カポーン……ピチョン……ざざぁぁぁ~~……
フハァァ~、気持ちええわ〜。足伸ばして湯に入るってマジ最高だわ~。
こんにちは、ジモコロライターのギャラクシーです。お風呂あがりのテカテカ顔で失礼します。
銭湯ってほんと気持ちいい。
でも大抵の人は日々の雑事に追われ、普段は自宅で縮こまってシャワーを浴びるだけではないでしょうか。
そこで今回は、ジモコロ編集長の柿次郎と共に、京都・五条エリアにある銭湯「サウナの梅湯」にお邪魔しております。
こちらは銭湯業界の革命児と言われる湊三次郎(25)さんが経営する銭湯。
学生時代に数百の銭湯を訪れたというマニアが、遂に経営にまで挑戦したということで、NHKの取材を受けたり、雑誌POPEYEに紹介されたり、何かと話題になっているんです!
サウナの梅湯
住所:京都市下京区岩滝町175
営業時間:15:30~23:00
電話番号:080-2523-0626 (営業時間外不通)
定休日:毎週木曜日
twitter:@umeyu_rakuen
「いや~、良い湯でしたね! でも銭湯のために京都って遠くない?」
「京都は戦前の古い銭湯がそのまま残ってたりして、銭湯好きの間では聖地とも言える土地なんですよ! 特にこのサウナの梅湯(以下梅湯)なら、若き経営者・湊さんに、銭湯業界の実情を裏の裏まで聞けるんじゃないかと」
「この時代に銭湯の経営か……聞きたいことがいっぱいありますね。女湯ってどんな味がするの?とか」
「もっと聞くべきことあるだろ」
湊 三次郎(みなと さんじろう)
静岡県浜松市出身。高校時代に旅行した横浜で銭湯に出会う。京都での大学時代は銭湯サークルを作り、全国数百ヶ所の銭湯に足を運んだ。
2015年5月、「サウナの梅湯」の経営者となる。
Twitter:@37sanjiro10
というわけで今回は湊さんに、銭湯の魅力や入浴マナー、そして銭湯経営について語って頂きました。
それ言っちゃって大丈夫?という所まで赤裸々に話してくれたんですが、マジで大丈夫なのかな……。
銭湯経営の裏側!「儲かるライン」って?
お話を伺ったのは梅湯の休憩スペース。お客さんが次々と僕らの横でコーヒー牛乳やお茶を飲んでいくという、庶民的なインタビューになりました。
「湊さんは銭湯好きが高じて経営にまで至ったということですが、どういう経緯で梅湯を手に入れたんですか?」
「梅湯自体は明治からある銭湯で、僕は前の経営者の時代にアルバイトとして働いてたんですよ」
「ということはバイトから正社員登用みたいな感じで、すんなりと梅湯の経営に?」
「いえ、一旦別の会社に就職したんですが、当時の経営者が梅湯から撤退するっていう話を聞いて、『じゃあ僕がやります』と。2015年の5月のことですね」
「銭湯経営というもの自体、想像もつかないんですけど、ぶっちゃけ儲かってるんですか?」
「銭湯業界で一般的に言われている儲かるラインは、一日の客数が120人なんです。でも普通の銭湯なら実際は平均80人~90人ってところじゃないですかね。梅湯も平均はそんな感じですね」
「湊さんのTwitterで『150人達成!』ってツイートがありましたが、日によってかなり波があるんですか」
本日、150名の大入新記録でした!! ランナーや観光のお客さんだけでなく、久しぶりに来てくださったリピーターの方も多く、150名という沢山の方にご入浴頂けましたm(_ _)m ちなみに、127名が今までの最高でした(正月除く)。ありがとうございました!!!
— 湊 三次郎 (@37sanjiro10)
「雨の日はお客さんが少なかったりしますから。今はボランティアの人に手伝ってもらったり、自分の人件費を削ってなんとかやれてるって感じですね」
銭湯は設備の修理や補修で簡単に何十万・何百万と飛んでいくそう
「ブログに『浴槽が水漏れしてて莫大な修繕費がかかりそう』って書いてましたよね。昔からある銭湯ということは、他にも色々とお金が要るんじゃ……」
「梅湯の経営を始めた段階で、500万円くらい使って色々な箇所を修繕しました。漏水はそのあとに起こってすごく困ってたんですけど、つい先日工事して、やっと直りましたよ」
「うわー、ほんとに銭湯経営ってお金がめちゃめちゃ必要なんですね……」
「経営に煮詰まって本当にゲロ吐きそうになったりしましたけど、好きでやってることなんで。それに、僕が引き継いでから月の売り上げが30万円くらい増えたし、燃料と電気代は約20万円削減できたんです。なんとか……やっていけてますよ」
「(めちゃめちゃ床の一点を見つめてるけど大丈夫なのかな)梅湯は入浴料金が430円ですけど、料金を見直したりといったことは考えてないんですか?」
梅湯|現在の入浴料
大人(中高生以上)430円中人(小学生)150円
小人(乳幼児)60円
「料金の上限は都道府県で決まってるんです。430円は京都の上限で、それ以上の料金にはできません」
「決まってるのは上限だけってこと? 安くする分にはいくらでも安くできるんですか? 10円とかにもできるの!?」
「可能です。ただ一軒だけ安くすると『じゃあウチも値下げする』『ウチはもっと安くする!』って具合に、地域で低価格競争が始まっちゃうんです。だからみんな上限価格で揃えてるって感じですね」
主要都市の入浴料金
札幌(北海道)・・・440円
仙台(宮城県)・・・400円
東京都・・・・・・・460円
名古屋(愛知県)・・440円
大阪府・・・・・・・440円
福岡県・・・・・・・440円
入浴料が一番高いのは
神奈川県・・・・・・470円
入浴料が一番安いのは
長崎県・宮崎県・・・350円
※2016年4月現在の料金です
銭湯の売り上げで一番大事なのは常連さん
「銭湯は常連さんで持ちこたえてるという部分が大きいんです。生活に根ざした文化なんで」
「一見(いちげん)さんも大事だけど、常連さんがいないと売り上げが予測できないっていうのもありますよね」
「だからまずは常連さんを増やしたいんですが……かなり難しいですね。銭湯の常連になるということは、ライフスタイルを変えてもらうということなんで」
「でも梅湯さんならネットやテレビ、雑誌で紹介されるといった、新しい形で客数が伸びていきそ……」
(ここで突然、近くでコーヒー牛乳を飲んでたお客さんが話しかけてきた)
「僕はここによう来るけどね、梅湯はええ銭湯やで」
「え? だっ……誰!?」
「常連さんです」
「ああ、なるほど。梅湯のどんなところがお好きなんですか?」
「そらぁ、なんちゅうてもサウナやね。汗をクァーッとかいたら気持ちええんよ~! 他にも色んな銭湯いくけど、梅湯が一番好っきやわ~」
「ほうほう、サウナがお好きなんですね。他に梅湯の良い部分ってあります?」
「えっ?」
「……………………」
「……………………」
「ないのかよ!」
「ほな、そろそろワシ帰るわ~! 明日も来るでぇ~!」
(去っていく常連さん)
「えっと、すいません、常連さんを増やしたいっていう話の途中でしたね。今みたいな人を増やしたいってことですか?」
「まあ、そう……ですね」
燃料は薪!? 普通は一生見られないボイラー室に潜入!
「そろそろ薪を足さなきゃいけない時間なんですけど、一旦ボイラー室で作業してもいいですか?」
「ま、薪~!? この銭湯、薪でお湯を沸かしてるんですか?」
「見たい見たい!!!銭湯のボイラー室が見れる機会なんて貴重すぎる!」
「今どき薪を使っているなんてさすがですね。やっぱり銭湯マニアとして古き良き時代の……」
「いや、コスト削減のためです」
「あ、そうですか」
「以前は燃料が油だったんで、何もかも全自動でめちゃめちゃ楽でした。薪だと40分~50分に一回、こうして薪を足さなきゃいけない――」
「僕だって、できれば油でやりたいですよ」
「でも薪なら毎月15万円くらいはコストを削減できるから……」
「た、大変そうですね。サウナもこのボイラーでやってるんですか?」
「サウナは電気なんです。だからどうしても節約できない。電気代が毎月10万円くらいかかります」
「東京だとサウナに入ると別料金がかかる銭湯もありますけど、梅湯はそういうのはないんですね」
「京都は基本的に別途サウナ料金を取るというのは無いですね。せっかくだから入った方が良いですよ」
マニアに聞く! 銭湯で見るべきポイントは?
ボイラー室での作業が終わり、再び梅湯店内に戻ってきた我々。
せっかくなので、銭湯マニアの湊さんに色んな豆知識を聞いてみました。
「湊さんは大学で銭湯サークルを作って数百軒の銭湯を巡ったそうですが、銭湯で見るべきポイントってありますか?」
「まずは外観ですね。特に京都は、東京と違って空襲で焼けてないから、古い銭湯がそのままの形で残ってたりします。また、どういう立地なのかも考えると良いですね。どんな土地に建っているかで何となく歴史がつかめるんです」
「なるほど、梅湯だと京都・五条エリア(旧遊郭、戦後一時期は赤線だった)にあるから、昔はきれいなお姉さんがお湯に入りに来たのかな~なんて考えると感慨深いですね」
「細かいことですが、ロッカーの古さや、その鍵も味のあるものが多いので見てほしいですね」
「銭湯には何十回と来てるけど、ロッカーの鍵に注目したことなかったわ」
「タイルなんかも『これは戦前のやつ、これは昭和初期』ってわかると楽しいんです。マジョリカタイルとかビクトリアンタイルとか、実は色々種類があるんです」
「あとこれは一般常識レベルですが、のれんも地域によって違いがあるんです。東京型、京都型 大阪型などですね」
「あ、僕もひとつ銭湯トリビア知ってるんですよ! 関東では右が男湯で左が女湯ですけど、関西では右が女湯で……」
「それ、よく言われますけど都市伝説ですよ。男湯女湯の左右は地域による違いじゃないです。店ごとって感じですね」
「…………」
「(めちゃめちゃドヤ顔でデマを披露したのかこいつ……)」
「そういえばひとつ気になってたんですけど、梅湯の番台って脱衣所の手前にありますよね? 脱衣所の中にあるのが一般的かと思ってたんですが」
「女性からするとやっぱり男性に着替えを見られるというのは恥ずかしいでしょうし、あと番台が脱衣所の中にあると、番台から下りるためにまわり込んだりしなきゃいけなくて面倒なんですよ」
「へぇ~、でも脱衣所の手前だと女の人が着替えてるところを見れないですよね? 番台といえばすべての男性が一度は憧れる仕事……その一番良い部分を捨てる結果になってませんか?」
「いや、他の銭湯の旦那衆が言ってたんですが、毎日見てたら何とも思わなくなるものですよ。完全に作業というか」
「めっちゃかわいくてド巨乳でもですか?」
「そっ……」
「いや、今のままでいいです」
「(僕が銭湯経営することになったら脱衣所の中に番台つくろう)」
あなたの知らない銭湯のマナー
京都という土地柄、外国人客も多いので英語の注意書きが貼ってありました
「なんとなくみんなが守ってる“銭湯の入浴マナー”みたいなのってあるじゃないですか」
「『タオルを湯につけない』みたいなやつですか?」
「それです! そういうのってハッキリと明文化されてないから、正解がわからないんですよ。タオルにしても、湯につけないのは知ってても、どこに持っとくのがベストなのかはわからないじゃないですか」
「この際だからいくつかハッキリさせときたいマナーを教えてもらっていいですか」
銭湯のマナー
・タオルを湯につけない
頭に乗せるか、邪魔にならない場所に置いておく
・髪の毛を湯につけない
髪の長い人はヘアゴムを使って上にまとめる
・湯船で顔をゴシゴシしない
基本的に湯船は洗うものではなく温まるためのもの
・湯船に入る前にはカラダを洗う
かけ湯だけでいい銭湯もあるが、石鹸で洗ってから入るのがベスト
・浴場から脱衣所に戻る時はタオルを絞って軽く拭く
床がビチョビチョだと他の人が不快だから
・入れ墨(タトゥー)があっても入ってOK
基本的にはOK
※湊さんの考える梅湯でのマナーです
「え……湯船で顔をゴシゴシしちゃだめなんだ。聞いといて良かった」
「1ミリも顔に触っちゃダメというレベルではないですけどね。あまりゴシゴシやらない方がいいです」
「入れ墨(タトゥー)があってもOKっていうのは驚きました。結構『お断り』みたいな注意書きが貼ってある銭湯多いですよね」
「銭湯というのは『公衆浴場』なので、誰もが入れなければいけません。だから入れ墨(タトゥー)禁止というのに強制力はなく、いわば“お願い”という意味だと思います」
※ただしスーパー銭湯は『その他の公衆浴場』なので銭湯とは扱いが異なります
「たぶん他にもとんでもないマナー違反とかがあるんでしょうね」
「海外の方ですが、湯船でお酒を飲もうとした方もいましたね。外国人旅行者だったので、温泉で日本酒みたいなイメージと混同したんだと思いますが」
「ああ~なるほど! 海外だとマナー以前に銭湯っていう概念自体がない国もあるんだ!」
「建物がめずらしいのか、店の前で立ち止まって、眺めてる外国人旅行者も多くて。そういう人にはこちらから『パブリックバスだよ、入っていく?』って声をかけます」
「銭湯は日本の誇る文化ですから、外国の方にも知ってもらいたいですよね。そして僕らはその文化を守っていかなきゃ! よ~し、東京に帰ったら銭湯に行きまくろうっと!」
「東京にも良い銭湯たくさんありますからね。わからないことがあったらいつでも聞いてください」
「はい! 今日はありがとうございました!」
取材が終わってから、世間話として兄弟はいるのか質問したところ――
「弟は東京で銭湯のバイトをしてます。もう少ししたら、ある会社で銭湯運営の現場担当になる予定だそうです」
とのこと。
おそらく悟空とラディッツのように、湊兄弟には銭湯民族としての血が流れているのでしょう
【おまけ】こちらは女湯の写真。営業時間外なので裸の女性がいるわけもないんですが、すごくドキドキしました。
ライター:ギャラクシー
株式会社バーグハンバーグバーグ所属。よく歩く。走るし、電車に乗ることもある。Twitter:@niconicogalaxy