ただ、やっぱり通勤のことを考えるとハードルを感じちゃって」
「通勤。今のオフィスは下北沢でしたっけ」
だんごの会社「Huuuu」がシェアオフィスに入居している、下北沢の商業施設「BONUS TRACK」。撮影:藤原 慶
「会社で下北沢のシェアオフィスを借りてて、平日は基本そこで仕事してます。今の家からバスか自転車で25分くらいなので、通勤時間が1時間半とかになると億劫になりそうだなあと」
「それは億劫ですね。でも、オフィスに行くのは週に1、2回でいいんじゃないですか? 実際、コロナの感染者が増えてた時期は在宅で仕事してたような」
「そういえば、あのときは『在宅でも意外といけるな』とは思いました」
「そうなんですよ。意外とイケます。だから正直、だんごさんの地元の岡山でも意外といけるのでは?と思ってます」
「岡山も???」
「たしかに妻も岡山出身なので、いつかふたりで帰るのもありだね、とは言ってましたけど」
「岡山は新幹線が停まるじゃないですか。だから新幹線の止まらない地方に比べて、東京や他の土地とも行き来しやすいと思います」
「そう言われてみればそうですね」
「新幹線が走っているところはどこも都会です。究極、東京滞在は月に1回にまとめて、あとは岡山拠点にしたらいいじゃないですか!」
「岡山ー東京間は、往復で新幹線代が3万4千円くらいかかるんですよ〜。ちょっと高くないですか?」
「岡山の場合、東京よりは家賃なんかの生活コストが抑えられるじゃないですか。それに、だんごさんが岡山へ拠点を移すことで、新しい人間関係が開拓できるから、会社の新しい仕事も生まれるはず。そうしたら、往復の交通費くらいペイできちゃいますよ」
「なんか、意外とできる気がしてきますね。おれは岡山にだって住める……?」
岡山の広い空が恋しい気持ちが、心の奥底にはあります
「コミュニケーション」の壁は大きい
「いま岡山移住を脳内でシミュレーションしてたんですけど、ひとつ問題がありました」
「なんですか?」
「僕のいるHuuuuって会社は、社長が長野市にいるんです(ジモコロ編集長の柿次郎)。今も東京と長野の遠距離で仕事していて、基本はオンラインのコミュニケーション。でも、月1〜2くらいは会いに行って、直接顔を合わせるようにしてるんですよ」
右がジモコロ編集長の柿次郎
「それは意識してやってるんですか?」
「はい。『意外とオンラインでいけるやん!』って思ったときもあったんです。なんですけど、1ヶ月くらい顔を合わせて話をしないとなんかズレてくるんですよね。向こうの些細な言葉がひっかかったり、小さなすれ違いが生まれたり……。そこから意識して会いに行くようにしてます」
「だんごさんが岡山に移住しても、月1で長野まで会いに行けばいいじゃないですか」
「そこが問題なんです。岡山→長野はめちゃ遠いんですよ! 新幹線だと東京乗り換えで、5時間ちょい。飛行機でも、岡山空港が市内から1時間くらいかかるのと長野も松本空港しかないので、長野市まで車で1時間半くらい。トータルで5時間超えそうですね」
「5時間はめんどくさいなあ(笑)。もはや韓国やグアムに行けるくらいだ。東京→長野は新幹線で1時間20分くらいだから、その日に思い立っても全然行けちゃいますけど」
「そうそう。そのフットワークの軽さが、岡山→長野だと持てないんです。さすがに遠い」
「うーん……」
「正直、僕も『顔を合わせないとコミュニケーションは難しい』とは思ってます」
「ちょっと!!!! さっきと矛盾してるじゃないですか」
「いや、基本はできるんですよ? なんですけど、直属の上司とか、所属するチームとか、近い関係の人とは定期的に対面コミュニケーションをとらないとうまくいかないって例を実はかなり見ていて」
「と、言いますと?」
「数年にわたってフルリモートでやってる会社で、『ずっとフルリモートが続いたほうがいい、そっちのほうが楽しい』って言っている人にひとりも出会ったことがないです。少なくとも僕は」
「なるほど」
「さっきのだんごさんのように『小さなすれ違いが生まれる』とか感じる。結局みんな、ある程度、対面で会うことを求めるんです」
「そうですよねえ。このコミュニケーションの壁がかなり大きいんですよ」
【移住のハードル:家族】夫婦間での熱量の差をどう埋める?
「あとは家族のハードルもあって。妻はコロナ以降、基本は在宅勤務になってるんですが、出社もちょくちょくありますし、会社として『どこに住んでもいいよ!』という感じではなくて。社内に地方移住してる人もいないみたいで」
「移住しつつ今の会社で働くのは実現不可能ではないけれど、会社側との交渉とかは発生しそうですね」
「妻自身、いつか岡山もいいよね、とは言ってますけど、僕よりも熱量は低いかと。というのも、僕のほうが地方に引っ張られているので」
「引っ張られている?」
撮影:原田啓介
「元々、夫婦ふたりの住むところに関する価値観は同じくらいだったと思うんです。でも、僕がこの仕事に転職して地方へ行きまくるようになって、僕のほうがどんどん地方的な暮らしに惹かれてるんですよ」
「なるほど。だんごさん側の価値観がどんどん変化している。5年前に比べて、外見も全然変わりましたもんね。周りに『移住側』の人も増えたでしょうし」
「柿次郎さんはずっと『長野来なよ』と言ってます。僕が長野に行けば会社的に話は早いんですけど、妻が寒いところは無理らしくて」
「夫婦間で移住に関する価値観や熱量に差が生まれてるのは『あるある』では? そこで無理に進めても、いいことにならないケースが多いと思いますよ」
「そうですよねえ。移住には惹かれているけれど、越えなきゃいけないハードルも多い……」
「いきなり岡山はハードル高そうなので、段階を踏むのがいいんじゃないですか? 柿次郎さんも、まずは市街地に近い長野市内に、数年後に、より自然豊かな信濃町に、と長野県内で二段階移住してましたよね」
「そういえば。その流れで言うと、逗子や鎌倉エリアは東京と長野と行き来しやすい、かつ自然がある、の条件に当てはまりますね。あとは最近、知り合いから山梨もおすすめされたなあ」
「いいですね、甲府とか。いろんな移住のケースを見てきて、『急激な変化は避ける』のは大事だと思ってます。だんごさんの条件だったら、まずは移住じゃなく、引越し。それくらいの感じで考えてみては」
「なるほど! それなら妻との価値観も、少しずつ寄せていけるのかも。自然のそばへの『引越し』、これから本格的に考えてみようと思います」
おわりに
この話のあと、まずは妻と「どういうところなら引越したい?」という話をしながら、物件情報をググってみるところからはじめています。
逗子や山梨など具体的な候補地にも遊びに行きながら、来年中にはどこかへ動けているといいなあ。
まだ「移住のだいぶ手前」ではありますが、少しずつ前に進んでいきたいと思います。
編集:くいしん