こんにちは。ライターの井口エリです。
私は神社が好きなのですが、神社愛や巫女さんへの憧れが高じて、30歳で巫女装束を着て神社のお仕事のお手伝い(アルバイト)をさせていただいたことがあります。
巫女さんへの憧れを大人になってから叶えました(以前の写真なので社殿の色が朱です)
大人になってからそんなことってあるんだ!? 縁ってすごい。
とはいえ、私の仕事はあくまでも「繁忙期の神社のお手伝い」であって、年に数回だけ社務所業務のお手伝いをするだけの存在。言うならば「非常勤巫女」的な感じでしょうか……?
なのでちゃんとした正規の巫女さんとは別の存在なのですが、そもそも「ちゃんとした正規の巫女さん」って何だ!? 正規の巫女さんになるには、山奥で修行したりするのでしょうか(※妄想です)。
そんなわけで、長年気になっていた「正規の巫女さんになるには」「(正規の)巫女さんってどんな仕事なの」などの疑問を解決するべく神社へ行ってきました。
ご協力いただいたのは東京・押上にある「高木神社」さんです!
高木神社/鎮座地: 東京都墨田区押上2-37-9、御祭神:高皇産霊神(たかみむすびのかみ)
私が縁あって非常勤巫女をしていたのも、この高木神社です。
そんなわけで、高木神社の禰宜(※)である田中さんに話を伺っていきます。巫女さんの仕事って……なんなんですかー!?
※禰宜(ねぎ)……神職の職称(役職のようなもの)のひとつ。一般的には宮司の下位、権禰宜の上位にあたり宮司を補佐する
高木神社は御祭神として高皇産霊神(たかみむすびのかみ)を祀っていることから、”むすびの神”として崇敬を集め、それにちなんで近年は「おむすび」の神社として知られています
※取材は新型コロナウイルス感染症対策に配慮したうえで行い、撮影の際だけマスクを外しています。
巫女さんの仕事とは?
高木神社・禰宜の田中さん
「巫女さんには、神社では神職の補佐としてお仕事をしていただきます。主な役割としては御社殿で行う神事があり、神楽や舞を舞って神様に奉納するのが一番の仕事ですね」
「非常勤巫女と正式な巫女さんの大きな違いは、“舞や神楽をやるかどうか”って部分だったんですね。高木神社さんは普段から巫女さんが常駐している神社ではないんですよね」
「当社では年数回、神事やひな祭りや初詣など季節のイベントごとで忙しくなる時期に短期の巫女さんをアルバイトとして募集しています。観光地にもなっているような大きな神社ではない限り、当社のように普段は家の人間で業務を回しているような規模の神社が多いと思います」
「普段の人員じゃ手が足りない繁忙期に、非常勤の巫女さんを雇うんですね。非常勤の巫女さんは舞や神楽を舞うことはできないと」
「では、舞や神楽を舞うような巫女さんになるにはどうしたらいいんですか……?」
“正規の巫女さん”になるには?
「一般的に言うと、巫女さんは神社の神職の娘か、近親者の女性じゃないとなれないんです。あと『巫女』は男女雇用機会均等法の適用外の職業でして、男性は巫女にはなれません」
「神社の生まれ……いきなり壁にぶち当たった!」
「なので、一般の方が『巫女さんになりたい!』と明日から目指してなれるようなものではないんですね。何かしらの縁があって神社をご紹介いただくとか。あとは大学に行って資格を取ったら可能性は上がります」
「巫女さんの資格があるんですか!?」
「巫女さんの資格ではなく、神職の資格があります。神職資格取得課程を有している大学は限られます。関東なら國學院大學ですね」
「では大学に通って資格を取れば可能性が!」
「そうですね。ただ、紹介と受け入れ先の神社があってはじめてそこで働けるので、資格を取ったところで雇ってもらえる場所がなければ働けません。あと、大学で神職の資格取ろうってなっても、紹介がないと行けないので。
なので、『神職の知り合いや娘じゃないとなれない』というのが一般的な考え方です」
「大学も紹介がないといけないんですか?」
「大学に行けることは行けますが、例えば短期で資格を取る目的での通学には神社の紹介が必要なんですよね。一般の生まれで、大人になってから神職を目指すというのはかなり厳しいかと」
「巫女さん、狭き門だなぁ……。しかも巫女さんは定年が早いと聞いたことありますが本当ですか?」
「一般的には、20代後半が定年といわれています。でも40、50代の巫女の方もいます。ただ巫女装束は着ずに深緑色の袴などを着たり、神社の裏方のお手伝いをメインとした勤務になっていく可能性があります」
「そうですよねえ。だいたい社頭(社殿あたりのこと)で見かける巫女さんって10代20代くらいのイメージです」
「他にも巫女さんの定義として黒髪で、独身女性で……などいろいろありますが、絶対というものではなく、神社ごとに条件はあると思いますね。70、80代の巫女さんもいらっしゃるという話を聞いたことがあります」
「楓様だ……(※)。大人になってから正規の巫女さんを目指すのは難しいことがわかりました。でも誰でもなれるわけではないという部分に神秘性みたいなのも感じます」
※楓様……『犬夜叉』に出てくるキャラクター。桔梗様の妹。
「神社業界って結構狭いんですね。もともと自分もこの家の生まれで神職としてご奉仕させていただいておりますが、違う生まれでもできていたかといえば、できてないですからね」
「ちなみに大きい神社では神職さんとか巫女さんはたくさんいますけど、そういう方々も神社の生まれだったりするんですかね?」
「だいたい神社の生まれの方が多いと思いますね。あとは神社関係が本当に好きで志した方もなかにはいらっしゃるとは思いますけど。いずれも大学で資格を取って働いてる方が多いのかなと。
地方の神社の出身で、上京して東京の神社で神職になり、最終的には実家に戻って継ぐみたいな方もいらっしゃると思うし、そのままその神社でご奉仕を続ける方もいらっしゃると思います」
人気アルバイト!? 非常勤巫女になるには
「……以上が“正規の巫女さん”に関する話でしたが、それ以外のパターンでアルバイトで働くことも可能です」
「神社の生まれじゃなくても道があった。よかった!!! 」
「助勤とか非常勤の巫女さんって感じですかね」
「私が経験したような、社務所(神社の案内や祈祷受付などを行う事務所)のお手伝いなどですね。一般の方で可能性があるのはこちらの非常勤巫女さんの方かと思いますが、高木神社ではどのような形で非常勤の巫女さんを募集していますか?」
「年末年始の助勤募集の掲示を國學院大学に張り出させてもらっています。國學院には神職を目指している学生さんが多く通っているので」
「大学に掲示! 自分の通ってた大学でそんなの見たことないので、國學院ならではって感じします。私のときは神社の繁忙期前に仕事でやりとりさせていただいていて、『神社が好き・神社の知識がある』『日程の融通が利く』ことから声をかけて頂きましたよね」
「小さい神社だったらエリさんのように紹介などですかね。大きい神社だったらもっと募集している機会があるし、インターネットでも募集は見つけられます。各神社ごとに募集の条件はありますが、助勤で働きたい神社があれば神社のウェブサイトをチェックしてみるといいかもしれません」
「確かに年末ぐらいになると、大きめな神社のサイトで【年末年始の助勤募集のお知らせ】みたいな投稿が載っているのをよく見ます。非常勤巫女さんに憧れる人は神社の繁忙期前に神社のサイトをチェックしてみよう!」
編集部注:イーアイデムでも繁忙期前は巫女さんのお仕事をはじめ、神社のお仕事募集が掲載されますのでぜひチェックしてみてください!
巫女さんの仕事ってどうなの?
この記事を読んでいる方はきっと、巫女さんの仕事をしてみたかったり、仕事内容がどんな感じなんだろうと気になっている方が多いのではないでしょうか。巫女さんの仕事についても聞いていきます。
「巫女さんの仕事、大変そうですけど魅力的にも映ります。それって『神社で働ける』そして『巫女装束が着られる』という部分が大きいんじゃないですかね。少なくとも私はそうでした」
「自分も、袴を着ると気持ちがシャキッとします。伝統的な着物でもありますし、装束の力は大きいと思います。神社にいて、あの装束を着ている時は特に神職にしても巫女さんにしてもお手本になるような振る舞いをしないという気持ちになりますね」
「正規の巫女さんは自分で装束を着られるんでしょうね。私は全然自分で着れるようにならず、神社の家の方に手伝っていただいてましたが……。田中さんはどれくらいで装束を自分で着られるようになりました?」
田中さんと筆者。田中さんが身に着けているのは禰宜の浅葱(あさぎ)の袴
「小さい頃に剣道を習っていたので、袴はもともと着られたんです。装束の袖を通したときひさしぶりの感覚がしました」
「剣道が人生の意外なところで役に立っている……。剣道部や弓道部のみんなおすすめだぞ~!」
「神社でのお仕事は、はじめのうちは独特の言い回しに慣れないかもしれません。例えばお店ではないので、参拝客の方が来た時に『いらっしゃいませ』みたいな単語はまず使いません」
「そう! 独特の言い回し、神社によく参拝するようになって面白いな~と思った点でした」
「授与所では『いらっしゃいませ』ではなく、『おはようございます』とか『こんにちは』とか。
あとは帰る時も、『ありがとうございました』ではなく『ようこそご参拝下さいました』とか。『ご苦労様です』みたいな方もいらっしゃいますね」
「その辺の言い換えとかも、神社をよく知らない方からすると面白いかもですね。ほかのバイトと掛け持ちしてたりするとごっちゃになりそうです」
「神社には、あくまでも『お参り』に来ていただいていて、授与所でのやり取りも買い物とは違うので」
「田中さんも、最初は大変でしたか?」
「自分は神社を離れて別の仕事をしていた時期があることもあり、言葉に慣れるのは難しかったですね。『いらっしゃいませ』って言いそうになってしまったり。値段の表記も、『初穂料』ですから。神様にお供えする初穂の代わりにお金を頂くという認識です」
「お守りとかも普段はつい『買う』って言っちゃいますけど、本来は『買う』ではないんだろうなーとは思ってました」
「『受ける』とか『お分ちしていただく』ですね。神社のそういう言い回しも慣れない表現なので、最初はきっと難しく感じると思います。でも所作や言葉使いはこの仕事を通してきっと丁寧になりますよ。これはきっと、神職のメリットだと思います」
神社のコロナ禍の影響
巫女さんの仕事についていろんな話が聞けて楽しくも、以前訪れた頃から神社内に変化がたくさん見られ、コロナ禍の影響を感じていました。どの業界も打撃を受けていると聞きますが、それは神社も例外ではないようです……。
手水の代わりに社殿前に置かれたアルコール消毒液
「ひさしぶりに訪れて、手水や賽銭箱付近へのアルコール設置などコロナ禍の影響を感じましたが、高木神社ではここ数年で主にどんな変化がありましたか?」
「当社はありがたいことにたくさん参拝の方に訪れていただいているのですが、以前に比べると参拝の方々も少なくなりました。これはどこの神社もそうだと思うのですが。
今年はちょっと持ち直して、もともと来ていた方々が戻ってきた頃で、また情勢が悪くなってしまったので……」
御朱印は現在、このように書き置きのものを渡してくれます
「御朱印も今は書き置き(※)での授与なんですよね」
※書置き……帳面ではなく、あらかじめ紙に書いた状態のものを授与すること
「御朱印に関しても『なぜ書いてくれないの』と言われることもあるのですが、仮に新型コロナウイルス感染症に書き手が感染していたとして、書くことによってウイルスが御朱印帳に付着してしまい、広まる可能性がないとは限らない。
逆も然りです。考えすぎかもしれませんが、想定できる可能性は排除したいですよね」
「安心して参拝していただくためにも、神社としては不安は排除したいですよね」
現在使用できない手水舎
「今まで当たり前にできてたことができなくなっている。日々のことで言うと、手水ができない。不特定多数の方が触る鈴緒(参拝前に鳴らす鈴についた紐状のもの)も外しました。あとは御祈祷も、換気のため開けて、少人数で」
「だいぶ以前とは変わりましたね……」
「あとは節分の豆が撒けない、お祭りでは神輿が出せないとか。露店も出せません」
「手についたウイルスが、豆を撒くことで……という可能性と、人が集まって密になるから……。節分なのに、豆も撒けないんですね」
インタビューも撮影時以外はマスク着用、アクリル板設置、ちょっとわかりづらいですが距離を取っていました
「あとは町内の方がお祭りで御神輿出したりとか何もできないのでフラストレーションが溜まっちゃって。お祭りは街の人の楽しみや発散でもあるから。それができないのは神社としても苦しいですが、かといってこのご時勢、やるわけにも……」
「下町の方は特にお祭り好きですしね。御神輿職人さんの取材をした時も同じような話になりました」
「御朱印の方も戻ってきつつあったなかでの状況悪化だったので、これが二、三年したらどうなるのか……それは今はわからないですけど」
「お祭りの形も変わっちゃうかもしれないですよね……。現に節分で豆が撒けなくなっているわけですし。御神輿もみんなで担ぐことはしなくなるかもしれない。神社も、時代の流れについていくことを求められているんですね……」
「ですが悪いことばかりでもなく、地元の方がコロナ収束祈願に来ていただいたりとか」
「それはいいことですね! コロナ禍で“祈り”が見直されているんですねぇ。地元の方やそれ以外の方々にとっても、高木神社がいつまでもほっとできる場所であって欲しいです」
おわりに
神秘の職業なイメージの巫女さん。巫女さんになるには、生まれも重要な要素でした。
でも大丈夫! 一般の生まれでも、非常勤の巫女などで巫女さんを経験する方法はありました。例えばこの記事を読んでい読者のなかに巫女さんに興味がある学生さんがいたら、まずは初詣など繁忙期の神社で巫女さんを経験してみてはいかがでしょう。
かつて巫女さんになりたかったみなさんも、一般的な定年を超えた30歳で非常勤巫女さんを経験した自分のようなパターンもあるので、思い続けていれば思わぬことが叶ったりもします。人生……!
高木神社は東京スカイツリーのすぐ近くにあるので見上げた景色も最高です
繁忙期の神社は忙しくとも、参拝客が途切れたふとした瞬間、境内や社殿を見上げると心がほっとしました。忙しくないときは参拝の方とお話をしたり。
向こうは普通に自分のことを巫女さんだと思っているので、自分の行動次第で神社の印象自体を左右してしまう可能性があります。そのため緊張感もありましたし、自分も神社や日本神話のことについて勉強して臨みました。
神社に来る方は神社がお好きな方が多いので、そうした方々と神社や御朱印の話ができるのは楽しかったです。
そんな経験以外にも、神社には仕事や人間関係など、さまざまなご縁を結んでいただいた気がします。今は遠方の神社に行きたくても行きにくい状況ですが、世の中が落ち着いたらたくさん神社へ行こうと思います! お祭りができる世の中が、一日でも早く訪れますように。
撮影:飯本貴子
編集:鈴木梢