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まるで神話。阿蘇の草原、実は「人の手でつくられた自然」だった!

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まるで神話。阿蘇の草原、実は「人の手でつくられた自然」だった!

こんにちは、ライターの友光だんごです。めちゃくちゃ逆光ですみません。

僕はいま、熊本県の「阿蘇(あそ)」に来ています。

 

つい神々しい写真を撮りたくなってしまうほど、ここの景色はすごくてですね……

 

見てください。見渡す限りの大地。

 

人を入れると、よりサイズ感がわかると思います。これだけだだっ広いのに、ほぼ人工物が見えない。

日本にこんな風景があったのか…!!!と驚いたのですが、実際、映画『進撃の巨人』をはじめ、いろんなロケ地にもなっているそう。

 

現代のような文明が栄える前、まだ人間よりも自然が強かったころの景色はこうだったんじゃないかな?と想像しちゃいます。

 

そんな風に「自然の極みみたいな景色なのですが、実はこの景色が1000年以上前から人の手でつくられているって聞いたらどう思いますか?

 

いや、めちゃめちゃ自然じゃん! 「人の手がつくる」と対極では……と、僕も最初は驚きました。しかし、話を聞いていくと、たしかに阿蘇には「人の手がつくる自然」があったんです。

 

人の手がつくる自然とは、一体どういうことなのか? 阿蘇の草原を維持する活動にも関わる地元の温泉地「黒川温泉」の方に、話を聞きました。

 

※取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで2020年11月に行われ、撮影の際だけマスクを外しています

 

話を聞いた人:北里有紀さん

黒川温泉の旅館「御客屋」7代目御客番。黒川温泉旅館組合前代表理事。21歳で黒川に戻り、家業の旅館の修業を積む。2010年、32歳で有限会社御客屋旅館の代表取締役に就任。2011年、黒川温泉旅館組合の理事に初当選し、理事長を経て、現在は同組合の事業部長を務める。

 

1000年以上前から、草原をつくってきた存在とは

「黒川温泉」は、阿蘇の山あいに30軒ほどの温泉宿が並ぶ、小さな温泉地。ひとつの温泉地で泉質が七種類も沸いている、世界的にも珍しい場所です。

 

里山に溶け込む日本的な景色も人気で、「2009年版ミシュラン・グリーンガイド・ジャポン」で温泉地として異例の2つ星を獲得。海外からの観光客も多いそう。コロナの流行前は年間で宿泊客が30万人、日帰り入浴客は90万人が訪れていました。

 

そんな黒川温泉も、2016年の熊本震災では大きな影響を受けました。旅館の建物が被害を受けたり、営業を再開できたあとも熊本への旅行を控える人が出て、お客さんが激減したり。

 

そうしたなか、ジモコロでは「ネットで普及力のある人を集めて、情報発信しよう!」と、全国から100人を集めて全員自腹で(!)黒川温泉を訪れる応援企画を実施しました。

 

自腹で情報発信! 熊本震災支援イベントに「100人のライター」が集まった結果

 

地域にお金を落とし、現地から熊本の魅力を発信することが目的だったこのツアーは、当時Twitterのトレンド入りも。

 

そんな風にジモコロと縁の深い土地でもあるのですが、僕は当時まだ前職だったため、今回が初の黒川温泉です。

 

「2016年のツアーも知ってたので、ずっと黒川温泉に来たかったんです」

「あの企画は本当にありがたかったです。記事を見て黒川温泉に実際にいらした人もかなりいたし、公開後の問い合わせもかなりありました」

 

「そうだったんですね! さっきは草原も案内していただいてありがとうございます。あのデカさに衝撃を受けました」

「すごかったでしょう。お客さんをよくご案内するんですが、『ドラクエとかゼルダに出てきそう!』と言う方もいらっしゃいますね」

「ほんとに、もはやファンタジーの世界観みたいです。それで、気になることをおっしゃってたのですが……あの景色は1000年以上まえから人の手でつくられてる、って本当ですか?」

「本当ですよ! 何もせずに放っておいたら、草木がどんどん伸びちゃうでしょう? そのままだと、林になっちゃいますよね」

「まあ、たしかに」

「よく見ると、草原じゃなく林になってしまってる部分もあるんです。そこは人の手が入らなくなってしまった場所で」

 

山頂から下にいくにつれ、木の生えた緑の部分が増えている

 

「じゃあ、草原のままのところは、人の手で伸びる草木を刈ってる? でも、途方もない面積じゃないですか。とても追いつかないような」

「いちいち刈ってたら無理ですよね。なので、燃やしています

「燃やす!!??」

「『野焼き』といって、毎年、春先になると草原に人が集まって火を放つんです」

「……焼くとそのまま焼け野原が残るだけなのでは?」

「それが、高温に強い植物の種子だけが残されて、また青々とした草原に戻るんですよ」

「自然の力すごいな〜! 定期的に散髪して、いい感じの髪型を保つみたいなことなんですね。イメージできました」

「実際の野焼きの様子は、こんな感じです」

 

「なんか普通に山火事みたいな光景(笑)! ……これ、危なくないですか?」

「私も参加したことがありますが、火なので熱いし、危ないですね(笑)。でも防火帯を事前につくったり、風向きを計算したりして、火の向きをコントロールする技術が継承されているんです」

「へええ。継承ということは、野焼きは昔から行われている?」

平安時代の書物に記述が残っているので、1000年以上前から行われているはずです。土壌分析をすると、1万3000年前の縄文時代には、すでに野焼きが行われてたんじゃないかという説もありますね」

「そんなに昔から! なんで毎年危険を冒してまで、草原を維持する必要があったんでしょう?」

「それには、とある生き物が関わってきます」

 

草原と人と牛の関わり

「生き物というのは……」

『牛』です。このあたりでは昔から畜産がさかんで、『あか牛』というブランド牛もいるんです」

 

阿蘇の草原で放牧されていた、あか牛

 

「牛。そういえば、草原のあちこちで放牧されてる牛がいたような」

「明治や昭和の時代まで、日本の農村には一軒一軒『役牛(えきぎゅう)』と呼ばれる牛がいました。トラクターや車のような機械が普及する以前は、田畑を耕したり、荷物を運搬するために牛が欠かせない存在だったんです」

「あ、そういえば役牛って聞いたことあります! 前に取材した飛騨の農家さんも言ってました。牛は作業を助けてくれるだけじゃなく、人の食べない野菜クズや藁を食べてくれるし、糞は堆肥になって土を豊かにする。とっても役に立つ存在なんだと」

 

「俺たち人間は退化しとる」飛騨のウシ飼いが語る”土と内臓”の話

「よくご存知ですね。そんな大事な牛を放牧するために、草原が必要だったんです。昔は牛だけではなく、馬も同じように草原で放牧されていました」

「なるほど! 車のない時代は、馬も移動や運搬の手段として重要ですよね。だから草原が必要だったと」

「草原で刈った草は、茅葺き屋根や、堆肥の素材にもなります。草原は、昔の人の暮らしに欠かせない存在だったんですね。だから毎年、野焼きをして草原を維持する必要があったんです」

「人々の暮らしと密接に関わっていたと。それが1000年以上続いて、この景色が残ってるってなんだか途方もないですね……」

「先人たちが脈々と受け継いできたものですから、私たち地元の人間にとって、すごい財産だと思っています」

 

ただただ遠い目になる景色

 

「『人の手でつくられた自然』だけ聞くと盆栽とか箱庭みたいなものをイメージしがちじゃないかなと。でも、この規模と1000年という時間のスケール感を踏まえると、もはや『人工的』って言葉は超えてますね」

「たしかに人の手がまったく入ってない自然もありますけど、そうじゃない自然も意外とあるんじゃないかな? この黒川温泉だって、そうですし」

 

黒川温泉の「人の手がつくった自然」

「黒川温泉も、人の手でつくった自然? 温泉も自然に沸いたものじゃなく、人の手で掘ったものだから?」

「そういう見方もできますけど、もっと景観に関する話ですね。黒川温泉って、『なんて日本らしい景観なんだ!』と特に外国の方に評価いただいてるんです。コロナの前までは、インバウンドのお客さんも多くて」

「日本の有名観光地にありがちな、山の中に大きなコンクリートの建物がバンバン建ってる…みたいな感じがないですよね。もっと素朴というか、山の自然に溶け込んでる印象です」

 

「ええ、自然に見えるように人の手で整備していますから。近隣の裏山にある雑木をあえて不揃いに配置して、前からそこにあるような自然な木立をつくっているんです」

「人の手でつくられた自然って、そういうことか……! 自然に見えるように計算してつくられてるってことですね」

「阿蘇の草原と同じく、放っておいたら伸びっぱなしで、とても綺麗とは言えないものになってしまいます。これまでに約2万本の木々を植樹し、枝入れや落ち葉掃きなど、手入れを旅館組合を中心に行ってるんです」

 

黒川温泉では、30軒の宿と里山の風景すべてを「ひとつの旅館」として捉え、「黒川温泉一旅館」をスローガンに、魅力ある温泉地づくりに取り組んでいる

 

「大企業や海外からの大きな資本があれば別ですけど、うちはこんな小さな温泉地で、ずっと自分たちの手で維持してきました。地元に暮らす私たちが、日々の日課のなかで自然を整備してるんです」

「自然の整備は昔からずっと行われてるんですか?」

「歴史は30年くらいで、意外と浅いんです。元々は黒川温泉も殺風景な状態だったんですよ。旅館の屋根や壁が色とりどりの配色だったり、コンクリむき出しの無機質な感じもあったり」

「全然違ったんですね…! それがなぜ、今の景観に?」

「『新明館』という旅館の後藤哲也さんがすごい方だったんです。『田舎だからって都会の真似をするな』と言い、黒川温泉の自然の景観をつくり直す運動を起こしたんですよ」

 

黒川温泉にある老舗旅館のひとつ『新明館』

 

「後藤さんは10年かけてノミと金槌で岩山を掘り、『洞窟風呂』という露天風呂をつくりました。露天風呂や旅館のまわりにも樹木を植えて『自然より自然らしい』と評される景観が生まれたんですよ。そして、その露天風呂と景観が評判となりお客さんを呼びはじめて」

「それまでは、他の旅館に露天風呂はなかったんですか?」

「はい、後藤さんが黒川温泉で初めて露天風呂を導入しました。新明館の姿を見て、まわりの旅館も露天風呂をつくり、自然の木や野草を植えはじめました。そこから10年、20年とかけて温泉街全体の自然が増え、今の景観ができたんです」

「いろんな旅館の露天風呂を巡れる『入湯手形』がいまの黒川温泉の名物じゃないですか。それも、同じくらいのタイミングで生まれたんですか?」

 

1枚1300円で、黒川温泉の旅館28箇所から、好きな温泉3箇所を選んで入れる「入湯手形」

 

「そうですね。元々は、敷地にスペースがなくて露天風呂をつくれない旅館が2軒あったので、救済的に他の宿の露天風呂を使えるようにしたのがはじまりで。でも、いろんな露天風呂を巡れるのが評判になり、ピークでは年間約3億円を売上げる人気のコンテンツになったんです」

「すごい! じゃあ後藤さんからはじまった露天風呂のムーブメントが、結果として黒川温泉の観光資源にもなったと」

 

「入湯手形の利益は、景観づくりをはじめ地域活動の様々な事業にあてられました。だから入湯手形が人気になれば、より魅力的な景観にもつながり、温泉地全体がどんどんよくなる……という、いい循環ができたんですね」

「へえ〜! 面白いですね。阿蘇の草原と同じで、ずっと昔からあるような自然の景色なのに、人の手でつくられてる。しかも、経済活動と景観を守ることがいい具合に結びついてる」

「毎年冬に、『湯あかり』というイベントを開催してるんです。景観と環境保護のために地域の放置された竹林を整備して、その際に出る竹の間伐材を使って灯籠をつくり、温泉街を飾っています

 

温泉街の竹を間伐し、再生する活動の一環として2011年にはじまった「湯あかり」

 

「これも自然の保護と、観光的な価値づくりをうまく両立した例ですね」

「自然の整備が観光客を呼ぶコンテンツに変わり、それで地域にお金が落ちる。すごくいい循環が生まれていますね」

「まさに『循環』がこの土地の魅力をあらわすキーワードだなと思い、地域のブランディングにも力を入れています。最近の事例については、事務局長の北山も一緒にお話させていただきますね」

 

地域にずっとある価値を可視化し、ブランディングする

ということで、ここからは黒川温泉の事務局長をつとめる北山元さんにも一緒に話をうかがいます。

 

北山 元(きたやま・はじめ)さん。阿蘇にある動物園の企画・広報職を経て、2017年から黒川温泉へ転職。宿泊・観光業と他産業との連携、地域内外の方々との関係づくり、黒川温泉のPRにつとめる

 

「北山さん、よろしくお願いします。地域のブランディングとは、具体的にどのような事例を?」

「ひとつは『つぐも』といって、ブランド牛の『あか牛』を軸にしたプロジェクトです」

 

「僕もお手伝いさせていただいたプロジェクトですね」

「冒頭でお話しした阿蘇の草原を維持する『野焼き』ですが、最近は人手が減り、ボランティアの方々の力も借りて続けている状態なんです。その要因は牛を育てる人の減少も大きくて」

「一次産業の担い手不足はどこも大きな問題になってますけど、畜産に関わる人が減っている?」

「それもありますが、農業のやり方の変化も大きいですね。トラクターのような機械が普及すると、牛を飼う農家も減りました。すると放牧も減りますから、野焼きをする人も減ってしまうんです」

「そうなると、単に野焼きの人手を集めればいいって話でもないですね。産業のあり方が変化すると、地元の文化にも影響が及ぶんだな……」

「そうですね。あの草原の景観は地元の宝なので、守っていきたくて」

「でも、保護活動は『自然を守ろう!』という気持ちだけだとなかなか難しい部分もあります。当然、お金も必要になってくるので」

「黒川温泉の景観づくりのように、自然を守る活動が地域経済にもつながる形だと最高ですよね」

「そこで『つぐも』なんです。この名前は『継ぐ牛(モー)』から来てて、半分ダジャレなんですけど(笑)。『あか牛』を軸に、地域の景観と観光、農業を次の100年に継いでいくのが目的で」

 

地元農家の佐藤勝明さん。牛が農業にもたらす循環の価値に気づき、地元産のあか牛を地元で提供する活動をはじめた

 

「これまで『あか牛』は幼年期のみ地元で、その後は他の土地で育てられることが多かったんです。でも、最初から最後まで地元産のあか牛が増えれば、野焼きの需要も増え、草原を維持することにも繋がると思うんです」

「地元で牛を育てる人が増えれば、自然と野焼きの担い手も増えますもんね」

「そこで、黒川温泉で『あか牛』を食べると、料金の一部が地元の畜産農家の支援にまわる『あか牛ファンド』という仕組みをつくりました。さらに、地域にある循環を可視化し、発信していくプロジェクトを『つぐも』と名づけたんです」

 

「つぐも」プロジェクトを通じて可視化された、地域にある循環の輪(「黒川温泉2030年ビジョン」公式ページより)

 

現地であか牛の肉をいただきましたが、脂肪が少なく旨味たっぷりの肉質で、めちゃくちゃおいしかったです

 

「いまはコロナでなかなか難しい部分もありますが、黒川温泉に来てあか牛を食べていただくことで、観光客の皆さんに、地域の循環の輪に参加していただきたいんですよね」

「単に観光スポットを巡るのではなく、地域の文化や価値を学んだり、自分の暮らしを見つめ直すきっかけになったりする旅を求める人は増えてますよね。そういう人たちに需要がありそう」

「さらに最近、黒川温泉では2030年に向けたビジョンを策定して。『地域資源を循環させ、サステナブルな温泉地を目指す』を掲げることにしたんです」

 

「黒川温泉2030年ビジョン」公式ページより

 

「いまの黒川温泉が生まれた経緯を聞くと、すごく納得感のある内容です。最近、SDGsって言葉もさかんに言われてるじゃないですか。そういう世界的な流れも意識されてるんですか?」

「それもありますけど、SDGsが流行ってるからじゃなく、昔からやってきたことがたまたまSDGs的だったんだと思います」

「そうですね。草原も、黒川温泉の自然も、地域の先輩たちがずっと受け継いできたこと。それを私たちも、次の世代に繋げていきたいんです」

 

熊本震災とコロナ。二度の嵐

「熊本震災で黒川温泉も被害を受けてらっしゃいますよね。もちろんコロナも観光業にとって本当に大きな打撃だと思います。そうした嵐を経験したことが、つぐもやビジョン策定にも繋がってるんでしょうか?」

「まず震災は本当に大きかったです。地震直後は半月くらい営業できなくて、営業再開した後もお客さんがガクンと減って。それで地震の次の月に、取引先さんの請求書をまとめていたら、ゼロが一つ減るくらい、業者さんへの支払いも減っていることに気づいたんです」

 

「旅館は衣食住すべての領域にまたがっていて、取引先も多いです。だから、旅館がダメになると、地域のいろんな業者さんに悪い影響が及ぶ。その人たち一人ひとりに家族もいますから、そこまで考えたんです」

「今回のコロナでも、飲食店が休業すると、農家や漁師の方、氷屋さんにも大きな影響が及ぶことがニュースになっていますね……」

「逆に言うと、黒川温泉にたくさんお客さんが来れば、旅館だけじゃなく、地域の業者さんにもお金が落ちる。つまり、地域が潤うじゃないですか。そこを目指そうって思ったんです。そこで本当に、考え方が変わった感覚がありました」

「ではそこから、黒川温泉としてどう動いていくかを意識しはじめた?」

プロモーションで瞬間風速的に話題を呼ぶんじゃなくて、自分たちの地域の価値を理解して、発信し続けていくこと。それが観光業にとっても大事なんじゃないかと思ってますね」

「観光業って、成長し続けていくと、社会によくない影響を生み出すことも多いと思っているんです」

「京都みたいに人が来すぎて、地元の人たちが生活しづらくなるとか? コロナ前の京都はそんな感じだったと聞きます」

「それもありますし、たくさん人を呼んでたくさん食事を出すと、そのぶんたくさん食べ残しのゴミも出ちゃう。それに、お客さんが増えたから食材を大量発注したいけど地元の業者さんだと難しいとなって、県外や海外の業者へ頼むようになるとか。経済を優先して、地域の循環を崩してしまうケースも多いんです」

「まさに経済成長だけを優先するんじゃなく、地球や地域ことまで考えて、持続的な発展を考えましょう…というのが最近SDGsとかでも言われてることですよね」

「なので、黒川温泉では旅館から出てる生ゴミや、景観整備で出る落ち葉を堆肥に変える活動もしています。その堆肥で野菜を育てて、それを旅館で食べていただく。そんな循環を、地域の温泉が取り組んでいることはすごく価値があるんじゃないかと思うんですよね」

 

堆肥の専門家・鴨志田純さん、サーキュラーエコノミー専門家の安居昭博さんのアドバイスを受けながら堆肥をつくっている。ちなみに堆肥をつくっている場所は、使わなくなった温泉の湯船。堆肥はネット販売も行っていくそう

 

「生ゴミも落ち葉も、堆肥にすればゴミじゃなく、価値のあるものに変わる。循環の輪に入れることができるんですよね」

「徹底的に『循環』がキーワードだ。お客さんの数とか売上げとか『数字』も大事ですけど、そうじゃない価値基準を持つのは大事ですね」

「入口は難しくなくていいんですよ。まずは黒川温泉に来てあか牛を食べて『美味しい!』と思ってほしい」

「その後で、さっき温泉にくる途中で見た草原の景観はあか牛がいるから維持されてるんだ、こんな循環があるんだ……と背景を知ってもらえたらいいなと」

「実は全部つながってるんだ!と」

「そうそう、つながってるんです」

「循環について学べる土地、黒川温泉みたいな打ち出し方もいいですね。食や景観、温泉といろんな角度から地域の循環について学べる土地ってまだまだ少なそうなので」

「本当に、地域には知れば知るほどいろんな循環があるんです。それを可視化していければいいですよね。私も40代に入ってから、次の世代に残すことを強く意識するようになって。地域には素敵なものがたくさんあるから、それをちゃんと継いでいきたいですね」

 

おわりに

私たち人間はこの地球で生きる以上、どうしたって自然に影響を与えてしまいます。自然をダメにするのではなく、自然と人間、お互いにうまく共存するための『手の加え方』を考えることが必要な時代なのかもしれません。

 

阿蘇と黒川温泉にあった「人の手でつくられた自然」は、人々の暮らしや地域経済に恵みをもたらす「循環」を生んでいました。

 

それは最近のブームにのってつくられたのではなく、もともと地域に存在したものばかり。足元にあるものの価値に気づき、それを伝えていく大切さを、北里さんの話から学びました。

 

編集:くいしん


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