こんにちは!
ジモコロライターのギャラクシーです。
今日は秋葉原駅前にあるマニアックすぎる大型書店「書泉ブックタワー」に来ております。
書泉と言えば1948年の創業から、「趣味人ご用達」を標榜する名物書店。2011年にアニメイトグループ傘下に入り、なお独自の路線を突き進んでいます。
世間ではネットの台頭によって“町の本屋さん”が次々と閉店していると言われていますが、この厳しい時代に本屋が生き残るために必要な力は何なのか? あのワケのわからない品揃えには何か意図があるのか? 気になりすぎて直接、話を聞いてきました!
そして1階からこの品揃え。1階って普通もっと一般受けしそうな本を置くんじゃないんですか?
でも図解で吸血鬼とかめちゃめちゃ読みたくなるー!
他にも、書泉ブックタワーに行ったことがある人なら「え、なんで?」と思うことが多々あるはず。
そこで、すべての謎を知るこの方にお話を伺いました。
担当は青年コミック。勤続年数23年、毎月発行される膨大な量のコミックをほとんどチェックしているという筋金入りの書店員。推しマンガは「監獄学園」。
2時間近くかけて鯨井さんに店内を案内してもらいました!
1階|書店の顔であるハズの1階が、なぜあの品揃えなのか?
「今日はよろしくお願いします! 以前プライベートでこちらを訪れた同僚が、ブラブラ歩いてるうちに20冊ほど本を買ってしまったと興奮しながら教えてくれまして」
「それはそれは(笑)。お買い上げありがとうございます」
「僕もその翌日にこちらを訪れてみたんですが、やっぱり衝動買いで何冊も本を買ってしまったんですよ! これ、ネットで本を買う時にはない感覚だなあと思って、今回は鯨井さんに案内してもらえないかと」
「わかりました。ではまず1階からご案内しますね」
「ありがとうございます! 1階といえばタワー型書店の顔といえる部分ですよね。前から聞きたかったんですが、これは、一体どんな意図で本を配置してるんですか?」
「1階に関しては売れ筋のベストセラーや雑誌、あとは2階以上の各ジャンルの紹介になるようなものを置いてますが…なにか?」
「いや1階なのに忍者の本とか未確認飛行物体みたいな本がゴリゴリに平積みされてて、何考えてんだろと思ったもので」
「ははは(笑)。いや、これでもマシになった方だと思いますよ! 昔はもっとマニアックでしたから。興味を持った人が2階以上の専門的なコーナーに足を運んでくれればっていう、そういう戦略なんですよ」
「やはり戦略とかはかなり考えてるんですか? 書店業界は店舗数が年々減少していて危機的状況にあるということですが」
「正直厳しい状況でしょうね。ネットで本を買う人や電子書籍を利用する人が増えたことで、全国的に書店の数も売り上げも減少の傾向にあります」
「うわっ! 15年前と比較するとめちゃめちゃ縮小してますね! ちょっと聞きにくいんですが…書泉ブックタワーさん自体の売り上げはどうなんですか?」
「それがですね…ありがたいことに、ここ数年は順調に上昇してます! 書泉は2011年にアニメイトのグループに入ったんですが、そこからアニメイトのノウハウを勉強したり、生き残るために色んなことをやっていますよ」
「そうやってネットに対抗する力をつけて生き残ってきたんですね…。ちょっと気になったんですが、鯨井さんはAmazonとかで買い物することはないんですか?」
「え?」
「……………」
「……………」
「ありますよ」
「あるんだ」
「そりゃありますよ! 品揃えが豊富だし探しやすいんで、日用品や映画なんかはネットで買ったりします。ただ私の場合、紙の本が好きなので電子書籍は利用してませんけどね」
鯨井さんは笑って話してくれましたが、実はかなり苦しい時期もあったとのこと。生き残りをかけた挑戦は多岐にわたったそうですが、ここ数年それが実を結び、売り上げは上昇しているそうです。
そんな書泉ブックタワーを象徴するのが1階の品揃えなのでしょう。各階の担当者が「これ良い本だから1階に置いてくれ!」という感じでガンガン持ち込んでくるため、一見妙な品揃えになってしまうのだとか。
この熱さこそ、ネットに対抗する強力な武器になっていると感じました。
4階|スポーツコーナーとオーディオコーナーも業の深い品揃え
「4階に上がってきて早々申し訳ないんですが、これ、何ですか?」
「こちらは数年後の甲子園のスターを見つけるのに役立つ中学野球の本、『中学野球太郎』じゃないですか。知らないんですか?」
「知りませんよ! 甲子園が好きな人って、中学生までチェックするんですか? 執念深すぎないですか」
「どの趣味でも、“自分だけが知っている”ってやっぱり嬉しいんですよ。ここに載ってる選手がいつか甲子園に出場した時、『この選手なら3年前から知ってたわ~』って言えるのって気持ち良いでしょ?」
「まあ、そう…なんですかね…」
「スポーツコーナーでは、最近プロレスが女性に人気です。アイドル的な視点で捉えられていて、写真集やカレンダーなどがかなり売れていますね。一昔前では考えられませんでしたが、イベントでも黄色い歓声が上がるんですよ」
「そういえば書泉さんは定期的に色々なイベントを行ってますよね」
「9階にイベントスペースがありますので、アイドルやグラドル、作家や漫画家の先生などを呼んで、サイン会や握手会をやってます」
「イベントは実際に足を運んで参加するものですから、ネットにはできない強みですよね。そこはちゃんと戦略として考えられてるんですか?」
「もちろん! 書店に足を運べばこんなに楽しいですよ! お得ですよ! といった感じで、イベントやフェアを提案しています。私は、書店がネットに対抗できる力は提案力だと考えてるんです」
「スポーツコーナーの裏は、オーディオのコーナーですか。これは…スピーカーを自分で作れる本!? 何それ! しかも何冊かある!! 需要たけぇー!」
「あー、それは結構人気あるんですよ。この世には色んな趣味がありますが、オーディオ関連は特に深い沼ですから気をつけてください。オーディオマニアは電力会社や発電所からの距離まで気にすると言われてますから」
「へぇ~、それって本当に効果あるんですか?」
「…………何がですか?」
「いやだから、オーディオマニアが電力会社…」
「さあ、次の階に行きましょう!」
4階には他にも映画、特撮、音楽、アウトドアなどのコーナーがありました。
鯨井さんと話していると「提案力」という言葉がよく出てくるのですが、イベントやフェアがその最たるもの。実際に足を運びたくなるイベントがあれば店にきてもらえる。店に来てもらえば虜にできるだけの品揃えがある、という感じでしょうか。
5階|鉄道コーナーは書泉の真骨頂! ここはほんとに本屋なの!?
「ついに鉄道のコーナーに来てしまいましたね。以前ここを訪れた時、魔界という言葉が頭をよぎりました」
「鉄道はいまやメジャーな趣味ですよ! 当店では入門用の本から、担当者選りすぐりのディープな本、さらに同人誌まで、多数(注:想像以上に多数)取り揃えております」
「鉄道趣味がぜんぜんわからないので、すごく基本的な質問していいですか? こんなに時刻表がいっぱいあるのは何故なんですか? 一冊一冊になんか意味があるんですかこれ」
「時刻表自体は同じでも、出版社ごとに付加情報やデザインの違いがあります。お気に入りの時刻表をただ眺めるのが好きな人も多いんですよ。空想で旅をするのに役立ちますから。あと貨物列車の時刻表なんかは意外な売れ筋ですね」
「貨物列車の時刻を知ってどんな得があるんですか??? 人間は乗れないじゃないですか!」
「撮り鉄(電車の写真を撮るのが趣味の人)が、貨物列車を撮る時に、この時刻表を見て撮影ポイントを探すわけです」
「ああ~なるほど! 一冊一冊に意味があって、求めてる人がいるんですねぇ…」
「鉄道関連はグッズもたくさんあります!」
「もはや本ですらない! これ売り物なんですよね?」
「もちろん売り物です。昔は鉄道や新幹線の座席なんかも扱ってました」
「何屋なんだよ」
5階は鉄道、バスを始め、ミリタリーや模型など、ドロドロに濃い趣味がこれでもかと詰め込まれています。
廃墟、廃線、廃駅のコーナーには、地下道や地下洞窟など、とにかく地下のことを集めた本があり、つい衝動買いしてしまいました。こういう、想像もしてなかった本に出会えるのが本屋さんの良いところですよね!
8階|売れ筋のラノベフロアで、地域性の重要度を聞く
「8階はラノベ(ライトノベル)のフロアになります。書泉ブックタワーの売れ筋はラノベ、コミックス、コンピューター関係、それから鉄道やアイドル写真集ですから、かなり戦力になっているフロアです」
「アキバという立地は売れ筋に関係してるんですか? 本屋は車で5分走るだけで売れるものが変わってくる、と聞いたことがあるんですが」
「地域性は書店が生き残るためにはすごく重要ですから、かなり意識してます。会社や学校の帰りにフラッと立ち寄った本屋で、ピッタリの本を見つけたら、『あ、この本屋は自分に合ってる』と思ってまた来てもらえますから」
「なるほどなるほど。そんな売れ筋フロアが、なぜこんなにも上の階(8階)なんでしょう」
「シャワー効果と言いまして、上の階から徐々に下がっていって下の階も見てもらえるという……のを、昔は考えてたんですが、正直に言うと色々試した結果、これが一番良かったという感じです」
「まあ、好きな人は何階だろうと結局そのフロアに行きますからね」
「店の奥にエレベーターもありますから、ヒョイっと行けますよ、ヒョイっと」
「こちらは作家のサインが入った本ですね。書泉には、ラノベに限らずコミックや一般小説も、こうしてサイン本コーナーがあります。サイン本をコレクションするのが好きな“サイン本ハンター”というマニアもいらっしゃいますよ」
「サイン本も書店に足を運ばないと手に入らないものですね! ラノベって最近急に台頭してきたジャンルですが、出版業界に与えた影響…」
「いやちょっと待ってください。ラノベの歴史は意外と古いんですよ。ロードス島戦記やスレイヤーズ!なんかもかなり売れましたし、知らない方は“ラノベ”と一括りにすることもありますが、実はこのジャンルの中でも色々動きがあって、例えば一昔前は千円を超えるとどんな人気作家でも絶対に売れないと言われてたんですけど、最近はオーバーロードやゲートっていう…」
「………」
「うわー、懐かしい! ゲームの攻略本ってプレイしてた頃の思い出が一気に蘇ってきますね」
「攻略本には資料的な価値もありますから。敵キャラのイラスト見ながら、こいつ倒すの苦労したなあとか、その思い出のために手に入れたいという方が多いんです」
「それ、めちゃめちゃわかります! このSIREN(PS2のホラーゲーム)の攻略本のここを読んでくださいよ! 美耶子を守りながら須田恭也はこう進まなきゃいけないんですけど、ここに配置されてる屍人がめちゃめちゃ厄介で一旦ここに美耶子を隠して、うわー懐かしいなあ! で、そうそう(笑)ここで何回も死んじゃってぇ~、結局3日かかっても進めなくて仕方ないから別のルート…」
「………」
ちなみに鯨井さんおすすめのラノベは「ゲート 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」と「オーバーロード」とのこと。どちらも最近アニメになり、人気作品がさらに超人気になって手がつけられないほどなんだとか。
9階|アイドル・グラビア・アダルト書籍も奇想天外な工夫が!
「最上階の9階はアイドル、グラビア、それにアダルトコーナーになっています。フロアの半分がイベントホールになってまして、サイン会や握手会なんかを開催しています」
「!!めちゃめちゃ有名なアイドルのサインがいっぱい飾ってあるゥゥ~! これ、イベントの時のやつですか!?」
「ブレイク前にイベントを行ったアイドルが当店を気に入ってくれて、すっかり有名になった今でもイベントに参加してくれたり…なんてこともあるんです。嬉しいですよね~」
「もともと書泉といえばアイドルに強いというイメージです。先日閉店してネットで話題になった神保町・書泉ブックマートは特に、アイドルの聖地とまで言われていましたね」
「経営合理化のために神保町のブックマートは閉店しましたが、メインとなるアイドル関連の本やサイン本は、同じく神保町の書泉グランデに大移動させましたから、今後はそちらでお買い求め頂ければと」
「このフロアにはアダルトもありますが、アダルトってネットとの競合が最も厳しいジャンルでもあると思うんです。現在はどんな状況になってるんでしょうか」
「出版社サイドでも工夫して、パンティ付きの雑誌や、セクシー女優を使ったヌードポーズ集(イラストを描く時のデッサン資料)などがありますね」
「パンティ付きの本もめちゃめちゃ気になりますが、ポーズ集はすごいアイデアですね。資料として必要なイラストレーターや漫画家、さらにセクシー女優のファン、色んな人を取り込める」
9階には他にも、縄で女性を縛った芸術的な写真集や、女性の臀部に特化したクリエイティブな書籍など、気になる本が山程あったのですが、写真を撮ってもモザイクだらけになってしまうという理由で割愛します。
奇想天外なアイデアが満載のアダルトコーナーを見て、エロはしたたかだなあ、と思いました。見習いたいものです。
1階から9階まですべてのフロアを見終えて
「はあ~、もうおなかいっぱいです。案内して頂いてありがとうございました! 色んなコーナーがあって、色んな本があって、本屋ってブラブラしてるだけでめちゃめちゃ楽しい空間ですね!」
「でしょう? 書店って、ただ歩いていれば、プロの店員がこうして棚を作って、おすすめを提案してくれてますから。自分の想像以上の本に出会えたりするんです」
「ネットで本を買う時は自分が思いつくワードでしか検索しないから、想像すらしていなかった本に出会うのは難しいんですよね。今日は改めて本屋の良さを実感しました」
「書店にしかできないことっていうのもあるんですよ。私は、イベントやフェア、品揃えなどに力を入れて、お客様に提案する力があれば、ネットとは共存できると考えてます」
「書泉さんなら、その言葉にも納得です! 今日はありがとうございました! めちゃめちゃ楽しかったです!」
「こちらこそ、ありがとうございました」
ネットは確かに便利で、必要な本を効率よく買うことができます。
でも本屋をブラブラしながら気になった本をパラパラとめくり、想像もしていなかった驚きに出会える喜びもまた、格別なものだと思い出しました。
その証拠に・・・
取材で来たはずなのに、スタッフ一同いつの間にか大量に本を買い込んでいました。
なお、経費で落とすことはできませんでした。
おわり。
ライター:ギャラクシー
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy
編集:徳谷 柿次郎
ジモコロ編集長。大阪出身の33歳。バーグハンバーグバーグではメディア事業部長という役職でお茶汲みをしている。趣味は「日本語ラップ」「漫画」「プロレス」「コーヒー」「登山」など。顎関節症、胃弱、痔持ちと食のシルクロードが地獄に陥っている。 Twitter:@kakijiro / Facebook:kakijiro916